第14話 カウンターコンバージョン
「まずは小手調べといこうではないか。〈深淵に飲まれよ〉【ディープブラスト】」
魔王が短く詠唱すると、闇の弾が杖から発射される。漆黒の弾は空気を引き裂く音を残し、残光めいた闇の尾を引き一直線に伸びた。
射線上にいるのはアリンドさんだ。しかし、それに素早く反応したゆうたさんが、アリンドさんをかばって攻撃の前に立ち、その身で魔法を受け止める。
「ぐおっ……!」
攻撃を受け止めたゆうたさんが思わずうめき声を上げる。VRMMOではプレイヤーが不快になるような知覚情報の多くがカットされている。だから本来ならば攻撃に対してうめき声を上げる理由はないのだけど、減少したHPの量を見れば思わず声に出てしまうのも無理はない。
「8割以上削られてますね……【ナイト】でこれならボクじゃ即死では?【ファストリカバー】!」
【ルビーロッド】によって炎属性に変換した回復魔法をゆうたさんに送り込むと、ゆうたさんは軽く頭を下げた。
「だが、【メイジ】は魔法防御力が高いからな。いざとなれば俺の支援スキルで受け切ることができるはずだ。さすがにレベル差の問題で明日香は受け切れないだろうが……」
「あら、大丈夫ですわ。当たらなければいいんですよね♥」
「まあそういうことだな」
「当たらなければダメージは0!至言ですね!」
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>理論上は全ての攻撃を回避すればレベル1でも魔王は倒せる
>↑これマジ??
>マジだぞ。今からソロで倒してこい
>当たらなければレベル1でも闘技場全勝だぞ
>なお、少しでも回復技があった時点で削りきれなくなる模様
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そんな会話をしているうちに、気がつくとアリンドさんがいなくなっていた。あれ、どこ行った?と周囲を見渡すと魔王との接近戦を繰り広げていることに気づく。
「おいおーい!無駄話は終わったかー?早く助けろ!」
アリンドさんが魔王に向けて剣を振り下ろすと、魔王はそれを半透明な障壁のようなもので防ぎ、即座に【ディープブラスト】で反撃する。それを右へと避け、アリンドさんは光の魔法を撃ち込んだ。
「助けろってわりには結構優勢ですね?」
「いや、確かに戦いだけで見れば優位に立ち回っているようだが、ダメージがまるで入っていない」
ゆうたさんに言われてもう一度確認すると、確かにその通りだった。本来ならば一度でもダメージを受けたモンスターや敵キャラクターは名前とHPゲージが表示され、そのダメージ量を大まかに察することができる。
しかし、今の魔王にはその表示がない。アリンドさんが何度も攻撃を行っているのに、全くダメージが与えられていないということだ。
「完全なダメージ無効化なら匙を投げるしかないわけですが……ちょっと試してみましょうか。ゆうたさん、例の装備をお願いします」
「了解した。【アームズスイッチ】」
ゆうたさんにお願いすると快く装備を変更してくれた。
その装備はゆうたさんとの対戦においてボクに対して用いられた未鑑定の鎧。正確には未鑑定だから前回のものと同一の装備であるかはわからないのだけど、まあ同じものを装備してくれたはずでしょう。
「はい、じゃあ魔王のほう向いてください」
「こうか?」
「もっとまっすぐ向いて……あ、そこそこ。いきますよー。【ソウルフレア】!」
ゆうたさんの鎧を目掛けて横から勢いよく杖を叩きつけ、【ソウルフレア】を発動させる。
杖から生じたきらめく炎はゆうたさんを燃やし尽くそうとするが……。
その途端に鎧の中心から白い光線が凄まじい速度で発射される。障壁が水面のように波打ち、ガラスが割れるように崩れ散った。
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>TUEEEEE
>勇者にも破れないバリアをぶち壊す超威力
>卍さんが頭おかしくなって味方を殺そうとしたのかと思ってたわ
>お、俺は信じてたからな!!
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「やった!うまくいきました!」
ゆうたさんを包み込んでいた【ソウルフレア】の炎もきれいに消えている。炎属性の攻撃を無属性のレーザーに変換する、脅威的な効果だ。
「……おい、せめてこういうのは事前に話しておくべきじゃないか?」
「いやー、サプライズって大事じゃないですか?」
ゆうたさんには白い目で見られたけれど、結果オーライです!成功したんだから!
