3 街道。今は秋
ルキアスの歩む街道は舗装されていない。それどころか整備が行き届いておらず、あちこちに穴が空いている。
とは言え、タードは町中であっても大通り――タードの中で大きいだけで、大きめの荷車が余裕を保って擦れ違えるほど――が舗装されているだけで、路地に入れば土が剥き出しになっている。
その大通りの舗装も不規則なタイルで舗装されているように見えて、実際にはタイルではない。過去に『硬化』の天職持ちの人物によって路面を継ぎ目無しに硬化させられたものが年月を経てひび割れただけのものだ。
町中でそんな具合だから、町の外である街道が舗装されてなくても当然と言えよう。
(舗装されてないのは仕方ないけど、歩きにくいな……)
そんな街道の穴の原因は言わずと知れた雨。雨上がりにはアメンボやミズスマシが水面を滑ったりもする。しかしそんな光景も今年はもう終わりを迎えている。街道の両脇に広がる刈り取り後の小麦畑が物語るように、今はもう秋なのだから。
(秋か……)
恐らく旅立ちだけを考えれば春の方が良い。冬よりも夏の方が少ない食事で堪えられる。
それでもルキアスが秋にしたのは小麦の収穫を待ったからだ。小麦の出来映え次第で家族の一年間が決まる。恙無く暮らせるか、困窮してしまうか、この時に懸かっている。問題無く収穫を終えられれば一年間は安泰だ。少なくとも一年間は家族の生活を心配せずに済む。そして旅立ちの際に昨年の残りの小麦を持ち出すことにも心を痛めずに済む。
結果が判るのは、小麦を刈り取って乾燥させ、脱穀まで終わった後だ。ルキアスはその時を収穫などを手伝いながら待った。
そして今年は平年並みだった。いつもの年と大体同じ。つまり、安泰だ。
(きっとぼくはこれから頑張らなければいけない。
それでも一年も経てば大体の目途は付く筈。
生活できてもできなくてもだけど……。
一年間、自分の事だけに集中できるのはきっと大きいよね)
もしも凶作だったなら、それが判った時点でルキアスは旅立つことになっただろう。それも食べ物らしき物を殆ど持たずに。
しかし今となっては考える意味は無い。起きなかった事なのだから。
ルキアスが物思いに耽りつつ歩く内、街道脇の麦畑が途切れた。この先は草むらや林を抜けるように街道が続く。
両脇を林に囲まれた場所には乾涸らびたミミズの残骸が転がっていた。こんな道は雨上がりに足の踏み場も無いほどにミミズが湧き出ることがあるのだ。きっと鳥も啄みきれないほどに。
雨の降ってぬかるんだ道はきっとミミズに快適な場所なのだろう。しかし雨が上がって乾き始めたら彼らにとって地獄になる。踏み固められた街道の地面はミミズが潜るには固すぎる。土に潜ろうにも潜れず、次第に乾いて行く。
「こうはなりたくないな……」
ルキアスにはこのミミズ達が少しだけ自らの未来に重なって見えた。