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【書籍化決定】冷遇令嬢の才は敵国で花ひらく〜実家侯爵家で壊滅的被害? 自分たちでどうにかしてください【26/3/1発売!ご予約受付中】 - 87.冷遇令嬢は視線で追われる
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87.冷遇令嬢は視線で追われる

険しすぎる表情のサウリュスに、そお~っと近づく。


細身の体躯から威圧的なものは感じさせられないけれど、あからさまな嫌悪感を隠すことなく、ブロムの絵画を睨んでいる。


わたしに挨拶をさせようとしたナタリアを手を挙げて制し、絵画とサウリュスの視線とを代わる代わるに眺めた。



「……下品だ」



と、サウリュスが吐き捨てるように呟いた。


だけど、明確にわたしに語って聞かせる声の調子だ。



――わたしが隣にいることには気が付いていたのね……。



苦笑いしながら、サウリュスに尋ねる。



「……どのあたりが、サウリュス殿のお気に召しませんの?」


「全部だ……」



取り付くしまのないサウリュスの横で、続く言葉を待った。


悪し様に罵りながら、サウリュスの険しい視線は絵画に釘付けだったからだ。



「……絵画とは神聖であるべきもの。この絵には神の栄光も真理もない」


「へぇ~」


「移ろいやすい人間の感情をキャンバスに留めて、いったい何の意味があるのか」



わたしたちの視線の先にあるのは、戦争の爪痕から立ち直ろうとする、たくましい女性の姿だ。


つらい過去と、それでも前を向こうとする希望が活き活きと描かれ、わたしなどは果物屋のおかみさんを思い出してしまう。



「……真の芸術とは、魂を高みに引き上げるものだ」


「へぇ~っ! ……クランタス王国の方の目には、この絵がそのように映るのですね」


「図像学や様式への理解も浅い。……こんなものは絵の具の無駄遣いだ」


「なるほど~。クランタス王から贈っていただいた聖像画は神秘的でしたものね」


「そうだ……」


「信仰心をかき立てられるとは、あのような絵のことかと感心いたしましたわ」


「このように俗なものを……」



と言うサウリュスの視線は、絵画の上を這ったまま離れない。


リレダルの画家が得意とする細やかな感情表現と、バーテルランドの画家が描く力強い物語性とがブロムのリサ様のサロンで融合した、新しい表現。


口では罵りながらも、この若く麗しい画家の心を捉えて放さないのだなと、そっとしておくことにした。



「……結局、あの画家。コルネリア陛下にひと言の挨拶もしませんでしたわ」


「ご自分の世界に旅立たれているのよ」



と、ナタリアをなだめる。


クランタス王が派遣したサウリュスは、末席の宮廷画家だ。


わたしが持つ青と緑の顔料の品質を見極めるのが使命だろう。聖像画を重んじるクランタス王国では、遥かな海を越えて輸入しているはずだ。


闘技会に足を運ぶと、エイナル様が監督してくださっている。


軽く手を振って、主賓席に腰を降ろした。



「はじめ~っ!」



と、審判の掛け声で、観衆が喝采をあげ、令息団のふたりが木剣で対決する。


高位貴族がわたしへの人質含みで近侍させた令息たち。当然、背景には領地があり、テンゲル王国内の地方がある。


観衆たちはそれぞれ、馴染みのある地の令息に声援を贈って盛り上がる。



「勝ち負けよりも、誠実に向き合う姿を民に見せてあげてくださいね」



と、わたしからは声をかけてある。


正々堂々と立ち会い、負けても勝者に賞賛を贈る。その姿が民に王政の刷新を印象づけるだろう。



「意地汚い勝ちっぷりより、爽やかな負けっぷりのほうが……、モテますわよ」



というカリスの囁きも効いている。


吹き始めた秋風に、若い令息たちの流す汗が眩しい。


年頃の女性たちの間では、令息ごとにファンが出来ていて、黄色い声が乱れ飛ぶ。



「誰のファンなの?」



という質問に、カリスはクールに笑うばかりだけど、ナタリアは熱心に応えてくれる。



「……いま負けた伯爵令息も捨てがたいですけど、次の侯爵令息もいいですわ」


「へぇ~、どのあたりがいいの?」


「弱いところですわ!」


「ぷぷっ。……そうなの?」


「懸命に努力し先日はあと一歩というところまでいきましたのよ? 今日こそは、初勝利をあげるかもしれませんわ!」



と、色っぽいナタリアが、なかなか通好みなことを言う。


そして、わたしの誕生日当日となり、天幕づくりの街は盛大な賑わいを見せた。


お祝いの声があふれる中を、手を振って歩く。


気恥ずかしいし、顔がにやけるのだけど、穏やかで平和なお祝いは、王都を訪れている者たちの口からテンゲル各地に広まる。


護衛をしてくれるルイーセさんたちの張り詰めた表情には申し訳ないけれど、新しい王政が始まったことを強く印象づけてくれることだろう。


沿道の人並みの中に、やっぱりムスッとしたサウリュスの顔を見付けて手を振る。


