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先輩と後輩シリーズ - 第17話 [コンビニ1]運命の相手は案外その辺に転がってたり、転がってなかったり
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第17話 [コンビニ1]運命の相手は案外その辺に転がってたり、転がってなかったり

「園田さん、寒くないんスか?」

 バイトの後輩にバイトの休憩室で、そう尋ねられた。

 丁度、俺はあがりで帰るところだった。

 バイトあがりの解放感も相まって、俺は誇らしげに答える。

「上原よ、馬鹿な質問をするな。もちろん寒いに決まってるだろう。手はかじかむし、首元はスースーしている。だが、貧乏大学生が防寒具に回しているお金なんてないんだよ。実家暮らしの女子高生にはわからんかもしれんがな」

「微妙に女子高生のところを強調したのは見逃してあげましょう。そして、そんな貧乏先輩にいいものをあげましょう」

 上原のやれやれといった態度は鼻についたが、貧乏大学生はくれるものならゴミでも貰う。

 俺はなんの躊躇もなく、手を差し出した。

「何だ? カイロでもくれるのか? 張るタイプか? 張らないタイプか?」

「……なんで、カイロの一点張りなんスか」

 呆れ気味の上原は自分のロッカーから、綺麗な絵柄のついた紙袋を取り出す。

「はい、どうぞ」

「カイロにしては随分多いな、一年分か?」

「いや、だからカイロじゃないですって、ってかカイロは一年使えないでしょ」

 俺は無造作に紙袋を開けると中にはマフラーと手袋が入っていた。

「おいおい、これはどういう風の吹き回しだ? 今月はこれ以上シフト変わってやれんぞ」

 突然の贈り物に真意を問おうと上原を見ると、どこか居心地が悪そうに頭を掻いている。

「いやー、実はそれ彼氏へのクリスマスプレゼントだったんスけど、クリスマスを目前に別れちゃいまして」

 上原は「えへへ」と照れくさそうに笑う。

 そう言えば、今日珍しく上原が他の子とシフトを変わってやっていたが、そういう事だったのか。

「なるほど、それで持て余しちまったこいつを一番寒そうな俺にくれたってわけか」

「やっぱり、他の人にやるものだったのなんて嫌ッスか?」

 上原が心配そうな顔でこちらをのぞき込むので、言い切ってやった。

「いや、普通にありがたい。色も俺好みだ。まぁ、手編みなら彼氏への怨念とかが宿ってそうで怖いがな」

 それを聞いて安心したのか、上原は表情を緩めた。

 俺は早速貰ったマフラーと手袋を装備し、改めて礼を言うと、バイト先であるコンビニを後にした。




 上原あかりはバイト先の後輩だ。

 俺より一年ほど後からコンビニでバイトを始め、俺とよくシフトが被ることもあり、初めは教育係として手を焼いたこともある。

 明るく、ちゃっかりしていて、人懐っこい。

 そして、何よりフットワークが軽い。

 俺は口元のマフラーに更に深く顔をうずめる。

 上原が彼氏と別れたという話もこれが初めてではない。

 ちょくちょく聞く話なので今ではフォローすらいれない。

 まぁ、俺みたいな恋愛に積極的ではない人間からすると、素直に凄いと思う。

 よく「運命の相手」などと言う言葉を口にするものがいる。

仮にそんな相手がいるのだとしても、そんなとんでもない家宝が寝て待つだけで手に入るのだろうか?

 仮にそんな相手に出会っても、他の誰とも比べずに「運命の相手」だと分かるんだろうか?

