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万年銅級おっさん - 嵐の前の静けさ
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嵐の前の静けさ


「う、うおぉぉっ!誰だよっ。これのどこが単調な作業だ!こんちくしょーっ!」


「そ、れ、はっ!ボクが、言ったけどっ!おっさんも同意してたよねっ!よいしょっ」


「ぐうの音もでねぇよっ!って、あっぶねぇ!」



 頭めがけて突っ込んできたダツもどきを寸でのところで躱し、同時に尾びれの付け根を掴んで砂に足が埋まった魔物へと投げ飛ばした。

 その間も片手には鉈を持ち、泳いで渡ってきたオーガのような筋肉のゴブリンと応戦する。



「ヒュ~っ!さっすがだねっ。甲羅に、引っ込める間もなくっ、目玉に突き刺さって即死!」


「喋る余裕があるならもっと数減らしやがれってんだっ!」


「実は、そんなに、なかったりっ!てへっ」


「てへっ、じゃねぇよっ!ひとまず、ここを切り抜けて、アリー達と合流するぞっ!」


「うぃっす!」



 広大だった砂浜が、人と魔物とその死骸で埋め尽くされている。時刻は夕暮れ時……つまり、狩猟祭のピーク真っ只中だ。

 腐臭こそしないものの、潮の匂いに混じって魚独特の生臭さと血臭が辺りを漂っている。おかげさまで、今は鼻が効かない。なるべく避けてはいるが、それでも返り血で服が点々と汚れてしまうのは、もうどうしようもない……これは捨てるしかないな。



「あっ!無理かもっ!」


「何がだっ?」



 再び飛んできた新手のダツもどきを今度は避けず、鉈で軌道をそらして後方から迫るワニのような魔物にぶち当てた。開ききった大口の口蓋を貫いて脳へと達したのか、その魔物は砂浜にある無数の骸の仲間入りを果たす。



「アリーたちっ!かなり後方にいるっ!たぶんっ、安全圏からの遠距離攻撃っ」


「合流する必要はないってことだなっ?」


「むしろ、魔物を引き連れるから、危ないかもっ!」


「了解っ!ピーク過ぎるまで踏ん張るぞっ!」



 しっかし、よくこの混戦の中でアリーたちの場所がわかったな……そういや、収穫祭のときもリオの居所をギルドから掴んでたんだっけか?大盾で殴殺しながらよくやるよ、ほんと。



 

 耐えきる方針にして暫く、どんどんとやって来る魔物を躱し、避け、時には斬り伏せて処理していた。

 たまに、レイラの方へ投げ飛ばして任せるなんて連携プレイもやってたぜ。当人からはすっごい文句言われたけどな。


 もはや何回目か分からない三人小隊でやって来たマッチョなゴブリンたちの連携を、砂に引っ掛かった一体の僅かな隙を足掛かりにして崩していく。こいつらとは戦いすぎて、ある種のルーチンができちまったんだよな。


 まずは、重心がブレたタイミングで踏み込み、内腿と武器を持った手首の腱を切る。武器を手放し膝をつこうと脱力した瞬間にそいつを蹴り飛ばし、一体を巻き込ませながら砂の上に倒す。仲間がやられ、動きに余白が生まれた最後の一体を流れ作業で頸動脈を切り裂いて終わらせる。

 蹴り飛ばした方向はレイラのいるとこなんで、大盾の角っこかなんかで頭潰すだろ……と思ってたら、面倒になったのか足で踏み潰しやがった。んな、バイオハザードのゾンビじゃないんだからよ…。


 軽く息を吐いて、次の魔物の対処をしようと体勢を整えたとき、地面に微細な揺れを感じて跳躍した。



「ワームっていうにはちと大きすぎるなっ!てめぇは海じゃなく地面を泳いできたってか?」



 地面から突き出てきた一部の長さだけで俺の身長を優に越し、太さもムキムキの漁師二人分以上はある。こいつを鉈一本で相手取るのはさすがに面倒だなぁ……どうしたもんか。

 

