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長剣と銀貨 - 英雄 十二
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長剣と銀貨  作者: ビルボ
第五話 英雄
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英雄 十二






 数日後、パウルスは、エアハルト・シューアシュタプに呼び出された。

 市庁舎の彼の部屋に行くと、書状を渡される。


「誰から、ですか?」


 封蝋に押された印章を見ても、パウルスには判別できない。


「まあ、読んでみろ」


 エアハルトが言うので、パウルスは封を解いた。


———————————————————————————————————————


ニュルンベルクの騎士殿へ

 ニュルンベルク城伯より、挨拶を送る。


諸般の儀により、先に交わした約束を履行し得ぬこととなった。

不本意ながら、これを許されたい。


詫びとして、汝の甲冑代は、余よりヨルグ・ヘルムシュミートに支払っておく。

武具への要求について、余と同じように時流を読む者がいると知ったのは、愉快であった。

それが、かの剣豪リヒテナウアーの子息とあれば、尚更だ。


いずれ余がニュルンベルクを取り戻す戦いに、興を添える好敵手に巡り会えたことを感謝する。

汝がその名に恥じぬ働きを見せること、そして余が勝利の暁には、汝より臣従の礼を受け取ることを、期待している。


   ブランデンブルク=アンスバッハ辺境伯

   《マルクグラーフ・フォン・ブランデンブルク=アンスバッハ》 

        にしてニュルンベルク城伯

        《ブルクグラーフ・フォン・ニュルンベルク》

                       アルブレヒト “アヒレス”


———————————————————————————————————————


 パウルスは、二回読んだ後、書状をエアハルトに渡した。

 エアハルトは一読して、ため息をついた。


「……アンスバッハ?」


 パウルスが、疑問の声を出す。


「先代のブランデンブルク伯の領地は、三人の息子たちに分け与えらた。三男のアルブレヒトが継いだ封土は、ブランデンブルク=アンスバッハ辺境伯領と名付けられたんだ」


 まだ理解しかねるように、パウルスは眉をひそめていた。


「お前、大変な奴に、見込まれたな」


 そう言われて、パウルスは初めて、心底嫌そうな顔をした。






 その日の午後、ザーラの住む寮をパウルスは見舞いに訪れた。

 だが、応接間に待たされるばかりで、なかなかザーラ本人が現れない。

 ついには、従僕が衝立(ついたて)を持ってきて、それ越しに声だけの会話となった。


 これはいったい、どういう訳だ、金創が腐って回復が思わしくないのかと案じると、ザーラがため息をついた。


「いいですか、女子(おなご)は、怪我や病で容色の衰えている姿を、人目に()()すのは嫌なのです」


「む」


「ですので、予告もなしに女子(おなご)を見舞うのは、気遣いに欠けた振る舞いです。ご理解いただけましたか?」 


「そうか。気を付ける」


 パウルスの返事に、ザーラはうなずいた。


「また、出直すよ。実は、あの"アヒレス"は、ブランデンブルク伯だったんだ。ハイデルベルクにどう言ったものか、相談したい」


「いま聞く。ぜんぶ話して」


 寝間着の上に毛布を羽織ったザーラが衝立(ついたて)を押しのけ、パウルスに迫った。

 




 

 パウルスから、事の次第を聞かされ、ヨハネスは思わず目を見張った。

 アルブレヒト“アヒレス”が六年前、大規模な騎士競技会(トーナメント)を催した折、剣術試合に参加したので、二、三の言葉を交わした覚えがある。

 ブランデンブルク辺境伯の三男は、皇帝ジギスムントを招き、華々しくも血生臭い宴を取り仕切っていた。


 華美を好み、雄弁で、衝動的。

 身体は古傷の痕で埋まり、騎士の技芸ならひととおり何でもやってのける——精力の塊のような若者だった。

 古代ギリシアの英雄の名を、あだ名として堂々と掲げるだけのことはある。

 

 “アヒレス”――それはトロイア戦争の物語に登場する英雄、アキレウスのドイツ語読みである。


「……トロイア物語?」


「なんだ、知らんのか。昨今は古典のひとつも知っておかんと、恰好がつかんぞ」


 ——しかし、ブランデンブルク辺境伯とはな。

 当代随一の騎士、と言って差し支えあるまい。

 その人物に、そこまで目を付けられるとは——案外、わが息子は大物なのかもしれぬ。


 そう思って子の顔を見れば、当の本人はただひたすらに迷惑そうな面をしている。

 それが頼もしいやら、可笑しいやら……。


 その年が暮れて新しい年を迎えるまで、ヨハネスは折に触れてはその顔を思い出し、ひとり噴き出してしまうのだった。







最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。

このお話で、10万字超えたし「第一巻完」という感じです。

第二巻は、全部書き終えてから更新始めようと思います。


構想としては、前作「短剣の輪舞」をこちらに統合しようと思ってます。

というは、ヨハンネス・レックヒナーというのは史実ではパウルス・カルより少し若い世代の人で、南ドイツらへんの人だからです。

14世紀のリューベックにいるのが少しズレてたんですね。

ですので、2巻前半は、前作のほぼ再話になると思います。

その分早いかと思いますが、やはり一冊分書くのは大変なので

「面白かった!」と思ったら、★★★★★から、作品の応援頂けるとはげみになります。


では、いずれまたお会いしましょう!

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