【二十四人目】 苦労して手に入れたモノはすぐ飽きて、近くにあることさえ気付かないモノはずっと飽きない
「また、飽きた」
「えっ、でもまだ一週間なのよ?」
俺の言葉に驚いているのは俺の幼馴染みだ。
「だって、あんなに苦労してレベルを上げたのに、最後のボスが弱すぎて、貰える経験値も少なくて、期待を裏切られた感じなんだよ」
「寝るのも忘れてあんなに頑張っていたのにね。期待なんてしなければいいのよ」
「誰でも期待するだろう? 俺の時間を返せよ」
「私に言われても困るわ。それに、あなたが飽きなければいいのよ」
彼女は俺を睨みながら言った。
「だって俺って、すぐに飽きるタイプだろう?」
「そうね。今までどれだけの物を飽きてきたと思っているの?」
「基本的にテレビゲームは殆ど飽きてるよな?」
「そうね。テレビゲームだけじゃなくて、漫画本、習い事、ギター、カードゲーム、ブランドの洋服。ありすぎて困るわね」
「それに比べ、君は飽きることなく何でも続けているんだよな?」
「そうよ。私は好きな物を選んでいるからね」
「俺だって好きな物を選んでいるつもりなんだけどな?」
俺には、このままだと何も残らないんじゃないのかと不安になる。
彼女のように何か一つでもいいんだ。
何かを続けなければ。
◇
「なあ、俺ってこのままだと何も残らないよな?」
「はあ? 何を言ってんだよ」
ある日、俺は友達に相談した。
「俺ってすぐ飽きるから何も残らないと思うんだよ」
「俺だって飽きるから、そんなに気にすることはないだろう?」
「お前と次元が違うくらいすぐに飽きるんだよ」
「お前を見ていて思うけど、幼馴染みはずっといるじゃん」
「えっ、ああ。そうかも」
彼女は小さな頃からずっと隣にいる。
「あの子がいれば大丈夫だと思うけど?」
「何でだよ?」
「あの子、可愛いじゃん。あんな可愛い子がいれば飽きないだろう?」
「可愛い? あいつが?」
「先輩とかに人気みたいだし」
「えっ、あいつが? 信じられないんだけど?」
「お前は近くに居すぎて分かんないんだよ」
「そっか。あいつがいれば大丈夫なんだな」
俺は彼女を手放さないようにしようと思った。
彼女が俺の傍にいてくれれば大丈夫だと思う。
その証拠に彼女に飽きていない俺がいるんだ。
◇◇
「ねぇ、ちょっと話があるの」
彼女は俺の家に来て玄関で言った。
「何?」
「玄関じゃ話せないよ」
「あっ、そう。俺の部屋でいいか?」
「うん」
俺達は俺の部屋へ入る。
俺はベッドに寝転がる。
彼女は絨毯の上に座り、俺のベッドに背を預けている。
「それで話って何だよ?」
「私、先輩に告白されちゃったの」
「へぇ~」
「お付き合いをするか迷ってるの」
「付き合えば?」
「そうだよね。あなたはそう言うと思ったよ」
「えっ、それなら何で聞くんだよ?」
「ん? 分かんない」
「そう。あっ、そう言えば、俺の友達が君のことを可愛いって言ってたよ?」
「そんなことないのにね」
「えっ、良く見たら君って可愛いのかも」
「かもってなによ」
彼女は怒って俺の方を向く。
「だから俺は君に飽きないのかな?」
「えっ」
「だってそうだろう? 何でもすぐに飽きる俺が、君にだけは飽きないで、ずっと一緒にいるじゃん」
「そうだね。でもいつまでも一緒にはいられないよ」
「何で?」
「だって私は先輩とお付き合いするのよ? あなたと一緒にいることはなくなるわよ?」
彼女が先輩と付き合えば、俺は邪魔者になる。
彼女の隣は俺の場所なのに。
彼女は俺の、たった一つの飽きなくてずっと残るモノなのに。
「それは困る」
「どうして困るのよ?」
「君がこれから俺に教えてくれるんだよ」
「私が? 何を?」
「君が飽きない方法を教えてくれるんだ」
「私は、そんな方法は分からないから、教えてあげられないよ?」
「君と一緒にいれば分かるだろう? 君にはあって、すぐ飽きる物にはないものがさ」
「でもあなたは先輩とお付き合いをしていいって言ったじゃない?」
彼女は不安な顔をして言った。
「あの時は何も考えていなかったんだ。だからやっぱり先輩と付き合うのはダメ」
「もう! 何なのよ」
あれ?