 ってか、こうして跳んでみると分かるんだが……周りけっこう地獄絵図だな。魔物しか見えねぇ……ポツリポツリと空白ができてる所がたぶん、他の冒険者や漁師たちが戦ってる場所なんだろうな。



「さて、現実逃避してもしょうがないし。長く翔びすぎると不自然に思われるからな……大きな武器を取り出すのはさすがにバレるんで、ここは砂でいきますかね」



 たかが砂と侮るなかれ。ハリケーンや砂嵐に巻き込まれると、風の勢いにもよるが体はズタズタになるんだぜ。

 とはいえ、砂を掴んで投げるだけじゃそこまでの威力はでないんで……ちょっとズルをさせてもらうがな。


 体がこの世界の重力に従い始めて、ワームの頭がだんだんとアップになっていく。一瞬……見間違いだと思うほどの極僅かな時間、空中に留まったかと思うと――シュッ―パァンッと音が鳴り、巨大ワームの頭部が破裂した。



「よっ、とと……砂場は着地がムズいな…ちと飛びすぎたか」


「わおっ!……おっさんの身体能力どうなってるのさ……いやまぁ、保有魔力の多さからすると、理解できなくはないんだけどねー?」


「あー、魔法を鍛えてるやつは魔力が感知できるんだったか……俺がこんなにも真面目に戦ってるのなんて、滅多にないからな?年に一度もないぞ、たぶん。いいもん見れたな」


「えぇ……いいもの…なのかなぁ―――うんっ、どうやら今のでこの辺りに上陸してきたのは最後だったのみたいだね!」


「そうだといいんだがな。あっちの方とかはまだ来てるし……もう何回か魔物の群れが上陸してきても、おかしくはなさそうだぞ?」


「んー、心配しすぎじゃない?ボクたちの居るところ目掛けて海からやってくる魔物の気配は今のところ感じないけど……それに、そろそろ日も暮れるしさっ!ピークもまもなくで終わるんじゃないかな」


「…んじゃ、ちょいと休憩しますか」



 なんて言ったものの、俺たちが戦った砂浜以外のとこにはまだまだ魔物が上陸してるってのが気にかかる。むしろ、ラストスパートみたいに浜に上がってくる魔物の数が増えてる様に見えるんだよな……まるで、ここの場所を避けている―――



『今年のカイリュウが出る場所はあっちっぽいか?』

『あっこだけ早くに静かになってっし…そうかもなぁ!うっし、俺たちもここが片付いたら行こうぜっ』


『くっそう!せっかく船出したってのに、カイリュウが食らいついてこなかったぜ』

『ガハハっ!おめえさんの船じゃあ、ちっさくて餌にも見えなかったんだろうよぉ!今年のはずいぶんと期待できるなぁっ!』



「――カイリュウ…ってなんだ?」


「んえっ?急にどうしたの?」


「ん?あ、あぁ……この街の人達が言ってるカイリュウって何の事だろうって思ってな」


「あっ!おっさんもソレについて聞けたんだ……いやぁ、カイリュウはこの狩猟祭のメダマっぽくてさー。なかなか詳しく教えてくれなかったんだよね。みんながこれの討伐を狙ってるみたいでさっ」



