オレの生き方が理想? マジで?
エルドア公爵。国王の末弟にして王国軍事機関の一つである【ヒドラ】の総司令。
ヒドラは王国騎士団とは独立した治安維持部隊らしい。
裏の王国騎士団とも言われていて、その戦力だけで他国からも恐れられているとも聞いた。
というのがヒドラに対する一般的な知識だ。
オレが村にいた時に聞いたことがある。
裏では諜報や暗殺を行っており、王国に仇成す者はほぼすべてヒドラによって消されている。
別名、特殺隊。その名で呼ぶ人も少なくないそうだ。
親父もヒドラの話はよくしていたな。
あの戦争を終わらせたのがヒドラだとか、奴隷解放宣言がされた時はヒドラが暗躍していたとか。
その際に解放された女の奴隷を抱き込んでいるから、ヒドラは女に困ってないだの言いたい放題だった。
そのうち消されてしまえばいいのに。
「そのヒドラがわざわざオレを誘うんですか? 何かの冗談では?」
「冗談でわざわざ訪ねたりしないよ。私は一目で君が気に入った(さて、難しそうだが勧誘できるかな?)」
うん、冗談じゃなくて本気みたいだ。
百歩譲って耳兜に興味を持つのはわかる。
オレだってこんなもんつけて歩いてる奴がいたら、頭がどうかしてるのかと思うよ。
だけどわざわざ鍛冶屋の揉め事を見た後で訓練場にまで足を運ぶほど暇じゃない。
単純に考えればヒドラが実は人材不足とか?
(こいつ、エルドア様から勧誘していただいておいて冗談だなんて!)
うん、こういう獰猛な護衛の女の子がいる時点でその線は考えられる。
初対面の人間にこうも憎悪を抱けるなんて、まともじゃない。
エルドア公爵も、こういう人材を切りたくてしょうがないのかな?
「じゃあ、本気ということですけどお断りします」
「決断が早いね(やっぱり手強そうだな)」
「自分の人生は自分で決めますし、何よりどこかに所属して縛られるみたいな生き方は嫌なんです」
「しっかりしているね(なるほど、そういうタイプか)」
そういうタイプか、じゃないんだって。
オレみたいなのも想定済みだなんて、しっかり年季入ってるじゃん。
冒険者をしていたらヒドラから勧誘されたなんて、耳兜だって予想してないよ。
こりゃまいったな。
ヒドラおじさん、じゃなくてエルドア公爵がガチでオレを勧誘しようとしてるなら逃げ切るのは難しいかもしれない。
「特に出世みたいなのには興味ないんです。オレはできるだけストレスなく楽しく過ごしたいんですよ」
「貴様ッ! さっきから無礼だぞ!」
「ちょっとエルドア公爵。この子、さっきからずっと睨んでくる上についに怒り出したんですけど……」
「エルドア様! このような無礼な奴などヒドラには必要ありません!」
護衛が反対してるじゃん。
こういうのって普通は二人して意識や意見をすり合わせておくものじゃないのか?