一瞬、表情の険しさを解いてくれたような気がしたけれど、プイッと天幕の中に戻ってしまった。


王宮では宴席が設けられ、リレダルからはユッテ殿下が駆け付けてくださった。



「おめでとう、コルネリア陛下!」


「ふふっ。殿下から陛下と呼ばれては、まだ少しくすぐったいですわ」


「私もだ!」



と、ふたりで笑い合いながら、バルコニーに出た。



「……エイナルの顔が見えんようだが?」


「各国の豪商に、テンゲルの貴族令息を引き合わせてくださっておりますわ」


「そうか。仕事をしているではないか、王配殿下は!?」


「ええ、頼もしいことです」



と言いつつ、エイナル様が隣にいてくれないことが、すこし寂しい。


秋の夜風にユッテ殿下のブロンズ色をした髪が揺れた。



「コルネリア陛下の祖母君はどうだ?」



宵闇に包まれ、無数のランタンが連なるように輝く幾重もの天幕の列を眺め、ユッテ殿下が遠慮気味の声で問われた。



「……ええ。まだ少し時間がかかりそうですわ」


「聞いたぞ? 太王太后の地位を求めてきたそうではないか?」


「ふふっ。……お耳の早いことで」


「父上も心配しておる。……祖母君がエルヴェンで不満なら、リレダルの王都で引き取っても良いと申されていた」


「リレダル王が……。もったいない、ご配慮です」



コショルーで幽閉される、祖母レナータ。


祖父コショルー公との協議では、わたしが身柄を引き取るということで話がついた。


ところが、エルヴェンに隠居所を設けて書簡を送ったら、本人が頑として動こうとしない。


つい感情的なやり取りになってしまった挙句、幼き日の母テレシアを城壁から投げ捨てた件を難詰すると、



――娘が母に命を捧げることなど当然ではないか。誰のお陰で生まれてきたのだ。その上、生きていたのに母を救けに来ないとは、とんだ親不孝者だ。孫娘のお前が妾に母親の償いをするのは当然のことだ。



と、書簡が返ってきて、さすがに冷却期間を置くことにした。


わたしも、かなり頭にきている。


まだ直接お会いできていないけれど、会えば怒りを爆発させてしまうかもしれない。


当然、太王太后の地位など与えられるはずもなく、枢密院からの賛同も得ている。


ユッテ殿下が眉を寄せ、薄く笑われた。



「……王族の地位を曖昧なままに置いておくと、良からぬことを企む者も出る」


「ご助言、痛み入ります」


「はははっ! 王族の先輩として、余計な差し出口であったかもしれんが……」


「いえ、そのようには……」


「ま……、早急にカタをつけた方がいいだろうな」



と、ユッテ殿下のお声には、変わらず高貴な威厳が備わっている。


大河伯就任に向けた諮問を検分していただいた時、おなじ王族として肩を並べる日が来ようとは思わなかった。



「な、なにをするのだ!? コルネリア陛下ぁ!?」


「あ……、つい思わず……」



ぷにっと、ユッテ殿下の丸くて可愛らしいほっぺたを指でつついてしまった。



「はは……、王族同士ならいいかなぁ~、なんて……」


「ずっと狙っていたのだな? 私のほっぺたを!?」


「えへへ……。大願を果たしました」


「これはもう、あれだな。私はコルネリア陛下の嫁にしてもらうしかないな!」



と、笑い合ったとき、細長いバルコニーの先に人影が見えた。


わたしの顔を認めてバツが悪そうに、長い体躯の先にある小さな頭をヒョコッと下げたのは、サウリュスだった。



「ユッテ殿下。こちらは、クランタス王国よりおみえの宮廷画家、サウリュス殿ですのよ」


「そうか! リレダルの第一王女、ユッテである。クランタスといえば大河の河口にあたる国であるな。会えて嬉しいぞ!」


「……どうも」



と、サウリュスが不器用な拝礼を捧げる。


そして、チラリとわたしの顔に目をやり、すぐにバルコニーから賑やかな大広間へと戻って行った。



「すみません、殿下。悪い人ではないのですが」


「はははっ! コルネリア陛下は面倒見がいいな。女王の身にありながら、他国の宮廷画家のためにまで頭を下げていたのでは身がもたんぞ?」


「ふふっ。そうですわね」


「なかなかの美男子だったではないか。コルネリア陛下に熱っぽい視線など送って」


「ま」


「エイナル王配殿下にやきもちを焼かせる作戦かぁ!?」


「もう。殿下のおませさん」



と、ほっぺたを、もう一度指でつついて、笑い合った。


大広間にもどり、各国の大使たちに挨拶して回る。


隅っこの壁にもたれ、不機嫌そうにワインをあおるサウリュスの視線が、ずっとわたしを追っていることに気が付いてはいた。

本日の更新は以上になります。

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 ハバアはもう『病』に罹ってもらうしかないんじゃないかなぁ?
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