46. 祭りの屋台と大道芸
子ども向けの屋台は、広場の一角に集まっていた。
わらわらと子どもたちが群がっていて、遠目からでも場所がわかりやすかった。
お菓子やジュースをもらい、ほっぺたを真っ赤にして、にっこりと笑う女の子。
あれが欲しいこれが欲しいと、必死に親にねだっている男の子。
仮面を邪魔がってポイッと捨てていたり、せっかくもらったお菓子を落としてしまい泣いている子もいる。
僕にとってはリュカが一番ではあるけれど、どの子も微笑ましく可愛いらしかった。
(ヴァレーってこんなに子どもがいたんだな)
そんなことを思いつつ、さっそくリュカのために黒葡萄ジュースをもらう。
僕は「お兄ちゃんにはこっちの方が良いよ」とおすすめされた、ホット黒葡萄ジュースを受け取った。
「はい、リュカ。にいにと乾杯しようね」
「かんぱい?」
「そうだよ…こうやってコップをカツンとして…かんぱ〜い!」
「かんぱーい!」
ふーっと冷まして、一口飲んでみる。
「あ〜、美味しい〜」
「おいちいー!」
多分、黒葡萄の果汁とリンゴの果汁とで割られているのではないかと思う。
それに、ジンジャーのピリリとした辛さが効いている。
とてもフルーティーで甘くて、体が温まる気がした。
「にいに、もっかい!かんぱーい」
「はいはい、乾杯」
そうやって、乾杯を気に入ったリュカに何度もねだられて、乾杯をする羽目になったのはご愛嬌だと思う。
リュカに乾杯を教えたのは、早計だったかもしれない。
次に、ジュースを配っているちょうど隣で、揚げ菓子を配っていたのでそれをもらう。
近くで調理したものを運んできたのか、手に持つとまだほんのり温かかった。
「いただきます」
「いたっきまーしゅ」
齧ってみると、カリッサクッとした食感がいい。
味は揚げドーナッツに近いが、生地が軽い。それに、葡萄のジャムがかけられていて、美味しかった。
「にいに、これ、なーに?」
「油で揚げたお菓子だよ。リュカの好きな、葡萄ジャムがかかってるよ」
「かち!りゅー、これしゅき!あぐあぐ」
あっという間に、リュカはぺろりと食べ切ってしまった。
そして、物足りなさそうにしているので、僕の分を少し分けてあげる。
長年、リュカの兄をしているのだ。絶対こうなると思っていた。
「にいに、ありあとー」
「どういたしまして」
リュカが本当に美味しそうに、喜んで食べている姿をみると、僕も嬉しくなる。
そのほっぺや服についた食べかすを綺麗にして、洗浄をかけながら、チボーと世間話をした。
「…ヴァレーはいいところだね。僕、お祭りなんて初めてだよ。ソル王国じゃ、お祭りも甘いものを子どもに配ることもなかったし」
「ヴァレーは特産のワインが人気っすから、小さな町の割に余裕があるんじゃないすかね?それに、旦那様たちが色々と気にかけてくれてるっすから」
「確かに、余裕はあるね」
でも、それだけではないと思うのだ。
ヴァレーの人々は、朝早くから本当によく働く。けれど、決して無理をしている感じはしないのだ。
楽しそうに笑い、おしゃべりや歌を歌いながらも、手は止まらない。
そして日が暮れれば家に帰り、家族との時間を過ごす。
日々の暮らしを、一生懸命生きている気がした。
(僕の前世は、どうだったかな…。キリキリと緊張して、毎日朝から晩まで働き詰めで…。すごく疲れてた気がする)
ふと、超高層ビルのオフィスから、煌びやかなネオンを見下ろしていたことを思い出す。
高給取りだと、人から羨まれることもある仕事だったけれど、実情なんて泥臭いことばかりだった。
終わらない情報収集と資料作成。できて当たり前というプレッシャー。
働き方改革なんて別世界の話だと、栄養ドリンクを片手によく愚痴っていた気がする。
そんな前世の記憶があるからこそ、ヴァレーの時間の流れや雰囲気を、一層尊く思うのかもしれない。
「ルイ坊ちゃん。ぼうっとしてどうしたっすか?」
「…ううん。なんでもないよ。それより僕、甘いものを食べたら、しょっぱい物を食べたくなっちゃった」
「それなら、オレのおすすめの屋台が出てるっすから、案内するっす!いやー、やっぱりルイ坊ちゃんも食いしん坊っすね!」
「案内は嬉しいけど、チボーって一言多いよね…」
「それがオレっすから!」
開き直ってにししと笑う顔に、僕は毒気が抜けた。
チボーおすすめの、ハーブ肉にとろ〜りチーズをかけたものは、すごく美味しかった。
これは確かにすすめるだけある。
目の前で、真っ白な煙をもくもくあげながら、炭火で焼かれる香ばしいお肉に、鼻を抜けるハーブがよくあう。
さらに、その全てをチーズが丸く包み込んでいた。
(チーズがみょーんと伸びるのって、なんでこんなに食欲を誘うんだろう?)
