第二十六話 決戦、そして
封印の決行当日。
私達は黒の怪異の力が眠る集落から程離れた洞窟へと向かい例の場所へと足を運ぶ。
本来なら年に数回、足運んで封印の様子をみたり綻びがあれば封印を手直ししたりする程度だ。
それを何百年と、私が幾度となく絶え間なく続けてきたお役目の果たしてきた場所である。
「ほう、これが黒の怪異の一部か………」
「別に初めて見るものでもないがの」
大きな黒いナニカの塊がそこにある。
人間の臓器のように鼓動を立てながらナニカが下に敷かれた結界の中で蠢いていた。
「ミカ様、では後はお任せしても?」
「ええ大丈夫です。
入り口と集落の護衛はお願いします」
「既に仲間の何人かは集落に待機。
そして、自分とミタモと沙苗と黒鼬は此処であなたを三日三晩守り続ける。
ふー、骨が折れそうだな」
「骨だけで済めばいいの」
「睡眠は交代しながら取れる。
問題はどの程度の期間で終わるか読めないってところだな」
「問題ない、不味かったら妾が封印の維持と共にミタモを一時的に休ませる。
一回か二回交代すれば良いだけじゃ」
「簡単に言うが、その間守りが薄くなるだろ?」
「そこら辺はお主達がなんとかしろ。
特に黒鼬、自分の番くらい自分で守れ」
「分かってますよ、勿論」
「そうそう、大丈夫だよミタモちゃん。
私も黒鼬も必ずミタモさん守り抜いてみせるから」
「ああ、そうだな。
ミタモ様、始めてくれ」
深く息を吸い、封印の準備に掛かる。
全身に力を込め、その力をあの結界へと向ける。
「皆さん、後はお願いします。
ではこれより、封印を開始します!」
長きに渡るこの戦いを終わらせるべく、私達の最後の戦いが幕を明けた。
●
それからはまさに地獄のような持久戦だった。
最後の抵抗を示すかのように、封印の入り口にはこれまでにないほどの数多くの影達が襲撃を始めたのである。
二日目を迎えたころ、ミタモからの報告から入り口が突破された事を知らされた。
前線を中腹に存在する空洞へ変え、再び持久戦を開始する。
私はその事に焦ったが、ミタモに諭されこのまま結界の封印の出力を維持し続けた。
三日目を迎えると、中腹部が突破される。
しかし封印の影響が出始め、怪異達の力も数も徐々に減っておりその勢いが緩やかになっていった模様。
しかし疲弊した彼等にとって、その変化は些細なものであり次第に後退を余儀なくされる。
そして現在………。
最深部手前にて、見廻り組の人達は決死の抵抗を続けていた。
「あともう少しじゃ!!
敵の勢いもほとんど消えとる!!」
「分かってる!!
黒鼬、右から来てる!!」
「了解!!
九葉殿っ左手から二体が!!!」
「分かってる!!!」
各々が連携し、どうにか前線を維持している。
しかし、そう長くは持たない。
でも、あと少しだ。
数もだいぶ減っているらしい。
大丈夫、もう少しだけ……もう少し頑張れば……
「ミタモ!!迎撃頼む!!」
「わかっておるわ!!」
私の背後から数多の轟音と彼等の声が聞こえてくる。
みんな、頑張ってるんだ。
この酒倉井を守る為に必死になって頑張ってるんだ。
私だって、いや私だからこそやらなきゃならない。
お役目を果たさなきゃ。
この地を守る為に。
「………っ?!」
視界が霞み始める。
意識が遠退いていく、でも関係ない。
私のやるべきことだから、だから………。
この命に代えても、守り抜く……。
私は………私………が………
「あともう少し………なん……だ………」
最後の力を振り絞る。
そして目の前が光に包まれると、間もなくして私の目の前は暗転した。
●
朝日の光を感じた。
まぶたを開き、徐々に視界と意識が鮮明になっていく。
あれ、私何をやっていたんだっけ?
「ん………?」
重い体を動かすと何処かの家の中だった。
森の中にある、誰かの家。
「ここ……は?」
辺りを見渡すと、よく見るとそこには何人かの人影があった。
頭の上に耳を生やした狐のような女性、そして私のすぐ横で意識を失っているもう一人の女性。
そして、立て膝をしながら同じく意識を失っているであろう籠を被った誰か。
「ん?、あっ……ミカ様目が覚めたの!!」
私の存在を察知したのか、さっきまで横になっていた女性が目を覚ます。
そして彼女の声と共に、他の人達も皆目が覚めたのだった。
「ミカ様、大丈夫怪我とか痛くない?」
「えっと………」
「はぁ……眠っ……全く世話をかけよってからに
世話が焼けるやつじゃな」
「その………えっと?」
「ほら黒鼬?
ちゃんとほらあなたも声掛けてあげなよ!
奥さんなんだから、ほら!!」
「ああ、そうだな……」
「おく……さん………?」
そして先程からはしゃぐ女性は、私の手を取りカゴを被ったその方の手を握らせた。
「………?」
誰か分からず私は首をかしげる。
その様子に狐のような女性が目を見開き、彼女を振りほどき私の下へと駆け寄って来たのだった。
「ちょっと、何するのミタモちゃん!!
今良いところなんだよ!!」
「……………」
「ミタモちゃん、話聞いてる?!
ねえったら!!」
「少し黙れ、小娘!!
おい、私が分かるか?
ミカ、自分の事が誰か覚えているか?」
「ミカ……それが私の名前なの?」
「え?……嘘でしょ……。
ちょっとミタモ、それにミカ様悪い冗談辞めてよ!
裏で何か仕掛けてたんでしょ?
ね、そうだよね?」
「…………」
狐の女性は何も答えない。
彼女の事はミタモと言うのだろうか?
「ミタモ?」
「………、ほら黒鼬からも言ってあげなよ!!
悪い冗談やめなってさ?
ほら、ね?ね?
こんな時くらいちゃんとしてよ?
ね、みんな、ほら?
お願いだから……何が言ってよ……」
「コクユ?」
「………ああ、そうだ……、な」
そして目の前のカゴを被ったその人は、私からゆっくりとその手を離した。
「あなた達は誰ですか?」
私は何が起こっているか何もわからなかった。
この人達は私を知っているのだろうか?