第75話 [双子8]眠っていた時間
寝ている。
リビングでは、部活で疲れたのだろうか、ミーくんがテレビのリモコンを手にソファに横になり力尽きていた。
私はキョロキョロと辺りを見回す。
よし、ママはお風呂でパパは書斎だ。
私は自分の感情を抑えきれず、ニヤニヤとミーくんに近づく。
いつも瞼の重そうなミーくんだが、本当に閉じてしまうと子供のようなあどけない表情になり、これは私の双子の兄ではなく天使なのでは? と疑ってしまう。
しかし、ミーくんは本来油断のない男だ。リビングで寝ているのは本当に珍しい。
少なくとも高校に入ってからは記憶にない。
秋とは言え暑さもまだ抜けきってない。運動部にはハードな季節なのだろう。
まぁ、だからと言って私は手を抜かない。
さて、何をしてやろう。
今日は何をしてもいい。何故ならいつものミーくんの制止がないのだから!
ん? いや、それは不味いのかな?
いつもはなんやかんやでミーくんがストッパーになっている。それがないと私は色々と踏み誤らないかな?
私はミーくんと一線を越えたいわけではない。
こう、何というか一線の上でからかうように、じゃれ合う要領で踊ってたい。
向こうが手を出さないからこその安心感の上で踊っていたい。
でも、今その一線の上で踊る私を注意するものがいない。
私はそっと右手をミーくんの頬に添える。
きめ細かな肌は触り心地が良くて、あったかい。
私はその肌をゆっくりと撫でる。
ミーくんは起きる様子はない。
今は、何をやってもいいんだ。
私の理性は靄がかかったようにぼやけ、ミーくんの顔に引き寄せられる。
私はミーくんの頬にキスをした。
大丈夫。私はちゃんと自分でも止まれた。
あなたの唇に手を出すことないから安心してね。
私は名残惜しくなって、もう一度頬にキスをして、こっそりと自分の部屋に戻った。
この話には後日談がある。
私はよくリビングのソファで寝ている。なんなら、涎とかも出ている。
そんな感じで、この間のキスの後、うとうととソファで眠りかけていた時のことだ。
まだ意識が僅かにありながら、ミーくんがリビングに入って来た。
私は普段寝ている私にミーくんがどんな態度をとるのか興味があって、寝たふりをしてみた。
ミーくんがこちらに気が付き、私の顔を覗き込む。
息遣いが聞こえる所にミーくんの顔が来る。
まさか、ミーくんも私にキスを⁉︎
なんてね。
いつもの流れだ、呑気に寝ている私にデコピンでもするのかも。
ーーんっ
小さく息が漏れる音がした。
そんな音が私の耳に入ってきた。
ミーくんは小鳥が啄むように私と唇を重ねた。
そうして、ミーくんはリビングを出て行った。
私が思っている以上に、二人の一線は危ない所で揺れているのかもしれない。