50.即死の呪いも余裕で解除する
獣人国ネログーマの王城、その地下牢にて。
【閉】に関する知識を持つ、悪徳商人アクダクを尋問していた。
「陛下、姫。これよりこのアクダクに尋問を行います。離席願えないでしょうか?」
「それは構いませんが、しかし、なぜ? 世界規模の危機ならば、国の代表であるわたしも聞いておくべきだと思うのですが」
陛下の意見はもっともである。
しかし。
「【閉】に関する情報は、おそらく最重要機密事項です。それを聞いたことで、余計なトラブルに、陛下たちが巻き込まれる危険性があります。なのでここは、いったん俺だけが話を聞いて、情報を精査し、しかるべき情報を、陛下たちに共有したほうがいいと進言いたします」
すると陛下が深く感心したようにうなずく。
「すごいです、ヒラク。起こりうるリスクを回避するべく、先に手を打っておくなんて」
「さすがですわ、ヒラク様! あなた様は勇気を持つ者であるだけでなく、賢なる者でもありますわ!」
俺は確かに勇者ではあるが、賢者であるとは思わない。
間違えることもあるしな。
「今はヒラクの言うとおりにいたしましょう。あとは頼みます」
陛下と姫、そして見張りの兵士たちが去っていく。
今、地下牢にはアクダク以外に入ってるやつがいない。
この場には俺とアクダク、そして……。
「ミュゼ、なぜおまえがいる?」
奴隷のハーフエルフ、ミュゼが言う。
「いえ! ヒラク様のおそばにおかせてください!」
「危険だから下がりなさい」
「危険も承知のうえです! そこの魔族は何をしてくるか不透明です。もしヒラク様になにかあったら、わたしは死ぬ覚悟ができております! おそばにいさせてください!」
ふむ、そこまでの覚悟があるのなら、意思を尊重しよう。
彼女は奴隷なので、ここで見聞きした情報について、制限することができるし(奴隷の主人にはできる)。
それに姫や王女とちがって、俺のそばから離れることはない。
最悪のケースは、目を離したすきに、殺されること。そばにいるミュゼには、それがない。
……まあ、完全にケアできるわけではないが。
しかし敵を感知できる彼女がそばにいたほうが何かと都合がいい。よし。
「わかった。ミュゼ、その場に居合わすことを許そう。ただ、周囲の警戒は怠るなよ。誰かに監視されてるかもしれん」
「なるほど! あらゆる可能性について、考えてらっしゃるとは! 深いものの考え方を常にする、ヒラク様は本当にすごいです!」
さて。
ミュゼに見張りをさせながら、いよいよ、俺はアクダクから【閉】の情報を引き出すとするか。
「心のステータス、展開」
俺の前の前に、小さな《 》が開く。
これは、アクダクの思考……心の中だ。
「さて。アクダク、俺の質問に答えてもらおうか。嘘も隠し事も、この窓を開ける俺には通用しないからな」
アクダクは黙って、うつむいている。
「もう観念したのでしょうか?」
「思い込むのは早計だ。こいつは狡猾なやつだ。罠を張ってる可能性は十分にありえる」
「たしかに、ヒラク様のおっしゃるとおりですね! さすが、凡人とは思考回路も目の付け所もが違う! 本当にすごいです!」
十分に警戒しながら、俺はアクダクに尋ねる。
「【閉】とはなんだ?」
尋問して、以下のことがわかった。
【閉】とは、世界に破壊と混とんをもたらす者。その組織の名前でもあるし、組織のリーダーでもある。
【閉】は不思議な力、そして邪神の力を使い、秘密裏に破壊活動を続けている。
組織には魔族を含め、多くのものがかかわっている。
「つまり、【閉】とは、世界の破壊を企む、悪の秘密組織、そしてそのリーダーの名前ということなのですね」
「ふむ……。次の質問だ、【閉】のアジトはどこにある?」
《アクダク:ゲータ・ニィガ王国に、》
ふむ……なんと。
ゲータ・ニィガ、つまり、俺の故郷、マトー家のある国に、アジトがあるとは……。
《アクダク:に、ににに、35ymじょ35myhp46お@うhw6jh4》
「!? ひ、ヒラク様! アクダクの様子がおかしいです!」
「あべばばばばうぼびゃああああああああああああ!」
アクダクは白目をむいて、大きく口を開くと……。
どさ!