何で彼女は怒ってんの?
ん?
何か俺って、彼女の気持ちを考えていない気がする。
待てよ。
俺って今まで彼女の意見を聞いていたか?
俺は今までのことを思い出してみた。
◇◇◇
「ねぇ、もう寝た方がいいんじゃない?」
「ん? まだ大丈夫」
俺はそのままゲームを続ける。
そのまま朝まで寝らずにゲームをして、風邪をひいてしまった。
「ねぇ、漫画本は読んだら本棚になおさないと、汚れるわよ?」
「ん? まだ大丈夫。あっ」
漫画本にカレーが落ちた。
漫画本は汚れて、カビが生えてゴミ箱行きになった。
「ねぇ、そろばん教室に行かなくていいの?」
「ん? まだ大丈夫」
そしていつの間にか寝てしまって、母親にそろばん教室に行かなかったことを怒られた。
そしてそのままそろばん教室は行かなくなった。
「ねぇ、ギターの練習はしないの?」
「ん? まだ大丈夫」
「何が大丈夫なのよ。ギターを買うって言ってたでしょう?」
「ん? 最近、好きなブランドができてさ、その洋服とか買ったらお金なくなったから、もうギターはいいよ」
「そう」
ギターは今でも全然、弾けない。
彼女は、俺が飽きる前に伝えてくれていたんだ。
俺はそんな彼女の言葉を、全然聞いていなかった。
◇◇◇◇
「今までごめん」
俺は怒っている彼女に頭を下げて謝った。
「えっ」
「君の気持ちも、君の言いたいことも、全部気付いたんだ」
「どうしたの?」
「先輩と付き合いたいならいいよ。君の気持ちは分かったから」
「分かってないよ」
彼女はさっきよりも、もっと怒っている。
「なっ、何でそんなに怒ってんだよ?」
「だって、私は先輩なんて好きじゃないからよ」
「えっと、意味が分からないんだけど?」
「あなたは私の気持ちを聞いてくれるの?」
「うん。君の言葉をちゃんと聞くよ。もう、何も聞き逃さない。それが俺の飽きない方法だから」
俺の言葉を聞いて彼女は笑顔になった。
「私はあなたが好きよ」
「えっ、だってこんなダメダメな俺を?」
「あなたは頑張り過ぎるから、すぐに飽きちゃうのよ。もう少し力を抜けばいいのよ」
「ギターのことは力を抜き過ぎだろう?」
「ギターは、買うことばかりに力を入れ過ぎて、弾くまでいかなかったのよ」
「君って俺のこと分かってるじゃん」
「そうよ。でも、あなたにはちゃんと自分で気付いてほしかったの」
彼女は俺に微笑んだ。
「やっぱり良く見ると可愛いのかも」
「だから、かもって何なのよ」
彼女は俺の方を向いていたのに、拗ねたようで顔を背けてしまった。
そんな彼女も可愛く思えるのは、彼女が好きだからなんだと思う。
俺の飽きないモノは、好きなモノ。
俺の好きなモノは、ずっと隣にいても飽きることなく好きなモノ。
俺の隣にずっと居てくれた彼女。
そんな彼女は俺の、、、。
大好きな人。
「好きだよ」
「私も好きよ」
俺達は笑い合った。
二人とも、少し顔を赤くして。
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次のお話は、社長令嬢の婚約者に選ばれた主人公の彼の物語。
何故いきなり平凡な彼が、大金持ちの彼女の婚約者になったのか。