エルフの里への感謝と別れ(第二章終了)
グランディース戦後から二ヵ月が経過した。
マジで忘れかけていたけどオレがここに来た目的はエルフ達の技術を習得することだ。
この滞在期間でずいぶんと教えてもらえたように思う。
メルからは狩猟と野営、ドマおばさんからは料理、ノキアさんから薬の知識。
こんなものは長いエルフの歴史の中ではごく一部に過ぎない。
まだまだ学ぶべきことはあるだろうけど、すべての技術を習得するなんてオレが百年生きたって無理だ。
オレにとっては長い人生、エルフの里で一生を終えるつもりはない。
そんなわけでそろそろ旅立ちを検討している。
オレはまだ色々なところを見て回って、知識や技術を身につけたい。
オレの親父も若い頃はふらふらと色々なところを歩いたと言っていた。
酒を飲んだまま裸になって路上で寝ようが衛兵に捕まろうがあの歳まで生きてこられた。
露出魔として知名度が上がったせいで町を叩き出されても生きてこられた。
死ねばよかったのにと突っ込みそうになったけど、そうするとオレがいないことになるからやめた。
ああ見えてオレの何十倍も生きる技術を身に着けている。
決して尊敬はしたくないけどオレも親父に負けないように、たとえ裸になっても生きる力をつけたい。
それとカロのことは結論から言うとドドネアさんでもわからないらしい。
そもそも自分の力を遥かに上回る魔女が作ったものをどうにかできるかとふてくされてしまった。
ごもっともだ。
「メル。オレ達は明後日、里を発つよ。長にも伝えた」
「そうか。お前には妹のノエーテが世話になったな。そういえば採取依頼の報酬は受け取ったのか?(絶対忘れているだろう?)」
「どちゃくそ忘れてたわ」
「私がノエーテから預かっている。渡しておこう」
本気で忘れていたけど、メルから依頼の報酬を受け取った。
無職の分際で報酬なんか払えるのかと思ったけど、里でしっかりと働いているようだ。
ということはあいつ当初は踏み倒す気満々だったんじゃないか?
「自分で渡せばいいのにな」
「自分で渡すのが恥ずかしいのだろう(まさか我が妹にも春が来るとはな)」
「いや、仕事の報酬を渡す行為に恥ずべき点が見当たらないんだが?」
「ルオン、お前は鋭い奴だがまだまだ子どもだな(当面のライバルはあのエフィとかいう娘か。しかしノエーテの前では塵芥に等しい)」
なんかわからんが塵芥扱いされてるぞ、エフィ。
食後に即ソファーで寝ている場合じゃないかもな。
春がくるわエフィが塵芥になるわ、エルフの考えはよくわからんな。
オレは子どもだから何もわからない。しょうがない。
「んーー……むにゃ……ルオン君がぁーーーー!」
「気持ちよさそうに寝ているな(この幼子のような寝顔を見ているとよくわかる。ノエーテの敵ではない)」
「こいつの夢の中でオレはどうなってるんだよ」
うるせぇ寝言だな。
誰か寝室に運んでやれよ。邪魔だろ。
食後、メルの母親がテーブルに人数分のティーカップを置く。
父親が椅子に座り、エフィの寝顔を覗き込んだ。
「エフィ君は寝ているのか。仕方ないな(食べてすぐ寝るか。まるで動物だな)」
「メル、寝室に運んであげなさい(ひとまず邪魔者は消しておきましょう。これでルオン君とメル、私達と完璧な布陣よ)」
「いや、オレもそろそろ寝るよ」
なんか着実にフォーメーションが組まれつつあるんだが?
