18 ホームレス
「『ひゃっ!』って人だったのかよ。脅かすない。幽霊かと思ったぜ」
(え!?)
ルキアスが人の声に振り向けば、薄汚れた中年男の姿があった。
(さっきの声はこの人のだったのか……)
「ぼくもおじさんの叫び声にびっくりしましたよ……」
「あっはっは、みたいだな。そりゃ、悪かった」
「いえ、お互い様のようですし……」
「まあな。ところであんちゃんはこんな時間にこんな所で何を彷徨いてるんだ?」
「野宿できそうな場所を探してます」
「野宿? あんちゃんもホームレスなのかい?」
(その身形や「も」と言う言葉からして、このおじさんはホームレスなのだろう。
ぼくもある意味ではホームレスなんだけど、純然たるかと言うとそうでもないんじゃないかな……)
「ベクロテまでの旅の途中なもので……」
「そっか、旅の途中かぁ。ベクロテってーと、ダンジョンだな。あんちゃんも大変なんだな」
「それほどでも……」
(何が「それほど」なのか言った自分で判らないけど)
「おっと野宿できる場所だったな? そっちの広場の好きな所を使えばいい。但し汚すんじゃないぞ?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「いいってことよ。じゃあ、付いて来な」
ホームレス男は「こっちに来い」と右手を煽って先に進む。他の宛も無いルキアスは厚意に甘える形で付いて行く。
ルキアスの脳裏には幼い頃に母親から言われた「知らない人に付いて行ってはいけません」の言葉が頭を過ぎったが……。
(このおじさんはいい人のようだから、付いて行っても大丈夫だろう)
そう考えた。
(ん? 何かもう一つ言われた気がするけど……。
ま、いっか。
思い出せないから大した話じゃない筈だ。
いい人がどうとか言う話だったと思うけど)
ルキアスはこの件についてはこれ以上考えるのを止めた。それよりも目前の問題が有る。
今夜もテントを張ったものか。
今日は歩いた距離が長く、その分疲れてもいるために組み立てを考えるだけで少しめんどくさいのだ。作業するほんの数分が果てしなく長いような気がしている。
夕食はまだ明るい内に前の町で貰った林檎を二個食べたため、後は寝るだけとなっているのだが。
(……いや、やっぱり張ろう。
夜が少し冷えてきている季節になっているんだから、風邪なんか引かないようにしないと)
ルキアスが考えを巡らせる間に広場にも着いて、ホームレス男が立ち止まる。
「見ての通り何も無いからな」
男の言う通りに何も無い。集まるだけなら千人程度集まれるだろう広場には剥き出しの地面が広がるばかりだ。ただ、広場を囲むように木が植わっているため「何も無い」では若干語弊が有るかも知れない。
「それじゃ、ここにでも」
天気も良いし風も緩いので特に木の下を選ぶ必要も無い。ルキアスは広場に入って直ぐの場所にテントを置くことにした。パーツを『収納』から取り出して組み立てる。
「お、あんちゃん、テントとは豪勢だな」
「おじさんは使わないんですか?」
「ああ。そこいらで寝るだけだな」
「そう、ですか……」
(ぼくだけテントなのが何だか申し訳ない気分。
だからってぼくのテントには二人は寝られないし……)
「そんなに申し訳なさそうにするない。そのテントは自作だろ? そんなのに嫉妬するほど落ちぶれちゃいないぜ?」
「あ! その、ごめんなさい」
(うう……、変に気を回す方が失礼だったようだ)
「いやいや気にすんなって。そんな事より少し話をしないか?」
「はい、勿論。ぼくにもちょっと教えてほしいことが……」
ルキアスは折角だから次の町までの距離を聞いておきたいと考えた。