刃速の巨王蛇 2
「弱点は頭と正反対! 尻尾の先だ!」
刃速の巨王蛇は蛇らしくジグザグやうねうねやら、訳の分からん動きをしていた。
だけどそれは心臓である尻尾の先を守るためだとすれば見えてくる。
尻尾をオレ達の前に出さないように、とにかくがむしゃらに動きまくるんだ。
「わかったわ! 尻尾の先ね!」
「だったら俺が牽制する!」
ネリーシャが走って、ドウマさんが刃速の巨王蛇の邪魔をするように立つ。
ドウマさんやネリーシャの全身から血が流れているし、あまり時間はかけられないな。
頭痛と吐き気をこらえて、オレは更に集中した。
蛇腹剣を振りながら、オレも刃速の巨王蛇に迫る。
二重、三重と斬りつけるだけじゃない。
「どっち見てんだ蛇助!」
蛇腹剣の先端が刃速の巨王蛇の死角から刺さる。
また振ると蛇腹剣が抜けて、次の動きを始めた。
こいつも自分と似たような動きをする武器は初めてだろうな。
オレは蛇腹剣の刃の動きを耳で捉えて、自在に操ることができた。
斬る、突く、薙ぎ払う。それが同時に行えて、追撃までのラグがほとんどない。
常に動き続ける刃の音を拾い続けることによって現在の軌道を把握、そして修正できる。
事実上、無限の攻撃パターンを生み出せるわけだ。
ガントムさん、あなたにはいい仕事をしてもらった。
しなる刃が弧を描くと同時に、刃速の巨王蛇に多段ヒット。
刃速の巨王蛇に幾重もの傷を負わせた。
「す、すげぇ……!」
「グラントさん、隙が生まれたぞ!」
「おう!」
音を聞いているとよくわかる。
明らかに刃速の巨王蛇の動きが鈍っていた。
振動音と風の音が一瞬だけ途絶えたところで、グラントさんにアドバイスができたからな。
剛力持ちのグラントさんの斧がクリーンヒット、刃速の巨王蛇から血が噴き出した。
だけどこれじゃいつまで経っても致命傷にならない。
先にオレ達の体力が尽きて終わるのがオチだ。
エフィのケットシーの回復がなかったら今頃は全員死んでいたかもな。
「ルオン! いけぇ!」
「ありがとう! グラントさん!」
グラントさんの一撃で刃速の巨王蛇がかすかに怯んでくれた。
ジャンプして刃速の巨王蛇の背に乗ったオレは走り出す。
オレを振り落とそうとまたがむしゃらに動くけど、それも制限されていた。
「させないわ!」
「俺達がちょろついて目障りだろ!」
ネリーシャとグラントさんが傷つきながらも牽制してくれていた。
オレは背を走って尻尾の先を目指す。
ようやく尻尾の先が見えた時、ぐるんと刃速の巨王蛇の体が反転した。
「届く!」
落ちる直前、蛇腹剣を振ってその先端が尻尾の先にぶっ刺さった。
「ギィアアアァァーーーーーーーーー!」
痛みで暴れる刃速の巨王蛇にオレは振り回された。
絶対にこの蛇腹剣を手放すわけにはいかない。
振り子みたいになってるオレに限界が近づいている。
だってずっと頭痛と吐き気を堪えているんだからな。
「うぷ……」
尻尾の先から蛇腹剣の刃が抜けたと同時にオレは地面に投げ出された。
体を打ち付けた痛みに悶えながらも、俺は必死に堪えている。
「きっつ……」
クソ、想像以上にきつい。
こんなことをしている間にもあの化け物は――あれ?
やったのか?
「……し、静かになったわね」
「討伐できた、のか?」
グラントさんとネリーシャが動かなくなった刃速の巨王蛇に近づく。
二人が色々と観察をして調べている間にオレはなんとか気持ちを落ち着かせた。
み、水。水を飲もう。
「ふぅ……。あー、しんど……」
「ルオン君! ぶっ殺したよ!」
「オレをか?」
「ち、違うって! 刃速の巨王蛇だよ!」
エフィがオレに告げた通り、どうやら討伐は終わったみたいだ。
辺りを見回すと見事に森がぐちゃぐちゃだ。
こんな化け物がいたんじゃ生態系もクソもないな。
だからこそ冒険者が必要とされるんだろうけど。
確認を終えたネリーシャ達がオレのところへやってきた。
「ルオン君、大丈夫?(つらそうね……。すぐに休ませないと)」
「まったく大丈夫じゃない……」
「お手柄どころじゃないわよ。出会った時とは別人みたいな動きをしていたわ(成長したというより、進化したといったほうが正しいわね)」
「蛇腹剣のおかげかな」
こいつは思った以上に、いや。怖い位にオレに馴染む。
銀貨二枚でいいのかと思うくらいだ。
オレが蛇腹剣を見つめていると、サーフが俯いている。
ケットシーのおかげで死なずに済んだみたいだ。
色々と思うところはあるだろうけど、辛気臭いのは後にしてくれ。
「ルオン……。その、悪かった」
「サーフ、そういうの後にしてくれ」
「お前は命の恩人だ、言わせてくれ。お前がいなかったらオレは死んでいたんだから……」
「それを言うならオレがいなかったら、あんたも無茶しなかっただろ。後にしろって」
優しく言ったけど、これは猛省したほうがいい。
本来なら死んでいてもおかしくなかった。
恩を着せるつもりはないし、あまり引きずられるとこっちも面倒だ。
ネリーシャに惚れているならオレなんかに構わないで、勝手に告白してくれ。
なんていうか、サーフは軽薄そうに見えて案外一途だ。
どこかの幼馴染も見習うべきだな。
今頃、ラークと仲良くやってるのかな?
「ルオン君はそこで休んでいて。刃速の巨王蛇の素材を確認して採取するわ」
「あぁ、ここで見ているよ」
ネリーシャ達が刃速の巨王蛇の解体作業を始めた。
本来ならオレも手伝うべきなんだろう。
疲れて傷ついているのはオレだけじゃないからな。
でもここはルーキーってことで甘えよう。
終わった頃には日が沈みかけていた。
「ふぅ、あと少しでも戦いが長引いていたらやばかったな。それもこれもルオンのおかげだ」
「グラントさん、今日は野営して帰りは明日にしましょう」
「そうだな。ルオン、立てるか?」
グラントさんに言われてオレは立とうとした。
だけどふらついて、近くに木にもたれかかってしまう。
「危ないわ。野営地まで私がおんぶしてあげる(こういう時、新人を労わらないとね)」
「いや、遠慮するよ」
「ダメ」
「ちょっ……」
ネリーシャがオレをおんぶした。
見かけによらず、とんでもない体力だ。
ここまでされて断ったところで意味がない。
ないんだけど、サーフの視線が少し気になるな。
(本当は俺がおんぶしてやるべきなんだろうな。ネリーシャ、ありがとな)
なるほど。嫉妬はない、と。
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