【六十人目】 「私が彼の恋人です」彼女はそう言って俺を助けてくれたがその彼女は女子高生でした。
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今日も元恋人が俺に言ってくる。
「ねぇ、やっぱり私達は別れたらダメだったのよ」
君が言ったんだよ?
好きな人ができたから別れようって。
それが別れたらダメだった?
それでやり直せると思っている訳?
元恋人は俺にそう言って、会社の帰り道に待ち伏せをしている。
もうストーカーの領域に入っているんじゃないのか?
いい加減やめてほしい。
「俺には恋人がいるんだよ」
「どこにいるの?」
「今日は忙しいみたいだからさ」
「嘘でしょう?」
ヤバイ。
嘘がバレる。
「私が彼の恋人です」
ん?
俺の恋人?
そんな人はいないはずだけどなぁ?
俺は声のした方を見ると、美人が立っていた。
美人ですがもっと違う言い方をすると、美人な女子高生がいた。
「本当に恋人がいたの? それも女子高生なんてロリコンじゃん」
元恋人は俺をロリコンと言った。
「おいっ。ロリコンはやめてくれ」
「それならなんて言えばいいの? あなたみたいなおじさんが、女子高生の恋人を作るなんて、ロリコンしかないわよ」
俺はおじさんと呼ばれる歳だが、若い子が好きな訳ではない。
俺はしっかりした大人の女性の方が好きなんだが、何故か恋人になる人は子供っぽい人が多い。
「彼は私の恋人です。私の恋人に、そんな言い方をするのはやめていただけますか?」
元恋人は、女子高生の迫力に負けているみたいだ。
女子高生の若さや、女子高生の美人な顔や、女子高生の素敵なプロポーションや、女子高生の冷たい笑顔が元恋人に攻撃を与えていた。
元恋人は戦闘不能だろう。
もういいわよと言って、フラフラしながら帰っていった。
「ありがとう」
「いいえ」
俺が女子高生にお礼を言うと、彼女は首を振りながら言った。
「でも、どうして俺を助けてくれたのかな?」
「いつもあなたが迷惑そうな顔をしていたからです」
「いつもって俺を見ていたってことかな?」
「見ていたって言うよりも、嫌でも目につきました」
「それはお粗末なモノを見せてしまったかな?」
「いいえ。あなたが可哀想でした」
女子高生に、可哀想なんて思われる俺って何?
いじめっ子の元彼女にいじめられている、いじめられっ子なのかな?
それとも嫌なのに嫌だと言えない、小心者だと思われたかな?
「あなたは可哀想なワンちゃんでした」
「犬?」
俺は犬に見えていたのか?
そんなこと予想もしていなかったから、驚いてしまった。
「あなたは私のワンちゃんにそっくりなんです」
犬にそっくり?
そんなこと初めて言われたよ。
犬と飼い主が似ているのは見たことがあるが、俺は他人だ。
似る訳がない。
「君の犬に似ているなんて気のせいだよ」
「そっくりなんです。写真を見せますから見て下さい」
彼女はそう言って、バッグから可愛くデコレーションをされた手帳を出した。
彼女が手帳を開くと、犬の写真が貼られており、一つ一つコメントなどが書かれていた。
「このワンちゃんが一番あなたにそっくりなんです」
彼女が見せた犬の犬種は、ゴールデンレトリバーだった。
俺に似ている要素が分からない。
その写真の一言にはこう書いてあった。
『ワンちゃんが初めて私にお願いをしてきました』
そして犬の上目遣いの写真が一緒に貼ってある。
上から撮っただけでは? と思ったが、彼女が傷ついてはいけないと思い、言わなかった。
「この日、初めてワンちゃんが私にお願いをしてきて、それがおばあちゃんの命を救ったんです」
「えっ」
「あの日は暑い日でした。私とワンちゃんは、散歩をしていた時にいきなり、ワンちゃんが止まって私にお願いをするように、上目遣いで見てきたんです。その時に撮った写真なんです」
「そうなんだね」
「はい。それからワンちゃんは、近くの家に入ろうと私を引っ張りました。私はワンちゃんの力に負けて、近くの家のお庭に入りました。すると縁側で、倒れているおばあちゃんを見つけたんです。すぐに救急車を呼んで、おばあちゃんは助かりました」
「助かったんだね。良かったよ」
「本当に良かったです」
彼女は本当に嬉しそうに笑っている。
「でも、君は何故さっきから犬のことをワンちゃんって呼ぶの?」
「この子の名前がワンちゃんなんです」
「犬だからね」
「そうですね。それもありますがもう一つあります」
「えっ他にあるの?」
「ありますよ。ワンちゃんは保健所にいる所を、私が見て飼うと決めたんです」
「それとワンちゃんの名前の関係は?」
「私がワンちゃんにワンチャンスをあげたからです。そしてワンちゃんは私にもワンチャンスをくれました」
「ワンちゃんから貰ったワンチャンス?」
「はい。ワンちゃんがくれたワンチャンスは、私を学校へもう一度行こうと思わせてくれました。私はいじめられていたんですが!ワンちゃんはそんな私に優しくしてくれて、私に心の余裕ができました」
「犬は癒されるからね」
彼女が犬の話をしている時は、年相応に見える顔だ。
さっきまでは美人さんだったが、今は美少女だ。
彼女が美女だということは変わらない。
「私は今では、友達もできて普通に楽しく過ごしています」
「そうなんだ。良かったね」
「だからワンちゃんに似ているあなたにも、楽しく過ごしてほしくて。あなたに私は、ワンチャンスをあげました。あなたはそのワンチャンスを、生かしてくれますか?」
彼女は、俺がどんな答えを出すのか心配しながら俺を見ている。
「俺は、君ともう少しだけ一緒に話をしたいんだけどダメかな?」
「いいですよ。ワンちゃん」
「俺は犬じゃないんだけど?」
「あなたはワンチャンスを貰ったワンちゃんです」
「それなら君は俺の飼い主かな?」
「今はそうですね」
彼女は意味深な言い方をした。
俺は敢えて何も聞かない。
この先、俺と彼女が恋人になったことは、言うまでもない。
しかし今はまだ俺は彼女の犬である。
彼女が可愛い顔で俺に笑いかけている。
この時、犬の俺は彼女に恋をしていたんだと思う。
もし俺に尻尾があるのなら、止まることはなく左右に動いているんだと思う。
尻尾で想いを伝えるんだ。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、ある日人気アイドルと出会った主人公の彼の物語。
二人が出会ったのは二人だけの秘密。
その秘密が二人の愛を育む。