【六十五人目】 幼馴染みは中学生。まだまだ大人にはなれないみたいだ
俺の幼馴染みは中学生だ。
ただ顔だけは大人っぽい。
化粧をしている訳でもないのに大きい目。
長い睫毛は上を向いている。
黒くて長いストレートの髪は綺麗で、耳から落ちた髪をかきあげる時の仕草はドキッとしてしまう。
それでも彼女は中学生だ。
そして俺は大学生だ。
「お兄ちゃん」
幼馴染みの中学生は、俺の部屋に来て俺に抱きつくことが日課なんだ。
「おっ、中学生。今日も中学生だな」
俺はそう言って、後ろから抱きつかれた彼女の頭を、ポンポンと撫でる。
「中学生なんて呼ばないでよ。もうすぐ高校生になるんだからね」
「それなら、高校生って呼んでもいいのかよ?」
「いいよ」
「中学生も高校生も俺からすれば、どちらも子供だけどな」
「お兄ちゃん、違うわ。高校生じゃなくて、女子高生よ」
「呼び方が違うだけで、意味は同じだろう?」
「違うわ。女子高生って、大人になる前の準備期間なのよ」
彼女は女子高生に対して、どれだけ憧れているのだろうか?
俺からすると、同級生が女子高生の時は、面倒そうに見えた。
「中学生の方が楽だと思うけどな?」
「私は、早く大人になりたいの!」
「君は充分、大人だよ」
「からかわないでよ。年上だからって、私を子供扱いしないで」
「仕方がないよ。君が赤ちゃんの頃から知っているんだからね」
「もう私は、赤ちゃんじゃなくて中学生よ」
「そして、もうすぐ女子高生だろう?」
「もう!」
彼女は頬を膨らませ、プンプンと怒っている。
彼女のそんな子供っぽいところが可愛くて、俺はからかうのに。
昔から言うじゃん?
好きな子は、いじめてしまうって。
愛情の裏返しだって分からないかな?
「お兄ちゃん、明日の休みは何をするの?」
「友達が俺の家に来て、元カノの悪口パーティーをするんだって言ってたよ」
「お兄ちゃんのお友達は恋人と別れたの?」
「うん。元カノに好きな人ができたんだってよ」
「そうなんだ。同じ人をずっと好きでいることって、難しいのかな?」
「人それぞれだよ。でも、ほとんどの人が、恋人との別れを経験しているけどね」
「お兄ちゃんは、別れを経験しているの?」
「俺は、、ノーコメントだよ」
俺の答えに、彼女は不満そうな顔をする。
言える訳がない。
彼女一筋だから、年齢と恋人がいない歴が同じだなんて。
「明日、お兄ちゃんのお友達のお話を聞きたいわ」
「君にはまだ早いよ」
「どうしてよ? 恋愛のお話は、年齢なんて関係ないでしょう?」
「でもな、男と女の子だと違いすぎるんだよ」
「私を仲間外れにするの? お兄ちゃんって、そんなに意地悪な人だったの? 昔は私のヒーローだったのに」
彼女の必殺技が炸裂した。
大きな目をウルウルとさせて、上目遣いで言ってくる。
彼女は俺の弱点を知っている。
「分かったよ。仕方がないな」
「いいの?」
また彼女は俺の弱点をついてきた。
嬉しそうに笑顔を向けてきた。
この顔を見るとニヤけそうになる。
俺は彼女から目を逸らして、ニヤけそうになる顔を見られないようにする。
こんなことを、何年も前からしている。
それほど俺は彼女が大好きなんだ。
◇
次の日、友達が俺の家に来た。
負のオーラが漂っている。
俺にまで移りそうだ。
「今日は、俺の幼馴染みも来るから、話は簡単に誤魔化してくれよ」
俺は友達に頼む。
だって、彼女には知ってほしくはないから。
別れがどれだけ人を傷つけるのかを。
「中学生の幼馴染みだろう? 中学生なら、ゲームの話でもしてたら、盛り上がるだろう?」
「でも俺の幼馴染みは、ゲームはしないんだよ」
「はあ? 中学生はゲームをするか、バカなことをするかの二択だろう?」
「お前の中学生のイメージってなんだよ?」
「俺はそうだったからな」
「彼女をお前と一緒にするなよな」
「彼女?」
友達は首をかしげて言ってきた。
「俺の幼馴染みの中学生は女の子だよ。言わなかったか?」
「聞いてないよ。でも中学生が女の子なら、俺達より大人だよ」
「俺達より大人は、ないだろう?」
「いいや、大人だ。 よく考えてみろよ。俺達よりも落ち着いて、状況を把握し、行動を起こす。俺達は考えるより先に行動を起こすだろう?」
そういえば、そうかもしれない。
前に彼女と電車に乗っていた時、一つだけ座席が空いていた。
それを見つけて、俺は座ろうとしたら、彼女が俺を止めた。
彼女は座席の上にある、人が噛んだ後のガムをティッシュで取った。
ガムは綺麗に取れなかったから、せっかく取っても誰も座らないだろう。
しかし彼女は、そのガムの跡の上に、ハンカチを置いた。
そして近くに立っていた妊婦さんに、声をかけていた。
彼女は先のことを考えて行動を起こしていた。
俺なんて、今のことしか考えていないのに。
「俺、恥ずかしくなってきたんだけど?」
「何でだよ?」
俺の意味不明な発現に友達は呆れている。
「だって、中学生って呼んでいたけど、俺の方が中学生っぽいからだよ」
「彼女ってそんなに大人なのか?」
「うん。顔も仕草も性格も全てが、俺より大人なんだよ」
「それは見たいね」
「ダメだ!」
「はあ?」
「お前は帰れ」
「意味が分からないんだが?」
「彼女は俺のだ」
俺の言葉を聞いても、友達は意味不明のようだ。
「彼女が中学生から、もう少し大きくなったら、言おうと思ったんだ。でも彼女は、もう大人だ。彼女が誰かに奪われる前に、、」
「俺も、子供だったんだよ。優先順位を間違っていたんだよ。だから彼女は離れて行ったんだ」
「お前も俺もバカだよな?」
「そうだな」
「でも、今、気付いたじゃん。俺達、これから成長すればいいんだよ」
「それはお前の幼馴染みを見てからでもいいか?」
「ダメだ。帰れ!」
俺は友達への返事を即答した。
友達は渋々、帰った。
そして俺は彼女が来るのを待った。
「お兄ちゃん」
彼女が俺に抱きつこうと、部屋へ入ってきた。
そんな彼女を俺は、両手を広げて待っていた。
俺を見て彼女は驚いていたが、すぐに笑顔を見せて俺の胸に飛び込んできた。
「やっと抱き締めてもらえたわ」
彼女の日課は俺に抱きつくことじゃない。
これからは、俺に抱き締められること。
まだ彼女は中学生。
年齢は、まだまだ大人にはなれないみたいだ。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、会社からの帰り道にいつも日課で、カフェの中で本を読んでいる美女の女子高生を見ている主人公の物語。
おじさんの主人公が女子高生と無縁だと思いながら、女子高生を見ながら帰宅していたある日、女子高生をカフェで見かけない日が続く。