第94話 生意気な呼び方
「勇作、大学卒業したら先生になんの?」
「うん、そうだよ」
私はベッドに寝そべりながら興味なさげに質問した。
「こっちの高校でしょ?」
私は願望交じりに勇作にそう聞くと、彼ははにかみながら答えてくれた。
「運よく母校の教員の枠が空いててさ、地元に帰れることになったよ」
「ふーん、どうでもいいけど」
私はどうでもよくない情報を頭の中では小躍りしながら呟いた。
「勇作の母校って、神津総合だっけ?」
「そうだよ、なんで?」
わざわざ知ってる情報も勇作との会話の為に交ぜて聞く。
「いや、新任教師は不安だろうから、私が行ってあげようかなーって」
私は照れを誤魔化すために前髪をいじりながら反応を待った。
勇作はそれまで真面目にパソコンに何か打ち込んでいたのに、笑いを抑えきれないように吹き出した。
「梨奈ちゃんが、神津総合受験するの? あそこ一応進学校だよ?」
「うっさい、駄目なの?」
私は手元にあったクッションを掴んで勇作に投げつけた。
勇作は目尻を抑えながら、嬉しそうに私の顔を見た。
「いや、駄目じゃないよ。ただ、梨奈ちゃん勉強とか全然興味ないって言ってたし、意外だなーって」
「……別に、ただ少しだけ勉強にも興味が出てきただけだし」
我ながら、下手くそな嘘だと思う。
「そっかー、小さい頃からおてんばな梨奈ちゃんを見てきた身としては喜ばしいね」
しかし、この嘘に気が付いてくれない勇作も大概だと思う。
勇作は少し言い辛そうに頬を掻く。
「あとさ、いい加減勇作呼びはやめてよ、昔は勇作兄ちゃんって呼んでくれて可愛かったのになー」
「……絶対に嫌」
「もし、うちの高校に来るなら、その時は先生って呼ばなきゃだめだからね」
可愛かったの言葉に揺らぎそうになるが、私のこのせめてもの抵抗をやめるわけにはいかない。
私と勇作兄ちゃんは家が近所の幼馴染と言う奴だ。
親同士も仲が良くってあまり聞きたくはないが、勇作兄ちゃんは私のオムツを替えたこともあるらしい。
私が勇作兄ちゃんを好きになったのは、私が小学生の頃だった。
性格が悪くって友達の少ない私と勇作兄ちゃんは高校から帰ると、いつも遊んでくれていた。
でも、残酷なほどに私達には歳の差が大き過ぎた。
八歳差、その差は絶対に勇作兄ちゃんが私を恋愛対象に見れない絶対的な差だった。
世間の人は気持ち悪いとか、理解できないとか言って邪魔をするんでしょ。
もし、私たちが恋人になれても勇作兄ちゃんはロリコンとか犯罪者って言われちゃう。
でも、私は勇作兄ちゃんが好きだ。
この気持ちに嘘はない。
だから、我慢できるの。
私が成人すれば、この差は消えてなくなってくれるはず。
テレビで芸能人の歳の差結婚を見るたんびに心の中で私は応援している。
私の気持ちは本物だから、我慢できる。
でも、せめて勇作って呼ぶのは許してほしい。
だって、恋人が兄ちゃんなんてつけるはずないもん。