【三十二人目】 楽しいのは幼馴染みの君といるからだと気付いたのに君は違うみたいだ
「明日は遠足だね」
幼馴染みの彼女は、嬉しそうに俺の部屋で買いすぎた遠足のお菓子を選んでいた。
「そうだけど歩いて行くんだよね?」
「そうだよ。楽しみだね」
「俺は歩きたくないんだよね?」
「それなら私が手を引っ張ってあげるよ」
彼女はそう言った後、笑って俺の手を引っ張る。
「今はまだしなくていいよ」
「明日の為の練習だよ?」
「君の力じゃ俺の体は動かないと思うけどな?」
「そんなことはないわよ」
彼女はそう言って頬を膨らまし、怒っているようだ。
「それなら明日、楽しみにしておくよ」
「そうしてよ。私だって、あなたの役に立てるんだからね」
彼女は嬉しそうに笑って言った。
◇
次の日は遠足日和になった。
雲一つない晴天だ。
それなのに、学校へと続く道を歩いている彼女の顔は、どんより曇っている。
「どうしたんだよ?」
「ん? 何でもないよ」
彼女は無理をして笑っていた。
絶対に体調が悪い。
俺は彼女のおでこに手を当てた。
やっぱり熱がある。
「早く家へ帰りなよ」
「嫌」
「ダメだって。体調が悪いのに、無理して歩いたら悪化するだろう? それに君が一番キツイだろうし」
「行きたいもん」
「楽しみにしていたのは分かるけど、君は楽しめないと思うよ?」
「楽しむもん」
彼女の意地なのか、全く俺の意見を聞かない。
「行ったら後悔するよ? 歩いて行く時に座りたいと思っても、座れないかもしれないし、友達に心配をかけるし、先生にも迷惑をかけると思うよ?」
「行きたいもん。一人で家にいるのは嫌だもん」
彼女は泣きそうになりながら言っている。
そんな彼女の頭を撫でた。
「それなら俺も一緒に家にいようか?」
「ダメよ。あなただって遠足に行きたいでしょう? 遊園地に行くんだよ?」
「君が行けないのに俺が楽しめる訳がないじゃん」
「私のせい?」
彼女は自分を責めるように言った。
「違うよ。俺の気持ちの問題だよ」
「あなたの気持ち?」
「君がいなくて楽しめるのかなあって思ったんだよ。俺が楽しむ時はいつも君がいて、楽しそうにしているんだよ。そんな君がいなくて楽しめると思う?」
「でも楽しんでよ。私が行けない代わりに、楽しんでよ」
「それなら君は行かないんだね?」
「うん。お家でじっとしているから、あなたは楽しんで来てよ」
彼女は俺の目を真っ直ぐ見て、言った。
嘘じゃないようだ。
「さっきまで行くって言っていたのにどうしたの?」
「本当は一緒に行きたいのに、あなたはそれを我慢しているんでしょう? 私と一緒に行った方が楽しいのに、それを我慢しているんでしょう?」
彼女は首を傾げて俺に言った。
「俺は君と一緒にいるから何でも楽しいんだよ。今だって学校へ続くこの道を、君と歩いているだけで心が踊るんだ」
「えっ、いつものこの道を一緒に歩くだけで楽しいの?」
「そう。それほど君は俺にとって、一緒にいるだけで何でも楽しめる存在なんだよ」
「私はあなたの特別な幼馴染みだね」
「特別な幼馴染み?」
「そうだよ。あなたにとって私は、大切な幼馴染みなんだよ」
彼女は嬉しそうにそう言った。
彼女は自分が言ったことの意味を分かっているのだろうか?
