2、錬金協会の追放ざまぁ支援ガチャ
「ようこそ、錬金協会へ」
僕が連れて行かれたのは、冒険者ギルドの地下室だった。地下室というと暗いイメージがあるが、白壁の明るくて広い部屋だ。
階段を降りてすぐの左側には、大きな作業台と椅子があった。正面の奥には、大きな扉がある。広い部屋なのに、地下室にいた職員は二人だけだった。
「新人候補を連れて来たよ!」
派手なメイクをした金髪の女性が、大きな声で叫んだ。そんなに大声を出さなくても、職員には聞こえるはずだ。
「アナタの壺をこの台に乗せてください」
「はーい」
彼女が台に置いたのは、さっき僕に見せていた大きな土色の壺だった。僕は、壺を見ると、少しだけ気分が上がる。僕のスキルが『混ぜ壺』だからかな。
しかし彼女は、壺をどこから出したんだろう? 大きな壺が突然現れたように見えた。壺に関しては興味をそそられる。
僕は、この建物には一年間、ほぼ毎日出入りしていたけど、錬金協会に関わったことはない。冒険者ギルドに地下室があるなんて知らなかったな。1階の会議室っぽい部屋から、地下へ降りる階段があることも、さっき初めて知った。
僕がカウンター内に入るところを、幼馴染たちは見ただろうか。僕は顔を見られたくなかったから、周りを見ないようにしていた。もし彼らが見ていたなら、僕が金髪の女性に引っ張られていたことを、どう思っただろう。
いや、こんなことを気にしても仕方がない。僕は、パーティから追放されたんだ。あ、だけど、友達をやめたわけじゃないか。みんな同じ宿に泊まっている。宿の食堂で会ったら、僕は、どんな顔をすればいいんだろう。
「追放ざまぁ支援局のヤヨイさんですね。支援レベル10に到達しているので、交代可能です。少しお待ちください」
彼女が土色の壺を置いた台は、情報を読み取る魔道具らしい。でも僕は、交代するなんて言ってない。強引に連れて来られただけだ。
「新人候補のアナタは、これを持ってください。ヤヨイさんは引き継ぎのために、彼に仕事を教えてください」
僕は、銀色の楕円形の玉を渡された。手のひらサイズだが、見た目よりも重く感じた。ひんやりと冷たい金属だ。
ここの人達は、何も説明してくれないんだな。だけど僕には、話しかける勇気はない。
「職員さん、この玉は測定機よね? 彼には、いつも通りの仕事を見せれば良いんだっけ」
測定機? 何を測るんだ?
「ヤヨイさんは、普通に仕事をしてください。新人候補のアナタは、その玉をずっと握っていてください。それは魔道具ですから、アナタに合った壺を作り出すために必要な物です」
「じゃあ、キミ、行くよ〜」
彼女が台に置いていた大きな壺は、スッと消えた。どこに収納したのかと考えていると、また腕を掴まれ、強引に連れて行かれた。
どこに行くんだよ! と言いたいけど、僕には言えない。
◇◇◇
「キミの名前は? 私は、ヤヨイだよ」
「え、エドです」
「エドくんね。おとなしいよね〜。まるで私みたいだよ」
おまえのどこがおとなしいんだ? と言いたいけど、言えない。彼女はギルド前の広場で立ち止まると、辺りを見回している。
「不幸な冒険者が何人もいるね。ん〜、あの人にしよう。エドくんは何も喋らなくていいから、仕事の流れを見ててね」
僕は、彼女の後ろからついていく。嫌だと言う勇気もないし、さっきの壺をどう使うのか、少し興味があった。
彼女は、噴水のふちに腰掛けている若い男性に近寄っていく。長い時間うつむいて座っていたのか、服もかなり濡れているようだ。
「不幸な冒険者くん、ハッケーン!」
無神経に明るい声で話しかける彼女に、その男性は、イラついたようだ。鋭い視線を、なぜか僕に向ける。
「不幸な冒険者くんに説明するね。突然の追放って、ムカつくよね? 復讐したいよね? そんなキミを支援するのが、私達、追放ざまぁ支援局なのですっ」
「なんだ、錬金協会か」
彼女は、土色の大きな壺を見せて話を続ける。
「そうなのです〜。この壺は、魔道具なの。キミの不幸な話を聞かせて。それに応じてレア度が決まるよ。話が終わったら、ガチャを引くことができるわ。武器や防具そして魔道具の中から、不幸なキミが復讐するために役立つ物が得られるよ」
彼女は、僕に話したときと同じことを言っている。そういうマニュアルでもあるのだろうか。
「あぁ、勧誘されて入ったパーティなのに、3日で追放されちまったんだよ」
「それは、酷いね〜。追放理由は?」
「まぁ、女関係だよ。俺に、強そうとか言って媚びてきたくせに、ミッション終わりで部屋に行ったら、暴れやがってさ。普通、ヤらせるもんだろ? 俺のおかげで、ミッションクリアできたのに、ひどい女だぜ」
な、何? その理由……。
「男女のゴタゴタかぁ。ありがちだね〜。そのミッションで、何か消費しちゃった?」
「損害としては、タガーを失くしたくらいだけどさ。俺の心が深く傷ついたぜ。その女、別の男とデキてたんだぜ?」
「そっかぁ、辛いね〜。それに追放だと、新たなパーティ加入は10日間禁止になっちゃうね」
えっ? そんなルール、知らないよ。
「だろ? 悪い女に引っかかっちまったぜ。こんなもんで、いいか?」
男性がそう尋ねると、派手なメイクの女性は、オッケーのサインをしている。
彼女が土色の壺を左右にユサユサと振ると、壺が淡い光を放ち始めた。そして、壺の表面にはボタンがいくつか現れた。
「ガチャのボタンが出現したよ。どれか一つを押してみてね」
話をした彼は、壺に現れたボタンの一つを押した。すると、壺の上部から、カプセルが飛び出した。
カプセルが空中で勝手にパカっと割れて消えると、そこには、長剣が浮かんでいる。
「キミが引き当てたのは剣だね。それを使って復讐するも良し、売ってお金に変えても良いよ。以上、追放ざまぁ支援局でした〜」
「あぁ、たいした剣じゃねぇが、10日分の食費にはなりそうだな。じゃあな」
あれ? ケロッとしてる。ずっと長い時間、辛くて動けなかったんじゃないのか?
「エドくん、これで終わりだよ。錬金協会に戻るよ」
「あ、はい」
「はぁ、あーいう人が多いのよ。別に落ち込んでるわけでもないのに、私達が近寄っていくのを待ってるんだよ。でも、中には、本当に苦しんでいる人もいるんだけどね」
彼女は、持っていた壺をパッと消すと、冒険者ギルドの建物へと歩き始めた。