【五十二人目】 優しい君は人気者。怖い俺は嫌われ者。~姫と狐王子~
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まただ。
俺は今、先輩から呼び出され、校舎裏に来ていた。
この場所には何度も来ている。
「おいっ、何だよその目付きは?」
「俺は元々、目がつり上がって睨んでいるように見えるんですよ」
「は? なめてんのか?」
不良の先輩に絡まれている。
俺のこの目付きは生まれつきだ。
どんなに目を大きく見開いて頑張っても、つり上がった細い目のままだ。
「お前、生意気なんだよ」
一人の先輩に顔を殴られた。
俺、何もしていないけどな?
そっちがやるなら俺も手を出していいよな?
俺は拳に力を入れた。
その時だった。
「ダメ~」
誰かが俺の拳を両手で包む。
そして俺を見上げた。
「姫」
不良の先輩の一人がそう言った。
「ちょっと、ダメだよ喧嘩は。みんな仲良くしなきゃね」
「姫、ごめんな」
「分かればいいの」
不良達は姫と呼ばれる人物に謝り、そして帰っていく。
そんな様子を見ながら姫と呼ばれる人物は、まだ俺の拳を両手で包んでいる。
姫と呼ばれるこの人物は、その名前がお似合いの女子だ。
俺の一つ上の先輩だが、どう見ても俺より年下に見えるほど童顔で、大きな目は彼女の可愛さを倍増させている。
いつでもニコニコと笑う彼女は、まさしく姫なんだ。
「早く力を抜きなさいよ」
「えっ」
「拳の力を抜くのよ」
俺は姫に言われて、拳にまだ力を入れていることに気付いた。
「手を先に出されても、あなたは出したらダメでしょう?」
「だって」
「いつも私が助けられる訳じゃないんだから、一人で行動するのはやめてよね」
「今回はいきなり睨まれて断れなくて、、、」
「私はあなたを守るって決めたんだからね」
「守られなくても大丈夫なんだけど、、、」
「ダメ。あなたは敵しか作らないんだから。友達も作らなきゃ学校が楽しくないでしょう?」
「はいはい」
「『はい』は、一回でしょう?」
「分かったよ」
俺は姫とは仲が良い。
何故、姫と仲良くなったのか、それは姫が他校の不良に絡まれている所を俺が助けたんだ。
姫は助けられたお礼に、俺を学校の不良から守るって言ったんだ。
そして今に至る。
姫の効果はこの学校の不良には絶大だ。
誰も姫に逆らわない。
可愛い姫に嫌われたくないんだ。
彼女は姫で、俺は目がつり上がっているから狐だな。
姫と狐。
学校の中で、俺と姫が仲良いことを知っているのは、俺達二人と俺の友達が一人だけだ。
俺にも一人だけ友達がいる。
小学生からの腐れ縁だ。
「あっ、姫」
姫を呼ぶ声がして俺は姫の手を振り払った。
姫に手を握られているなんて誰かに見られたら、何を言われるか分からないからだ。
姫は俺が手を振り払ったことに驚いていたが、すぐに声がする方へ笑顔を作って振り返った。
「あれ? 執事くん?」
「姫。あいつの居場所を聞こうと思ったけど、一緒だったんだね」
姫を読んだ奴は俺を探していた。
そいつは執事と呼ばれている。
執事と呼ばれるこいつは俺の唯一の友達だ。
こいつが執事と呼ばれる理由。
それはこいつの顔がキレイに整ったイケメンだということと、姫の落としたハンカチを拾った時に言った言葉のせいだ。
執事はこう言ったんだ。
『お姫様。大事なものを落としましたよ』
それだと執事ではなく王子様の方が似合っているが、その時の執事の体勢が、まるで下の身分の者がお姫様に物を献上するように両膝をつき渡していたんだ。
それを見ていた女子がこいつを執事と呼んだ。
そして執事は姫に恋をしていると噂がたった。
そんな噂をこの二人は気にしてはいないように見せている。
だが俺には分かっている。
姫は執事が好きだ。
だって執事がいると、俺との距離が離れるから。
話し方も態度も、さっきまで仲良く話していたのに、いきなり素っ気なくなる。
だから俺は二人が一緒の時は、その場から離れる。
だって狐の俺がいては二人の邪魔になるから。
姫と執事はお互いに恋をしている。
「執事が来たから俺は教室に帰るよ」
俺はそう言って、二人に背を向けて歩き出す。
執事は俺に、お前に話があるんだよって言っていたから、教室で聞くと返事をして教室へ戻った。
俺は狐。
人間になれない狐。
姫を好きになることなんて許されていない。
俺は可哀想な狐。
◇
「なあ、最近の姫って少し元気がないよな?」
「ん? そうか?」
昼休みに執事と弁当を食べている時に、執事は俺に訊いてきた。
姫が元気がないなんて、何処を見て言ってるんだよ。
いつもニコニコして楽しそうにしているじゃん。
「お前って、ちゃんと姫を見ているのか?」
「その質問の意味が分からないんだが?」
執事の言っている意味が分からない。
見ているに決まっている。
彼女は俺を助けてくれるんだ。
いつもニコニコ笑って。
「それなら質問を変える。姫はいつも、誰を見ているか知っているのか?」
「そんなの色んな人を見ているだろう?」
「ちゃんと答えろよ」
「何なんだよ。お前の言いたいことが分からないんだよ」
「お前のせいなんだよ」
「俺のせい?」
「お前の目は飾りなのか? ちゃんと見えてんのか?」
「俺の目は狐みたいにつり上がって細いんだから仕方がないだろう?」
執事に言われてイライラする。
俺だって好きで、こんな目になった訳じゃない。
「目のせいにするなよ。お前は見ようとしていないだけだ。お前は狐じゃない。心の目で見ることができる人間なんだよ」
心の目?
