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生活魔法は万能です - 92 無鉄砲
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92 無鉄砲

「ここがダンジョンですわね!」


 ルキアスはエリリースに引っ張られるまま済し崩しにダンジョンへと来てしまったが、手を叩いて目を輝かせるエリリースに違和感を持った。これでは初めての場所に来たようではないか。


「もしかしてダンジョンには初めて来たの……?」

「そうですけど、それがどうかなさいまして?」

「『ホーンラビットには負けない』って自信満々だったからてっきり何度も戦ってるとばかり……」

「そんなの戦わなくても判りますわ」


 エリリースは胸を張るが、ルキアスは甚だ不安になった。


(意外に無鉄砲な子だったんだ……)


 しかしそんな感想を抱いても、ルキアスのエリリースに対する評価は些かも陰らない。何事にも慎重になりがちなルキアスからすれば、むしろ眩しく感じられる。


「さあ、ホーンラビットの所に参りますわよ。案内してくださいませ」

「え? ぼくは知らないよ?」

「何をおっしゃいますか。あなたは探索者ではないのですか?」

「そうだけど……」

「だったらご存じの筈でしょう」

「ううん。知らないよ! だってぼくまだホーンラビットと戦った事、無いから」

「はい? 一度も?」

「うん。一度も」

「だったらどうやって探すおつもりですか!?」

「ぼくの方が聞きたいよ!」


 ルキアスとエリリースは暫し睨み合った。





 ルキアスとエリリースが入口から遠くない場所でもたもたしている最中、それを見咎める者が居た。


「あの女、あんな所に!」


 ルキアスに魔物を嗾けていると言って非難した男だ。名をグロンと言う。いきり立つ彼は一計を案じた。どうしてもエリリースに吠え面をかかせたい。


「いい事を思いついた。おい、耳を貸せ」


 二人の仲間にその計略を話す。しかし仲間達はあまり乗り気で無さそうだ。


「危ねぇだろ。それ……」

「ホーンラビット如きでどうこうなるかよ」


 ホーンラビットの脅威度の認識に関しては探索者によって温度差があり、グロン達はそれをかなり低く見ている口だった。


「いや、危ないのは俺らだって」

「だから悪くても怪我する程度だろ?」

「ホーンラビットがあいつに操られたらどうするんだ?」

「だから操られる前に片を付けるんだって」

「でもなぁ」

「やるならグロン一人でやってくれねぇか?」


 グロンは舌打ちをする。


「奴らが間違ってるのを証明しなくていいのか?」

「それは……」


 仲間二人もグロンの話を信じてはいるが、真偽が気にならない訳ではない。二人で顔を見合わせる。「やる?」「一度だけなら? 気にはなる」「だな」なんて会話を視線だけでやっていたのかも知れない。


「今回だけだからな」

「そう来なくっちゃな!」





 エリリースとルキアスのホーンラビットを探しに行く行かないの話し合いはまだ決着を見ていない。

 不意にエリリースが視線をルキアスの後方へと動かした。訝しく思ったルキアスは振り返る。

 男が三人走って近付いて来る。一人はルキアスを非難した男だ。襲撃か? しかしその男がニヤリと笑うだけで、三人はルキアスとエリリースを回り込むように擦れ違うだけで駆け去って行く。


(何がしたかったんだ……)


 そう思ったのも一瞬のこと、後からはまだ何者かが草を踏む音が近付いて来る。


(ホーンラビット!?)


 五頭の群れだ。真っ直ぐ突っ込んで来る。そう、グロンは自分達を囮にしてホーンラビットを誘導し、ルキアス達になすり付けようと画策したのだ。これでグロンの言葉通りならホーンラビットはルキアス達を襲う。

 ルキアスがふとエリリースを見てみれば、びっくりしたのか目を見開いたまま動かない。もしや足が竦んでいるのか?


「危ない!」


 ルキアスは咄嗟にエリリースを押し倒すようにして伏せた。


「『傘』!」


 そして背中を庇うように『傘』を広げた。

 ところがホーンラビットの群れはルキアス達を飛び越えるだけで通り過ぎて行く。遠くで「何でこっちに来る!?」と叫ぶ声がした。


「あの……、どうして『傘』?」

「それは、咄嗟に……」

「咄嗟でどうして出て来るのか判りませんけど……、それよりどいてくださらない?」


 ルキアスがホッとしたのも束の間、エリリースにジト目で睨まれた。それで今置かれた体勢にも気が回った。エリリースに密着するように覆い被さっている。これでは傍から彼女を襲っていると思われても仕方のない状況だ。

 慌てて飛び退いた。咄嗟のこととは言え、なんて事をしたのかと反省頻りだ。


「ご、ごめん……」


 ルキアスは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら謝った。

 エリリースは口を尖らせながらも「もう構いませんわ」と身体を起こす。


「それより今のがホーンラビットですわね? ホーンラビットはどうしてわたくし達を素通りしたのでしょう?」


 図らずもエリリースがしようとした検証の結果は出たのだ。


「あ、それはぼくもエリリースもダンジョンの魔物を全く倒してないからだと思うよ」

「はい? そんなことがありますの?」

「うん。ホーンラビットだけかも知れないけど……」

「それをどうして先程おっしゃらなかったのですの?」

「聞かれなかった……から?」

「……見直したと思ったのはわたくしの勘違いだったようですわね」

「ご、ごめん……」


 小さくなるルキアスにエリリースは苦笑を見せる。


「まあ、よろしくってよ。ホーンラビットが必ずしも近くの人に襲い掛かる訳ではないのは判明いたしましたし」

「だよね! だからもう帰ろうよ!」


 ルキアスは我が意を得たりとばかりに主張した。今はまだ間違っても魔物と戦いたくないのだ。

 そんなルキアスをエリリースは胡散臭そうに見やる。


「……まあ、よろしいですわ」


 エリリースの同意にルキアスは深く安堵した。

 そして近くの草むらにも隠れて安堵の息を吐いた者が居た。





 エリリースはリュミアと別れた場所まで戻って来た。


「探しものは見付かった……の?」

「あ……、はい。先生は先に行ってくだされば良かったのに……」

「そうも行かない……わ。それにしても随分汚れたよう……ね?」


 エリリースの服には土汚れが付いている。エリリースは言われて初めて気付いて動揺を見せた。


「こ、これは……たまたまですわ!」

「たまたま……ね」

「そうです。たまたまですわ!」


 しかしこの時エリリースはリュミアの頭に付いている物を目敏く見付けた。


「先生こそ髪の毛に草の葉っぱが付いてらっしゃいますわ」


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