【六十三人目】 嬉しい時は笑うのよって言う美少女はいつも笑顔だから泣いたりしないのか気になった
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俺のクラスには美少女がいる。
彼女は笑顔がとても魅力的で、俺の友達も彼女に惚れている。
俺だって彼女に惚れている一人だ。
しかし俺が惚れているのは、彼女の笑顔が好きってだけではない。
惚れているという言葉ではなくて、気になっているの方がしっくりくる。
俺は彼女がいつも笑顔だから、笑顔以外の顔を見てみたいんだ。
特に、泣く顔を見てみたかった。
俺が女の子の泣く顔が好きだから、見てみたいと思ったわけではない。
だって彼女以外の女の子には、そんなことは思わないからだ。
「しかし、今日の美少女も笑顔が眩しいよ」
俺の友達が、彼女を眩しそうに見ながら言った。
「彼女の笑顔は綺麗だ」
俺も眩しそうに彼女を見て言った。
「そうだよな。彼女の笑顔を見れば、今日は一日楽しく過ごせそうだ」
「何言ってんだよ。お前は彼女の笑顔なんて見なくても毎日、楽しそうにしているよ」
「そうか? 俺って幸せなのか?」
「バカだから幸せなんだよ」
「なんだよそれは?」
友達は呆れながら言った。
彼女の笑顔は綺麗だ。
しかし綺麗……過ぎるんだ。
いつも綺麗に笑うことってできるのかな?
人には誰でも感情の浮き沈みがあるはずだ。
それなのに彼女には、嬉しいから笑顔になる。
それしかないんだ。
悔しい顔?
そんな顔なんて見たことがない。
体育祭の、選抜リレーのメンバーに選ばれる為の記録会の時、彼女はリレーには選ばれなかったが、選ばれた女子に頑張ってと笑顔で言っていた。
しかし俺は知っているんだ。
彼女が選抜リレーのメンバーに選ばれるように、公園で走る練習をしていたのを。
悔しくないの?
そう思った。
怒る顔?
そんなの見たことがない。
先生がいない為に授業が自習になった時に、自習プリントをせずに、ずっと話をしているクラスメイトが何人かいた。
彼女は自習係だった為に、そのクラスメイトに、プリントだけをすれば後は何をしてもいいから、と言っていたが彼女の話を聞かないクラスメイト。
彼女はもう一度クラスメイトに伝えたが、聞いてはくれない。
そんなうるさい教室に気がついた先生が教室へ入ってきて、授業が終わるまで教室で見張っている状態の時があった。
彼女が言っても聞いてくれなかったのに、先生がいることにより、うるさいクラスメイト達は自習プリントをちゃんとやっていた。
何度も同じ言葉を言わせて、普通は怒るだろう?
でも彼女は無視をされても、クラスメイトに笑顔で言っていた。
イライラしないの?
そう思った。
泣く顔?
そんなの見たことがない。
「ねぇ、あの子って、いっつも笑っていて気持ち悪いよね?」
「そうよね。あそこまでいつでも笑っていられると怖いよね?」
そんな女子の声が聞こえて、俺は廊下を歩いている足を止め、教室の中の女子達を見た。
その声の女子は彼女と仲が良い女子達だ。
「あの子って何を言われても笑っているから、あの子の気持ちが分からないわよね?」
「私もそれは思うわよ」
「笑わなければいいのにね」
その言葉は、今までの彼女を否定したんだ。
その言葉を彼女は、俺の後ろで聞いていた。
彼女が偶然、教室の前を通りかかったようだ。
「私が聞いていたことは秘密にしてね」
彼女は、それは綺麗に笑いながらウインクをした。
俺には彼女のその笑顔に違和感しかない。
綺麗に笑っているだけ。
今、その笑顔が必要なのかな?
今、そのウインクは必要なのかな?
今、彼女に必要なのは何なのかな?
今、彼女に必要なのは悲しむことじゃないのかな?
俺は彼女の手を引いて、近くの学習室へ入ってドアを閉めた。
「何、笑ってんの?」
俺は、少し低い声で言ってしまった。
でも俺の声で、彼女の綺麗な笑顔が崩れる。
俺が冷たくすれば、彼女は悲しむことができるのかもしれない。
「今って笑う所じゃないよね? 君は嬉しい訳じゃないよね?」
「友達が私の悪い所を教えてくれたのよ? 私の悪い所を見つけられて嬉しいから笑うのよ?」
彼女はまた綺麗に笑う。
笑う顔を崩してやりたい。
笑う顔を見たくはない。
「悪い所を陰で言われることが嬉しい訳? それなら面と向かって言われるのはどう?」
「えっ」
「俺は君のその笑顔が嫌いだ。いつも場違いな笑顔が嫌いだ」
「場違い?」
「そう。悔しいのに笑ったり、イライラするのに笑ったり」
「それは全部、嬉しいからよ。嬉しい時は笑うのよ」
彼女はそう言って笑った。
だからその笑顔は嫌いだって言ったじゃん。
「嫌い。その顔は大嫌いだ」
俺はそう言って彼女の右頬を優しくつまんだ。
「痛いよ。どうしてこんなことをするの?」
「その顔が嫌いって言ったじゃん。だから崩すんだよ」
「崩す?」
「君の綺麗な笑顔を崩すんだ。そうすれば泣けるだろう?」
「えっ」
彼女は驚いて固まった。
「君は笑うだけだから、友達に言われるんだよ」
「笑うだけ?」
「感情なんてたくさんあるのに、君は笑顔だけしかみんなに見せないからだよ。君は笑顔以外の感情を誰にも見せないから、周りは君の考えていることが分からないんだ。不安になって、どうすればいいのか分からなくなって陰で言ってしまうんだよ」
「でも、私は嬉しいから笑うのよ?」
「嬉しいから笑うのは分かるよ。でも感情ってそれだけじゃないんだよ? 人って色んな感情を、相手から読み取って相手を知るんだよ?」
「でも小さな頃から、私が笑うとみんなも笑ってくれるのよ?」
「それは君の笑顔が魅力的だからだよ。でもみんな、君の笑顔以外の顔も見たいと思っているよ。さっきの女子達だってそうだと思うんだ」
「そうなんだね」
彼女はそう言って涙を流した。
「えっ何で今、泣くの?」
「場違いの涙だね」
俺が慌てたように彼女に聞くと、彼女は泣きながら笑って言った。
彼女の涙は綺麗で、床へと落ちていくのがもったいないと思うほどだ。
だから俺は親指でそっと彼女の涙を拭った。
「泣く顔を見たいと思ったけれど、やっぱり涙を見ると苦しくなるね」
「苦しいの?」
「うん。君には笑っていてほしいって思う俺は、矛盾しているよね?」
「でも今の涙は場違いでしょう? 今は笑顔でしょう?」
彼女はそう言って笑顔を見せてくれた。
とても綺麗で眩しい笑顔を、俺だけに見せてくれた。
◇
俺は彼女の泣き顔も好きなんだ。
俺は彼女の怒る顔も好きなんだ。
俺は彼女の困った顔も好きなんだ。
俺は彼女の悔しい顔も好きなんだ。
それでもやっぱり一番は笑顔が好きなんだ。
何も感情を隠していない、嬉しそうな笑顔が大好きだ。
今日も向こうから走ってくる君は、嬉しそうに笑って手を振っている。
そんな君は、俺の婚約者だ。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、婚約破棄をいきなり婚約者に言われた主人公の彼の物語。
婚約者が何故そんなことを言ったのか知ったら、誰だって婚約破棄をしたくなると思う理由だと気付いた彼。