 なるほどな……MMOものでよくある、美味しい敵の奪い合いみたいなのが発生してるのかね。



「でもでもっ!飲みの席で奢ったり、ちょっといい夢見させてあげたら、簡単にゲロってくれてさ!」


「……そんな手の動かし方をしたって、俺は突っ込まんからな…」


「ざんねーん!上も下も、お口に突っ込むのは誰にも許可してないんだー」


「…はぁ……聞いてねぇよ……んで?カイリュウって結局なんなのよ」


「それがねぇ……どうやら、狩猟祭の締めに現れる竜種っぽいんだよね」


「竜種?!……どうりで冒険者のランク制限が厳しいわけだ……海の竜で海竜ってことかい…」


「そ!普段は魔大陸とこっちの海の中間あたり……それも、海底に居るんじゃないかって噂されててね。毎回、陽が紅く染まる日に浅いところまで上がってくるんだってさ」


「へぇ?海を渡る魔物でも餌にしてんのかね」


「たぶんねー。狩りに出た船とかも巻き込まれて被害に遭ってるみたいだし……」


「なるほどなぁ……今のところ、竜っぽさは感じないが…」



 竜種と魔物は鑑定すると解るが、明確に別の分類の生き物だ。魔物という種族、竜という種族ってな感じでな。そんな竜種だが、魔物と異なる生態的特徴がいくつかある。


 一つが、どんなに大きなサイズでも魔石を一切持たない点だ。そのかわり、雪の結晶を球状に立体化させたような形のモノが取れるが……魔力を含んでいるとか、魔道具の電池になるとかの特徴はないんで、本当にただの綺麗な宝珠でしかない。大きさもそこそこあるんで、利用価値はトロフィーくらいだそうだ。

 二つ目が、火魔法や風魔法のように区分できる魔法を用いない点だ。魔物は生態的特徴に区分できる魔法を用いているが、竜種はそうじゃない。もはや、特殊能力とか、そういう生物的作用としか言い様のない不思議な力を使う。


 細かく見ていくと他にももっとあるんだが、竜種と魔物の大きな違いと言えばこの二つになるわな。



「どんな特徴があるのかわかんないと、やっぱり竜かどうかって判別しにくいよねー―――海竜の大きな特徴は、食べた魔物の魔法を自在に使ってくる点らしいよ!」


「……魔法を使うってんなら、もともと海竜が魔物だった可能性の方が高そうだが……民間だと竜なんて実在が怪しまれるほどの存在だぜ?」


「それはそうだけどさー……というか、ボクも半分疑ってるしねっ!

 海を渡る魔物の素材を人間のように加工して装備しているだとか、魔物の死骸を操るだとか……後は、体を覆う粘液で刃が欠けたなんていうよくわかんない情報もあったし……高密度の魔力を含んだ漆黒の息吹(ブレス)を放ってくるなんて話もあったよ!」


「どれも眉唾物みたいな内容だな……まぁ、竜種は一貫してどれも正しかったみたいなことがあるからなぁ……情報の正誤はなんとも言えねぇけどよ。

 もし、本当ならかなり知能が高そうだな。見た目の想像ができんが……」


「うーん……なんかねー、足がたくさんあって、うねうねしてて、でかいんだってさ。んで、戦闘が長期化するほど堅くなって、大きくなる……らしいよ?」


「なんだそれ、余計にわから―――なぁ……お前さんの魔物の感知方法って魔力か?」


「うぇっ!よく分かったね!」


「距離の制限、魔力の大きさ、残留魔力……いずれかで誤魔化すことはできるか?」


「え、えぇっ?急にどうしたのさ?」


「いいから、答えてくれ」


「そ、そうだねー……たまにしてる人がいるんだけど、魔力を圧縮して小さくしたり、常に全身にまんべんなく流したりした上で残留魔力の多い装備をしてると分かんなくなる時はあるかも……。

 今の状況もあって、ボクの感知方法は残留する魔力は省いてるからさ。魔物とかの死骸にいちいち反応するのは面倒だしね」


「やっぱりな……レイラ、残留魔力の感知を海に向けてみろ…」


「まぁ、いいけどさー………あれ、海に魔物の骸って捨ててたっけ?しかも結構多いよね…―――もしかして、動いてる?」


「……海竜のお出ましかもな………急いでアリーたちのとこに戻るぞっ!安全圏じゃなくなるかもしんねぇ!」


「そう…だねっ!うんっ、感知した大きさはかなりのものだったし、息吹(ブレス)を放つなら後方にいても危ないかもっ」



 全然、美味しい敵とかじゃねぇよこれ……こんなん、レイドボスだぜ……ギルドの認定が必要な時点で本物の竜種ってことは確定してるわな、そりゃ。


< 《ログの参照》


【コマンド入力/ef @s strength】

【コマンド入力/ec @s,w power】

 アースワーム討伐×1

【コマンド入力/cl @a】

【コマンド入力/head @p】

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