元々勧誘を受けるつもりはないし、ましてや組織の人間からここまで嫌われているなら尚更だ。
気が合わない人間と関わりながら生きていくことほどバカらしいことはない。
「シカ。私は彼の気質が気に入ったのだよ。仲良くできないなら、それでいい(やはりまだ未熟だな)」
「お言葉ですが、エルドア様。こういう奴は組織の和を乱します。集団で行動するのに向いてません」
よくわかってるじゃん。
組織に所属するということは組織の一部になれということだ。
組織の理念に共感して、組織の決まり事を守らなきゃいけない。
自分は二の次だ。自分を優先する奴なんてどの組織も欲しがらない。
つまりオレみたいなのは頼まれても、どこの組織だって受け入れてくれないはずだ。
「ルオン君。勧誘は一度、諦めよう。しかしヒドラ自体は君にとっても有益だ。そう、私は君に依頼しようか(相手にとってもっともメリットがある提案をする。この手の人間はまずこれで手を打つのが定石だ)」
「オレに依頼ですか?」
「ルオン君、君にヒドラで戦闘訓練を受けてもらいたい(まぁ断るだろうな)」
「お断りします。それって組織に所属するのと変わりませんよね?」
断られるとわかっていてこんな依頼をしてきたのか。
じゃあ、次の手も考えてあるな。
「私が報酬を支払って君に訓練をしてもらうのだよ。君が報酬を支払うのではない。これはいわゆる君への投資だよ」
「……意図を教えてもらえますか?」
「君という人間に興味を持った。恥も外面も気にせず、あらゆる手段で戦う君にね。君のような強い人間が私は大好きなのだ(このルオンはこれからの時代に必要なものを兼ね備えている。だったら模範となってもらうのも悪くない)」
「オレは弱いですよ。だから恥や外面なんて気にしてないんです」
「君はこれから先、この世界がどうなると思う?」
いきなり質問のスケールが大きくなってさすがに戸惑う。
どうとでもなってもいいように、オレは生きるだけだ。
「今の文明のまま栄えるかもしれないし、発展するかもしれない。衰退、もしくは滅亡するかもしれない。例えば食糧危機になったとしたら、多くの人々はどうなると思う?」
「困りますね。特に大きな町で文明に頼っている人達は阿鼻叫喚だと思いますよ。奪い合い、物乞いが大流行します」
「そうなるだろうね。まぁ一部の既得権益者は儲けられるだろうが……。でもルオン君、君ならそんな状況でもおそらく生きられるだろう」
「どうでしょう。確かにそうなった時のために、色々と知恵と技を磨いてますけどね」
「そうだろう。私はそれこそが今の人々に必要だと思っている」
このエルドア公爵、やばいな。
オレのことを最初から見透かしていて、うまく誘導された気がする。
「だから私は冒険者の生き方は理にかなっていると思う。彼らは劣悪な環境でも、ある程度は生きられるのだからね(今は比較的、平穏な時代だ。だがいつどうなるかわからんからな)」
「確かに野営なんかはまさにそれですね。食べるものは狩りをして調達できます」
「君は理想の人間だよ。褒めて持ち上げているわけじゃないが、そんな君に少しでもヒドラの技を授けてみたい(この子がどこまで強くなるのか、単純に知りたいだけでもあるがな)」
「そういうのって秘密じゃ? オレ、口封じされません?」
「さすがのヒドラも、とって食わないさ(ヒドラ=暗殺というイメージが根強いな。そこまで間違ってもいないが……)」
要するにオレが生きて歩くことで、オレを見習う人が一人でも増えればいいってことか?
心の声を聞く限り、変な下心はないように思える。
オレの理想の人生はストレスなく静かに暮らすことだ。
この依頼はたぶんだけど一筋縄じゃいかない。
ハッキリ言って断りたい。
だけど今のオレに理想を語れるほどの実力があるか?
刃速の巨王蛇で思い知っただろう?
今のオレはあまりに弱い。
貴族様なんかと死ぬほど関わりたくないけど、少しだけ歩み寄ってみよう。
「報酬額はいくらですか?」
「一日で銅貨二百枚。最大半年で銀貨五十枚を支払おう(一日でも耐えられるか見物ではあるな)」
「……さすがにおいしすぎません?」
「君がいくのはヒドラの腹の中だ(消化される前に救出してやるがね)」
はぁ、そりゃあのヒドラでの訓練なんだから並大抵じゃないか。
ストレスは嫌だけど、得られるものがあるかもしれない。
エルドア公爵が言うように、これから先は必要とされる技術が多くなるかもしれない。
魔物なんてものがいるご時世だ。
理想の暮らしを実現するには必要かもしれないな。
いざとなったらギブアップすればいい。
「わかりました。引き受けます」
「ありがとう。では急で申し訳ないが明日、出発でいいかな?」
「本当に急ですね」
「魔道馬車はこちらで用意しよう(おそらく見たことないだろう。驚くぞー)」
「まどーばしゃ?」
王都までの旅の費用なんかは負担してくれるというから助かる。
翌日、魔道馬車とかいうのを見てオレはさすがに驚愕した。
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