オレがほしかったやつ
エルフの里での暮らしが始まった。
今はノエーテ親子の家に住まわせてもらっているけど、無料なのはオレの気が済まない。
家事全般はできるだけ率先してやるようにした。
掃除、洗濯、料理。とまでいきたかったけど、料理は荷が重い。
オレの料理なんて自分と悪食のクソ親父に食わせるなら問題ないけど、エルフの舌を満足させられるわけがない。
住まわせてもらっておいてクソまずいものを作るわけにはいかなかった。
親父みたいに落ちている食べ物は二日までOKなんてルールが適用されているはずがない。
あれでいて一度も腹を下したことがないんだから、もう野にでも放っちまえばいい。
早朝起床、せめて朝食の準備を手伝う。
朝食は食べる前に「すべての恵みに感謝を」と言わなければいけない。
どんな食料でも自然から与えられたものという考え方を大切にしているみたいだ。
食べ物だけじゃない。
毎日、元気で生きられるのは自然があるからと考えている。
新鮮な空気、作物、川、天候。
すべてに恵まれているからこそ、今日も生きられる。
素晴らしい考えだ。
だからエフィに対しては寝坊なんて許さない。
布団を引っぺがしてでも起こして手伝わせる。
その際に寝ぼけながら聞いたこともないような悪態をついたけど、甘えは許さん。
オレについてくるならオレに合わせてもらう。
もちろん起床後は自由だ。
オレはオレでロイドさんと一緒に行動するけど、さすがにそこまで強制しない。
何もしないならそれでよし。
まぁオレとしては何かしら学んでほしいけどな。
いざという時に役立たないのは困る。
「ルオン。その剣は誰に打ってもらった?(エルフの歴史でも、絶対に作らん類の武器だ)」
「メルさんが興味を示すなんて意外ですね。これはガントムという鍛冶師に打ってもらったんですよ」
「ガントム……もしや名工ガントムか? 聞いたことがある」
「え? ホントに?」
「数々の英傑クラスの武器を作った宮廷鍛冶師……。しかし突如として辞めて、今はどこかに隠居していると聞いた」
とんでもねぇ。
できる鍛冶師その一とかやってるおっさんがまさかの元宮廷鍛冶師。
宮廷鍛冶師でいたほうができる鍛冶師でいられたんじゃないか?
「それは生物を徹底して痛めつけて命を奪うことに特化した武器だな。正直に言って私は好きじゃない(エルフの倫理観としても許されないだろう)」
「でもガントムさんのことは名工と認めているんですよね?」
「もちろんだ。思想は相容れないが、その技術は好きだ。自然と共に生きる我々エルフとしては、命を奪う以上の付加価値がある武器は受け入れがたいがな」
「わからんでもないです」
わからないでもない。つまり半分はわからない、だ。
エルフという種族を貶めるわけじゃないけど、命と天秤にかけたら何が大切かなんて明らかだ。
広い世の中において、綺麗な武器でどうにかなる相手ばかりとは限らない。
だったら少しでも苦しんでもらって、オレが生き延びる確率を上げるほうがいい。
ただこうやって思想の違いはあれど、互いを認め合うっていいものだな。
これって簡単なようで実はすごく難しい。
オレも親父が親じゃなかったら、たぶん近づくこともなかった。
親父のすべてを認めているわけじゃないからな。
「メルさん。今更ですけど、ついていってもいいんですか?」
「構わない。ただし手取り足取り教えてもらうことは考えないほうがいい(そんな甘えた奴には見えないがな)」
「わかりました。じっくりと観察します」
メルさんについていくと、里を離れてどんどん森の奥へ入っていく。
背負っているのは弓で、腰には矢筒だ。
そういえばエルフといえば魔法のイメージだけど、メルさんは使わないのかな?
聞いてみたいけど、なんでも教えてもらうことは考えないほうがいいって言われたばかりだ。
貴重な質問枠をこんな下らないことで消費するわけにはいかない。
「ルオン。お前、木登りは得意か?」
「多少は……」
「ではあの木を見ろ。登れると思うか?(無理だろうな)」
「無理ですね。手で掴めるところがほぼありませんよ」
メルさんが指した巨木には突起部分がほぼない。
それに見上げても頂上が見えないほどの高さだ。
オレがいた村の周辺の山にも、こんな木はなかった。
メルさんがニヤリと笑って、これみよがしに巨木に向けて歩いた。
すると、どうだ。
手で巨木を触り、するすると上がっていく。
オレは魔法でも見せられているのか?
どこに掴む場所があった?
間もなくして仕上げとばかりに木の枝を掴んで前転の後、木登りが完了した。
木の枝に立つメルさんが凛々しく、オレは言葉がなかった。
「どうだ? 我々エルフからすれば、登れない木などない。それは自然をよく理解しているからだ(この程度で驚くとは、人間はなかなかかわいい)」
「ちょっとなにを言ってるかわかりません」
「木を見れば、ほんのわずかだが手をかける部分が多くある。目には見えにくくてもな(この程度の木を登れないエルフはいな……ノエーテ以外にはいない)」
しっかり心の声ですら訂正するほどノエーテはダメか。
確かに道中で脇腹が痛いだの、運動とは無縁の奴だったからな。
姉のメルを見ていると、ますますノエーテが残念に思える。
せっかくこんな素晴らしい環境で生まれてきたのにな。
でもあいつは魔道具作りに夢中だし、それならそれで応援してやればいい。
もちろん自立した上でな。
「ルオン。お前がほしいのはこういう技術だろう? これは戦いでも役立つ(む、遠くにバーストボアがいるな。今夜の食事は決まった)」
「でもちょっと自信ないですね。人間のオレにできますかね?」
「エルフと人間にさほど身体能力の違いはない。問題はやるか、やらないかだ(多くの者はやらずして諦める。嘆かわしいことだな)」
「いいこと言うじゃないですか。やりますよ」
確かにいくら動きや呼吸を身に着けても、地形に応じて動くスキルは必要だ。
もし森の中でエルフと戦ったら、オレは確実に負ける。手玉に取られて終わるだろう。
そう考えると巨木の枝から見下ろすメルがちょっと怖い。
もしここからオレの命を狙ったとしたら、ほぼ確実に仕留められると思う。
それを見透かしたかのようにメルが少し笑った。
「お前も油断ならないな。ここから敵が襲ってきたら、などと考えているんだろう?(立ち位置や重心が、素人のそれではない)」
「そりゃこっちだって死にたくないですからね」
「いいぞ。やはり私の目に間違いはなかった」
メルが軽快に木から下りてきた。
下りる際は別の木の枝に飛び移りつつ、最終的に地面に着地。
その動作には一切の無駄がない。
たぶんレイトルさんから教わった最小の動きなんてのは、すでに身に着けているんだろうな。
「それと私に敬語は不要だ。名前もメルでいい」
「わかったよ、メル」
「凄まじい適応力だな。感心するぞ(え、でも……などのワンクッションがない)」
「それほどでも」
なんとなく敬語を使うほど、敬意を表するに値する人間だ。
ノエーテ、お前は立派なお姉ちゃんを持ったよ。
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