「……この装備は炎属性の攻撃を無属性に変換した上で1.5倍の威力にして反射する効果がある。威力にかかわらず強制的に発動するが、10分程度のインターバルが必要だからしばらくは撃てないぞ」
「……そこまでの露骨なメタ装備まで用意してたんですか?ひどくないですか?」
「それほどに警戒していたということだ」
今度はボクが白い目で見つめてみたが、ゆうたさんはどこ吹く風だ。
「さて、ただでさえ威力の高い魔法を強化して発射したわけですし?結構ダメージ入ったんじゃありません……ん?」
HPゲージは出た。つまりダメージは入っている。そこで魔王の頭上に表示されたHPゲージを確認したが、全然減っているようには見えない。
「うーん……1%ってところですかね?♥」
いや、確かにボスのHPを一撃で1%削れるって点だけ見れば相当な威力ですよ?でもボクだって相当に火力に特化してて、さらにそこから1.5倍化された魔法を当ててようやく1%ですか……先は長そうですね。
「……やってくれたな。まさか我の障壁を破壊できる者がいるとは」
今の今まで勇者以外の存在を気にも留めていなかった魔王が、ボクたちの存在を改めて認識した瞬間だった。
そして、何やら詠唱を始める。どうやら先ほどの魔法とは違うスキルのようだ。魔王の足元に紫紺の魔法陣が幾重にも展開し、空気が低くうなりを上げる。
魔王が悠長にも長い詠唱を始めたその隙を勇者は見逃さない。
「〈神なる裁きにて邪なる者より加護を剥奪せん〉【マスタージャッジメント】!」
先に放たれたアリンドさんの雷の魔法が魔王を貫く。障壁は発生しなかった。どうやら一度破壊してしまえば、再展開されない限り攻撃が有効になるようだ。
しかし、それでも魔王は詠唱を中断しない。その詠唱時間から察するに上級魔法の類が放たれるようだけど……。
「【オーラシールド】【アームズスイッチ】……荒罹崇が狙われそうだな。俺はしばらく盾に徹するとしよう」
「私は勇者様と一緒に攻めに行きますわ。ダメージを与えられるかは疑問ですけど……。これも経験です♥」
「なるほど。じゃあボクは後衛で。近接対応を名乗ってるわりには後衛での役目が多くて困っちゃいますよ」
さっきまでの余裕は終わりだ。ここからはそうはいかないだろう。軽く作戦会議をしたボクたちはそれぞれの役割に従って行動しようとする。
けれど、その作戦会議はすべてが無意味となった。
「——〈永久に眠れ〉【エンドロール】」
魔王によって放たれた闇の領域が、すべての生命に永久の休息を与えたのだから。
テクニックその16 『カウンターコンバージョン』
魔法攻撃を反射する鎧に近接魔法を当てることによって擬似的な投射魔法に変換するテクニックです。ゆうたさんの鎧は真正面へのレーザー光線のような仕組みでしたが、当てたプレイヤーにそのままダメージを返すような物もあるらしいので、使用できる装備は限られそうですね。ついでに言えば近接魔法自体が割と少ないので、基本的には反射時のダメージ倍率増加と絡めるのがデフォになりそうです。
【オーラシールド】
[アクティブ][装備][支援][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:0s 再詠唱時間:1m 効果時間:1m
効果:[装備]の[魔法防御力]を[増加]させる。
卍荒罹崇卍の一口メモ
【ナイト】の保有する装備強化魔法です。装備を強化すれば実質的にはキャラクターの能力が向上するため、全裸縛りでも無い限りは他の支援魔法と変わりありません。
詠唱時間を必要としない事から、むしろ他の支援魔法よりも使い勝手がよく見えますが、よく見ると再詠唱時間と効果時間が同じ。
基本的には自己強化魔法としての側面が強いのではないでしょうか。
実はそれ以外にも他の支援魔法に勝る点があるらしいのですが……。
余談ですが、同様の性能で攻撃力や物理防御を増加させる類似スキルも存在します。