恐ろしい何かが発動しそうな気がする。
オレの膝の上で寝ているカロをおんぶしながら寝室へと退避した。
* * *
オレが里を出ようと思った理由はもう一つある。
率直に言うとオレがグランディースに向けて作った薬がすこぶる好評だ。
エルフ達の間では狩りで効果抜群だと噂になって、連日のようにノキアさんがオレを弟子にしたくて勧誘をしてくる。
最後の挨拶周りの時、ノキアさんが付きまとって来るんだわ。
「あなたの才能は世のために活かすべきですわー!(わたくしの名が歴史に残ること間違いなしですわ!)」
「オレのために活かすよ。ノキアさん、世話になったな」
「勝手にお別れのムードに移行しないでくださいます!?(少しも葛藤しないですの!?)」
「だってエルフの里に訪れた人間達まで興味を示し始めてるじゃん。レシピだけ渡すから勘弁してくれ」
引き止めてくるノキアさんがしつこい。
グランディースに向けて作ったものだから、その後のことを考えてなかったんだよな。
どうかオレのことは忘れてそのレシピを適当に役立ててくれ。
考案者のことは一切思い出さなくていいからさ。
しがみついてくる小柄なノキアさんをずるずると引きずって歩いていると、ノエーテが前に立っていた。
「ルオン……(い、言え! 私ぃ!)」
「最近がんばってるみたいじゃないか。その様子だと自立できそうだな」
「なぁんてぇ!?(まさか褒めてくるとは! ルオンのくせに!)」
「じゃあな」
「それで終わるの!? もう少しなんかあるでしょ!(ルオンのくせに!)」
ノエーテが追いかけてきてオレにエクステンデッドを見せつけた。
こいつのおかげでグランディースに薬が効いたようなものだ。
最初の魔道銃と比べて精度と威力が段違いで、オレの薬なんぞよりこれこそ流行るべきだろう。
「これ、あんたのおかげで完成できた! ありがと!(言えたぁーーーー!)」
「そうか、よかったな」
「顔まっか」
カロがノエーテを指している。
なんだ、どうしちゃったのかな? 少し黙っててくれるかな?
「ルオンに顔まっか」
「そ、そそそそそぉれがどうしたのさぁーーーー!(伝説の魔獣風情がぁーーーー!)」
そうだぞ、それがどうしたんだ。
だけどノエーテはどうも疲れているみたいだな。
顔が赤くなるほど動いたんだもんな。
オレと立ち話をしている場合じゃないから休もうか。
* * *
「お前の活躍は未来永劫語り継がれるだろう」
「長、それやめてって言ったよね?」
エルフの里の皆がオレ達を見送ってくれるようだ。
メルとノエーテ、二人の両親、ドマおばさん、ノキア、ルパ。
その他エルフ達が大袈裟にずらりと立っている。
「ルオン、できればお前に弓を仕込みたかった(決して優れた体躯ではないが、狩人として必要なものを持っている)」
「ルパさん、初めて会話した気がするよ。オレにそこまでの素質はないんじゃないかな」
「お前なら的確に獲物の嫌な位置を狙うだろう。私にも想像できないようなところをな(獲物は急所だけ狙えばいいというものではないからな)」
「オレの評価がえらいことになってる」
ルパの隣でメルがうんうんとか頷いてやがる。
こんな遥か年上のエルフにまでそう言われるとはね。
だけどやってみた感じ、オレに弓は向かない気がした。
うまく言えないけど、なんかまだるっこしいというか。
とてつもない集中力を要するから、撃つ間にこれだったら他に方法あるよねとか考えちゃう。
だから買い被りすぎなんだわ。
そんなルパの隣からノエーテの父親が出てくる。
また下らんことを言いに来ただろ。そうだろ。
「ルオン君、そちらのエフィ君とはどのような関係だ?(恋人ではない恋人ではない恋人ではない)」
「オレについてきてる奴だよ」
「……えっ?」
どんな答えを期待したんだ?
仲間だの相棒だの言っておけばよかったのか?
そのエフィが否定せずにカロと戯れてるんだから受け入れろ。
「つ、ついてきているだけか! そうか!(確かにあのポンワリ少女が恋愛など考えられんな!)」
「そうそう、だからもう二度とクソみたいな邪推しないでくれ」
ポンワリ呼ばわりされてるぞ、エフィ。
カロを肩車して遊んでるけど意外と力あるな。
「ルオンさん、あのレシピはわたくしが調合したことにしますわ(プライドが許せませんわ!)」
「ノキアさん、そうしてくれると助かる」
「とある旅人がもたらしたレシピということにしますわ。これでいいかしら?(よくありませんわよ! ありませんわー!)」
「そうしてもらえると助かる」
ひとまずこれでオレの秘匿性は保たれたよな?
それなら安心して旅立てるな。
長や里の皆と一人ずつ握手を交わしてようやくお別れだ。
「長、世話になった」
「達者でな(不思議な奴だ。これからがある意味で楽しみだな)」
次の目的地は最寄りの町だ。
当面の心配は食費が一人分増えたことかな?
なんかいかにも食いそうでかなり心配なんだが。
「カロちゃん、次の町に着いたらマウンテンパフェを食べようねぇ」
「カロ、マウンテン食べる!」
金はあるが散財は許さん。
なんで次の町にそれがあると確信してるんだよ。
オレにとってのマウンテンはある意味でお前らだわ。
下山も登山もできない山だよ。
さて、どうか次の町では平穏に過ごせますように。
第二章が終わりました!
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