なんだよそれ?
俺に心の目があっても、狐の目と同じだよ。
「心の目? 何それ?」
「目を閉じて、思い出したい人を思い浮かべた時に見えるだろう? 俺はそれを心の目って思っているんだよ」
「心の目、、、そうかもな」
「最近の姫を思い出してみろよ。お前にはどう見えるんだ?」
俺は目を閉じて姫を思い出す。
俺を助けてくれた後に笑う姫。
俺が手を振り払った時に、驚いた顔をした後に作る笑顔の姫。
執事に笑いかける姫。
友達に笑いかける姫。
ん?
違う。
姫の笑顔は、人によって違っているんだ。
何でなんだ?
どうしてなんだ?
分からない。
姫の気持ちが分からない。
「俺、ちょっと行ってくるわ」
「そっか。行ってこい」
執事には分かっているのかもしれない。
俺が今からすることを。
それを止めようとしない執事は、彼女の気持ちを知っているんだろう。
俺の気持ちも。
俺は走る。
姫に会いに。
姫の教室に行く。
姫はいない。
何処にいるんだ?
俺は姫を探しに色んな所を走る。
廊下、体育館、校舎裏。
そして姫を見つけた。
そこは渡り廊下。
「姫」
俺が姫を呼ぶと、姫は振り向いて驚いている。
俺は今まで人前で姫を呼んだことはない。
だから俺を見て驚いているんだ。
「どうしたの?」
「姫。どうして最近、元気がないんだよ?」
「そう? いつも通りだと思うけどな?」
「それなら俺に笑って見せてよ」
「えっ無理よ。あなたに作った笑顔は見せられないわ」
姫はそう言って自分の口を両手で押さえた。
まるで、言ってはいけないことを口にしたことを隠すように。
「どういう意味かな?」
「聞こえなかったことにはできないよね?」
彼女は両手を退けて困った顔で言う。
「うん。しっかり聞いたよ」
「それなら、あなたはどうして人がいる所で私を呼んだの?」
彼女は俺の質問に答えず質問で返してきた。
言いたくないならいいよ。
俺には分かっているから。
そして俺は姫を抱き寄せ彼女を見下ろす。
彼女は驚きながら俺を見上げる。
「俺は君を奪いに来たからだよ」
俺は姫を見つめながら言った。
姫は何も言わず、俺を見上げ見つめるだけだ。
「姫?」
俺は姫の答えが聞きたくて姫を呼ぶ。
「とっくの昔に奪われているわ」
姫はそう言って、俺に可愛い笑顔を見せてくれた。
この笑顔は俺にしか見せない笑顔だ。
◇◇
「あっ、見てよ。狐王子がいるわよ」
「あっ、本当だ。今日はどっちなの?」
「狐? 待ってよ姫が隣にいるわよ」
「それなら王子様ね」
「そうね。ほらっ、姫が嬉しそうに笑っているもの」
俺は狐王子と呼ばれるようになった。
俺は姫の隣にいる時は王子様になるらしい。
姫と王子。
そして姫が隣にいなければ、目のつり上がった狐。
狐は姫に会いたくて王子様の姿になっている。
そう、女子達の間で噂になった。
狐が王子様に化ける。
狐が化けるじゃなくて、狸じゃなかったかな?
まあ、俺は狐だから狐が化けるんだよな。
王子様に。
「ねぇ、狐王子」
「何? お姫様」
「大好きよ」
「俺も大好きだよ」
「どんな姿のあなたも大好きよ」
お姫様は、それはそれは幸せそうに笑って言いました。
終わり
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、夢では主人公の彼のことを知っていると言ってくれる美少女は、現実では全く知らないという物語。
そんな二人が現実で出会ったら、どうなるのでしょう?