 だから、俺は「運命の相手」に出会う資格のある人間は上原のような経験値を積んだ人間にこそ訪れるべきだと思う。

 俺は帰り道、上原の「運命の相手」とは、どんな男なのだろうと夢想する。




 なんか普通の平日の事だった。

「園田さん、お腹空いてます?」

 品出しをしていた俺に休憩に入るよう告げると、同時にそんなことを上原は聞いてきた。

「上原、馬鹿なことを聞くな。貧乏大学生が常に空腹だ。なんなら夫婦喧嘩だって食べるぞ」

「犬よりも食欲旺盛で何よりッス。休憩室にお菓子置いといたので食べていいッスよ」

「そうか、有難く頂こう」

 俺は休憩室に入ると、中央のテーブルに綺麗にラッピングされていたチョコが置いてあった。

「……チョコか」

 俺はそれを何の疑問にも思わず口に入れる。

 うん、甘すぎず丁度いい。

 そう言えば、今日は何かあった気がするな。

 バ、バレン、バレンシア?

 スペインのバレンシア州に何かあっただろうか?

 あぁ、こんなわざとらしく意識しているととても恥ずかしい奴みたいだな。

 俺は休憩を終え、レジに戻る。

「あっ、美味しかったッスか?」

「あぁ、旨かったよ。手作りか?」

 その部分を聞いてほしかったのか、上原は鼻息荒く拳を握る。

「そうなんッスよ、バレンタインに気合入れて作ったんッス」

 あぁ、やっぱりそうだよな。

 だが、上原の勢いはすぐになくなり、シュンとなる。

「でも、そのチョコを渡す彼氏と直前で喧嘩別れしちゃって」

 またかよ。

「……もう、お前はイベント前は大人しくしてろ」

「いや、戦闘民族の血が騒いじゃって」

「何でだよ」

 そんな強がりを言う上原を見ながら、相手の男どもの見る眼のなさに心の中で嘆息していた。




 特に何でもない平日のバイト帰りだった。

 今回は本当に何でもない平日だ。

 強いて言うなら給料日だが。

「園田さん、ご飯行きましょうよ」

 たまたま、あがりが一緒だった上原が声を掛けてくる。

「……お前、人の給料日を狙いすましてきやがって」

「嫌だなー、今まで私がそんなことをしたことがあったッスか?」

「……先月と先々月も狙い打たれたな」

 お前も給料でとるんだから自分のを使いなさいよ。

 まぁ、女の子は色々お金が入用だろうし、給料日ぐらいは奢ってやるけどな。

「ファミレスだからな」

「はい!」

 返事だけは良いな。




 俺たちはコンビニの近くのファミレスに来ていた。

「おい、サイドメニューは頼み過ぎるなよ」

「園田さん、パフェ頼んでいいッスか?」

「……食べきれるんだろうな」

「半分こしましょうよ」

「いや、遠慮する」

 なんか恥ずかしいし。

 上原は特に遠慮する様子もなく、店員に注文をしていく。

「今日はいつもより多いな」

「最近、彼氏と別れちゃったんでやけ食いッス」

 またかよ。

「程々にしとけよ」

 上原は俺のリアクションに不満だったのか、わざとらしく頬を膨らませる。

「もう! もっと気遣って下さいよ」

「だって、いつもの事なんだもん。とんでもない頻度だぞ。もしかして脳内彼氏じゃないだろうな?」

 俺は意地悪そうな顔で茶化してやると、上原は馬鹿にしたように笑う。

「まっさかー、もう! 園田さんと一緒に―」

 その時、不意に背中越しに声を掛けられた。

「あれー、あかり?」

 声には出さなかったが、上原の顔は「ゲッ」以外に言い表せないものになっていた。

「やっぱり、あかりじゃん、その人彼氏? ってか、人見知りのあかりが男とご飯なんて彼氏以外あり得ないか。いやー、良かったー、私たちの中で彼氏いないのあかりだけだったもんねー、これで私も安心だわ」

 お喋りなお友達さん、悪気がないのは分かるけど、その辺にしてあげないと彼女のライフはもうゼロよ。


 その後の彼女の供述によると「彼氏と別れた直後の女の子の方が奥手な園田さんも口説き易いかと思って…」だそうだ。

 あと、普通にプレゼントとか渡すのが恥ずかしかったらしい。

 俺は、このお馬鹿な子が運命の相手ならいいなと思った。




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