僕は好物のチーズを食べられて、ご機嫌だった。
チボーがそんな僕をニヤニヤ見ているのは、気づかないふりをする。
その後も、色々と見て回った。
屋台はヴァレーの食堂が出していて、目移りしてしまうほど種類があった。
鉄板で豪快にソーセージを焼いていたり、木組みの屋台でチーズやパン、豆の煮込みなどを売っていたり。
気になるものを1つずつ買って、僕とリュカ、時々チボーとも分けたので、結構色々な種類が食べられた。
そうして僕たちは、お腹もいっぱいになって少し歩き疲れたので、ステージ付近のテーブルで一休みすることにした。
ステージでは、ちょうど小動物たちによる大道芸が始まったところだった。
普段は葡萄畑で活躍しているミンクリスやネズミ、ウサギたちが芸をするらしい。
ちなみに、うちのメロディアは、今日は部屋でお留守番だ。
メロディアが大好きなリュカは、僕の膝の上でわくわくしながら見ている。
魔法使いの格好をしたテイムのスキル持ちが、観客にぺこりとお辞儀をする。
そして、おもむろに手に持っていた魔法の杖を振ると、軽快な音楽が流れ出した!
その音楽に合わせて、小動物たちがお座り、ジャンプ、おまわりなどをしていく。
それは音楽と相まって、コミカルに踊っているかのように見えた。
リュカは、じっと座っていられなくなって、僕の膝から降りてお尻をふりふりさせている。
小動物たちがジャンプすると、リュカもジャンプするので、おもしろかわいかった。
小動物たちは見事なもので、さらに革製のボールに乗って器用に転がしたり、魔法使いが手に持った木の輪を通り抜けたり。様々な芸を見せてくれた。
そして、最後は魔法使いと一緒に、1匹ずつ縄跳びをぴょんと飛んでフィニッシュだった。
いい具合にお酒が入っている大人たちから、野次と歓声と指笛が上がる。大盛り上がりだ。
結構、おひねりも入っているように見える。
それも当たり前だと思う。
まさか、ここまでパフォーマンス性に溢れる芸をテイムで仕込めるとは、誰も思っていなかった。
やろうと思ったあの魔法使いはすごい。
「にいに!りゅー、あれ、やりちゃい!」
「…リュカもやりたいの?」
リュカはすっかり魅了されて、青い目をきらきらさせている。
心なしか、ふんすと鼻息も荒いような気がする。
「めろちゃんと、ぴょーんしちゃい!」
興奮と、動いたことで汗ばんだ榛色の柔らかなパーマの髪を撫でる。
「おねぎゃい!」とねだられると、嫌とは言えないお兄ちゃんだ。
リュカを抱っこして、また膝に乗せると、目を合わせて約束する。
「メロディアが嫌がったら、やめること。お約束できるかな?」
「あい!」
「よし。それなら、ちょっとずつ、練習しようか」
「やっちゃー!」
リュカが万歳をして、僕に抱きついてくる。
4歳は、まだまだ素直で甘えん坊だ。
僕はそんなリュカを抱きしめて、そう独りごちた。
※ 2024/02/23(金) 01:08 サブタイトル修正