分かっていないだろう。
だって、特別な幼馴染みなんて言うんだから。
俺は彼女にとって特別でも、幼馴染みには変わらないんだ。
恋人なんかじゃない。
「それなら家まで送るよ」
「うん」
そして彼女は俺に手を差し出した。
「何で手を出すの?」
「引っ張ってよ」
「どうして?」
「私は体調が悪いのよ?」
「でも昨日は、俺を引っ張るって言ってたのに、今日は引っ張れって言うのか?」
「だって手を繋いで帰りたいんだもん」
「仕方ないな」
俺は彼女の手を握り、来た道を戻る。
彼女の言葉を聞いて、少しニヤケながら彼女の手を引っ張り前を歩く俺。
彼女は気付いていないと思う。
俺が彼女の言葉、一つ一つに一喜一憂することを。
そして彼女はもう一つ気付いていないと思う。
俺が彼女を好きだってことを。
◇◇
「遠足はどうだったの?」
俺は遠足から帰って、彼女の部屋へ来ていた。
「楽しかったよ」
「え~私がいなかったのに?」
「嘘。ずっと君のことばかり考えていたよ」
「えっ」
彼女は顔を赤くして照れている。
「君はちゃんと寝てたの?」
「うん。夢で、あなたと遊園地で遊んでいたの」
「そっか。それなら今度、一緒に遊園地に行こうよ?」
「うん」
「ねえ、二人で遊園地に行くって、どういう意味か分かる?」
「ん? 何だろう?」
「デートだよ」
「デート!」
「楽しみだね?」
「うん。楽しみだね」
彼女は、デートの意味も分かっていないんだろう。
まぁ、俺が一つ一つ教えてあげればいいだけだ。
「ねぇ、大好きよ」
「えっ」
彼女がいきなり俺に言ったから、俺は驚いて彼女を見る。
「私はあなたが大好きよ」
彼女はニコニコしながら言った。
「俺も君が大好きだよ」
俺がそう言うと彼女はクスクスと笑った。
「どうして笑うんだよ?」
「知ってるもん」
もしかして彼女は分かっていたのかもしれない。
俺が彼女の言葉、一つ一つに一喜一憂することも。
デートの意味も。
そして何より、俺が彼女のことを好きだということも。
だって彼女は、俺の大好きな笑顔で大好きって言ったんだから。
「熱は下がったの?」
「うん。だから今から二人で遠足だよ」
「えっ」
彼女はそう言って、お菓子をリュックから出した。
「これは私ので、これはあなたの」
彼女はお菓子を俺と彼女の分で分けだした。
「このお菓子は君のだろう?」
「でも、あなたはお菓子を食べてきたでしょう?」
お菓子は遊園地で全て食べた。
「私達、二人だけの遠足はチョコも食べられるんだよ?」
彼女はそう言って、俺に丸いチョコをくれた。
「チョコなんて遠足に持って行ったら、溶けるからね。たまにはこの部屋で、遠足気分を味わってもいいかもね」
「私は遠足気分にはなれないわ」
「えっ、でも君が二人だけの遠足だって言ったよね?」
「うん。でもこの部屋は私の部屋だから遠足気分にはなれないの」
彼女の言っている意味が分からない。
自分で遠足だって言ったんだよ?
「次はこのグミを食べて」
「えっ、何で? 遠足気分にはなれないって言ったのに、俺には遠足気分を味わえってことなの?」
「次はスナック菓子よ。はいどうぞ」
やっぱり、彼女が何をしたいのか分からない。
お菓子は美味しくて、どんどん食べてしまう。
でも彼女も楽しそうだ。
「君は食べないの?」
「私は後で食べるよ」
「どうして後でなの?」
「ん? あっ、全部食べたわね?」
「えっ、あっ、うん」
「それじゃあ、移動よ」
彼女はそう言って、パジャマのまま部屋を出た。
そして玄関へ行き、外へ出る。
熱は下がっても、外で歩くのはまだやめた方がいい。
「まだ歩かない方がいいと思うよ?」
「そんなに歩かないから大丈夫よ」
心配している俺に、彼女は平気な顔をして言った。
「確かにそんなに歩かないけど、どうして俺の部屋なんだよ?」
「次は私の遠足だよ」
彼女はニッコリ笑った後、お菓子をリュックから取り出す。
「私もチョコを食べようかな?」
「俺のはないの?」
「あなたはさっき、食べたでしょう?」
「でも二人だけの遠足にはならないじゃん」
「仕方ないなぁ。あなたがこの部屋でも、遠足気分を味わえるなら、お菓子をあげるわよ」
俺は首を縦に振って返事をした。
そして俺達はお菓子を食べながら、今日の遠足の話を彼女に聞かせた。
水筒がない彼女にお茶を飲ませたくて、俺はキッチンへ向かった。
お茶を持って部屋へ戻ると、彼女が眠そうにしていた。
「まだ動いたらいけなかったね」
「私は大丈夫だよ」
「それは分かったから、君は俺のベッドで少しだけ眠りなよ」
「うん。ベッドで寝ることができるのも、二人だけの遠足だから出来るのよ」
彼女がベッドへ入ると、すぐに寝息が聞こえた。
俺は彼女のおでこに触れて、熱がないことを確認した。
「君の寝顔を見れるのも、二人だけの遠足だからだね」
俺はスヤスヤと眠る、彼女の頬に触れた。
彼女が愛おしくて堪らなくなった。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、学校一の美少女が、主人公の妹になることから物語は始まります。
美少女が妹になったことで、彼の生活が変わっていきます。
そんなある日、事件が起きます。
その事件によって、二人の距離が近くなるのか遠くなるのか?