「ひ! し、死んだのですか……? 口封じのために……?」
確かに今までも、魔族は余計なことを言わないように、自害を強制する魔法をかけられていた。
だが……。
「ミュゼ、警戒しろ。来るぞ」
その瞬間だ。
ドバァアアアアアア! とアクダクの口から、黒い何かが吐き出された。
俺は氷で結界を作り、黒い煙から身を守る。
煙は空中で一つの形をとる。
「な、なんでしょう……あの、おぞましい、半透明の化け物は……?」
アクダクの口からは吐き出された黒い煙は、見るからにおぞましい化け物の姿をしていた。
全身に目玉がついてる、化け物。
「鑑定」
■邪霊アクダク
→邪神の呪いで、悪霊となったアクダク。邪悪なる力で生者の命を刈り取る。
「ミュゼ、こいつは邪霊。悪霊化したアクダクだ」
《邪霊アクダク:艮》
瞬間、俺の体が、石になる。
「ヒラク様!? まさか石化の魔法!?」
《邪霊アクダク:3、2……》
ふむ、スキル、明鏡止水、発動。
その瞬間、思考が1000倍に加速される。
アクダク、そしてミュゼの動きが止まる。
思考加速により、考える時間を得た。さて、敵の攻撃を分析しよう。
■艮
→邪霊アクダクの呪い。その瞳に見られたものは石化する。3秒のカウントの後、対象は即死する。
……なるほど、厄介な呪いを使う。
3秒で石化を解除しないと、そのまま相手は死ぬようだ。
おそらく、【閉】がしかけたトラップだろう。
【閉】の情報をしゃべったものは死に、聞いたものを殺すための邪霊となる……か。
……人の命を何だと思ってるのだ。
【閉】め。直接会ったらこらしめてやらないとな。
まあそれはさておき。
まずはこの状況を打破せねばな。
~~~~~~
ヒラク・マトー
【状態】
石化
~~~~~~
俺はまず自分のステータスを開く。
開錠で、石化状態を解除。
パキィイイイイイイイイイイイイイン!
「ヒラク様! よかった、無事だったのですね!」
スキル明鏡止水が解除され、時間の流れが元に戻る。
「ああ。即死の呪いをかけられたが、問題なかった」
「すごいです! 即死攻撃すらきかないなんて! 無敵すぎます!」
邪霊状態のアクダクが、俺を見つめてきた。
「い、いけませんヒラク様! 敵がまだ生きてます……!」
「いや、戦闘終了だ。見ろ」
しゅうう……と邪霊アクダクの体から煙が出る。
そして、全身目玉の、悪霊だったアクダクが……。
『魂が……元に、もどったのか……?』
アクダクの魂が驚いてる。
『どうなってるのだ?』
「貴様にかけられていた呪いを、解除しただけだ」
~~~~~~
邪霊アクダク
【状態】
邪神の呪い
~~~~~~
↑は、さっきまでのアクダクのステータスだ。
「開錠を使えば呪いは解除できる」
「なるほど! 邪霊状態でなくなれば、即死攻撃は撃ってこなくなる! さすがです! 最小限の力で、敵を無力化してしまうなんて!」
正常な魂に戻ったアクダクが、涙を流す。
『ありがとう……呪いを解いてくれて……ありがとう……』
「ふん。礼など不要だ。俺は敵を排除しただけにすぎん」
『それでも、ありがとう……たすけてくれて……。地獄で、己の行いを反省します……』
しゅうう……とアクダクの魂は消えていった。
ミュゼは涙を流しながら、拍手している。
「さすがです、敵にすら、情けをかけてあげる。その高潔なる精神に、私は感動で打ち震えております!!!」
ふむ……まあ地獄で反省するというのだから、その末期の言葉くらいは、信じてやるか。
こうして、【閉】の情報も獲得し、邪霊となったアクダクを討伐したのだった。