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異世界でカラオケしたら問答無用で救世主です - グループで歌ってる曲はパートごとに声を変えてしまう11
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異世界でカラオケしたら問答無用で救世主です  作者: 夏野 夜子


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グループで歌ってる曲はパートごとに声を変えてしまう11

 その日から、毎日の予定にお祭りに向けての準備がちょくちょく入るようになった。


「おかえりなさい、リオ」

「ルルさんただいまー」


 まず最初の予定は相変わらず、カラオケという名の救世活動である。

 楽しく衣食住を保証された生活を謳歌するためには、やるべきことをやっておくことが重要だ。神様は義務感でやらなくていいと言っていたけれど、やっぱり毎日やっていた方が落ち着く。シーリースの状況も少しは良くなるかもしれないし。何も考えず遊ぶために私がやっておきたいことでもあるし、歌うことは単純に楽しくてスッキリするので最低1時間は歌うようにしようと思っているのだった。


「カゴをお持ちしましょう」

「ありがとう。重いよ」


 ルルさんが素早く私に甲礼をすると、引きずっていたカゴを引き取って背負ってくれた。イケメンは重たいカゴを2つ背負ってもイケメン。

 私がカラオケに励んでいるのは、何もこの世界の土地がいい感じになるようにという大まかな願いだけではない。


「今日も立派に育ちましたね」

「根っこが床にくっつこうとしてて大変だったよ」

「力の強い空間ですから、根付きたいのかもしれません」


 厨房を見たときに貰ったフコの種を発芽させたものを、奥神殿に持ち込んだら大変なことになったのである。

 元気に育つかなくらいの気軽な気持ちで持ち込んだフコの種は、ちょっと興が乗って4時間目に突入した頃爆発的に大きくなった。手のひらサイズの種が2メートルほどの木へ成長したのである。ぼぼーんと。植えられていた大きめの鉢を内側からブチ破り、根っこを縦横無尽に走らせて、繁った葉の間から花どころか実まで付けたのである。


 泡を食った私が扉から飛び出してルルさんに助けを求め、ロープを貰ってめちゃくちゃ重いフコの木をどうにかこうにか部屋から出し、白い石の廊下に泥や葉っぱを撒きながら急成長したフコの木は奥神殿から運び出されることになったのだった。

 ルルさんによると、神の力が1番届きやすい場所で私の歌という力も浴びまくったせいで、のびのびと、それはもうのびのびと成長してしまったらしい。ほんとにのびのびし過ぎていた。


 ぶっちゃけ怖かった。今でもあの植物が伸びるざわざわした音が忘れられないほどである。走る青ワニといい、異世界に来てから変なトラウマばかり作っている気がした。

 とはいえ、数時間で驚異の収穫量を誇ってしまったフコは、厨房などでとてもありがたがられた。大きくてツヤッツヤした実はもちろん、太く逞しく育った木も中央神殿にある中庭のどこかに植えられたらしい。


 フコはそのままで食べたり調理したりするのはもちろん、薄く切って乾燥させたり、それを更に粉にしたり、粉にしたものを捏ねて焼いたりして保存食としても使える。まだ災いの気配が残る地域へと配ったりするにはまだ十分ではないので、私は奥神殿でフコの実と苗の栽培も請け負うことになったのだった。


「この苗、救世主様の加護のあるフコだと巷では人気のようですね。他の実よりも食べると元気になるだとかで」

「えーそれ誇大広告にならないかな? 個人の感想ですって付けてほしいよね」

「外で育ったものより栄養が詰まっているのかもしれませんね」


 試行錯誤の結果、その辺にあるフコの木の枝を20センチほどに切ったものを、2時間以内のカラオケに持ち込むとちょうどいいことが判明した。枝が伸びてフコの実が15個くらいできる。大きなカゴに入れておくと、いい感じに運びやすいサイズになるのである。種は、どう頑張っても根っこが大きくなり過ぎるので枝。この枝も土に挿しておくと木に成長するらしい。植物すごい。


 カラオケならびに収穫作業を終わらせると、ご飯を食べてから巫女さん3人組に会うことが多い。お祭りの衣装とか進行の練習だとかそんな感じのことを色々手伝ってくれる人たちである。採寸とか裾直しとか、普通は巫女さんの仕事ではないのだけれど、シーリースの件があって神殿というか私にあまり外部の人を近付けたくないということもあって、巫女さんが請け負ってくれているそうだ。


 それが終わると、大体馬のパステルとメルヘンに会いにいく。

 馬に乗るのは結構難しく、慣れも必要だというので2頭とよく遊んで覚えてもらうのが目的である。

 最初は撫でたりオヤツをあげてみたり、手綱を持ってその辺を歩いたりするだけだったけれど、昨日から実際に乗ることになったのである。


「リオ、そんなに緊張しないで」

「シテナイヨ」

「上半身が不安定過ぎますね。肩の力を抜いてみてください」

「ヌイテルヨ」


 ピンク色のパステルに乗ってみると、視線がそこそこ高かったというのはまあいい。ゾウに比べたらほぼ地上くらいである。

 しかし、私のすぐ後ろにルルさんが乗っているのがいただけない。

 もうほぼ密着しているのである。

 太ももの裏にルルさんの脚がちょっと当たっているし、ぐらつくとルルさんの体に支えられるし、両側からルルさんの腕が伸びて手綱を握ってるし、斜め後ろからルルさんの呼吸が聞こえるほどである。


「ル……ルルさん……別々に乗ったらダメなのかな……」

「リオが乗馬の経験があるなら考えましたが、今の状況ではさすがに……それに、いつどこから狙われるかわかりませんから」


 ぽっくりぽっくりとパステルを歩かせているルルさんは、非常に真面目な声で答えてくれた。だよね。真面目な理由でこうなったんだよね。流石に馬の後ろにあの立派な屋根付きの鞍を乗せるわけにはいかないもんね。

 遠い目をした私の手を、横を歩くメルヘンがベロンと舐める。


「緊張しますか?」

「めっちゃするよね」

「どうぞお気を楽に。私に凭れかかってくださって構いませんよ」


 手綱を握っていたルルさんの右手が、私のお腹をぽんと押したせいで背中がルルさんにくっついてしまった。


「か、か、構うわー!!」

「残念です」


 渾身の腹筋で起き上がると、ルルさんがくすくす笑うのが聞こえる。

 このやろう、楽しんでやがる……。


 こうなったら精神の鍛錬に励み、どのような状況が起ころうともまったく動揺しない鋼の精神を育まねばならぬ。

 劇画調な決意をしていると、メルヘンがムラサキのたてがみを揺らしてムヒヒヒと鳴いた。なんだか笑われた気がした。






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