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妖々の神畏 - 第二十八話 繋ぎ、その先へと
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第二十八話 繋ぎ、その先へと

 見廻り組の方々が旅立つ前夜、世話になった彼等への祝いの宴が集落を挙げて執り行うことになった。

 集落の方々や見廻り組の皆も喜んで参加し、宴は盛り上がっていくかに思えたが宴の席に見えない黒鼬さんの姿が気になり私は彼を探す為に、宴の場を離れ彼を探しに向かっていた。

 

 「ようやく見つけました、黒鼬さん」


 彼は宴の場から少し離れた小河の近くで、一人物寂しそうにお酒を飲んでいる様子である。

 私の声に反応し、彼は僅かに振り返る反応が見えるもすぐに首を私の方から逸らしたようにも見えた。


 「黒鼬さん、探したんですよ?」


 「ミカ様、どうして此処が?」


 「えっと、なんとなくです……。

 皆さん向こうで楽しく飲んでいますよ、黒鼬さんがそんなところにいては今日の宴の意味がありませんから。

 皆さんに私達はとても助けられました。

 本当に何から何まで色々と、本当に私も集落の皆さんも感謝しているんです」


 「それならば何よりです。

 自分達は成すべき事をしたまでですから。

 自分はその、一人の方が落ち着くもので……」


 「そうでしたか………」


 「自分の事は放っておいてもらって構いません」


 「………あの、黒鼬さん」

 

 「何でしょうか?」


 「私がその、最初に目が覚めた時に近くに居たのはミタモさんと、沙苗さんと、そしてあなたでしたよね?」


 「ええ、それが何か?」


 「記憶を無くす以前の私達の関係ってその………」


 「………、沙苗から何か言われたりしましたか?」


 「いえ、その私が勝手に気にしてただけで……」


 「そうですか……」


 「あの、その……変ですよね、その………。

 私、記憶を無くす前の事は何も覚えてないのに……。

 どうしてだろう、黒鼬さんのことだけはどうしても他人だって気はしなくて………。

 ミタモさんと同じくらい、いやそれ以上にずっとあなたに守られてた気がして………」


 「…………」


 「ごめんなさい、その上手く言えなくて……。

 修行の際も私の事を気にかけてくれて……。

 でも私、大丈夫です。

 まだ不安なところは沢山ありますけど、この酒倉井で皆と一緒に乗り越えられると思うんです」


 「………それなら良かった」


 「だから、だからその……。

 いつかまた此処に戻ってきて下さいね、黒鼬さん。

 私、ずっと待ってますから。

 あなたの帰りを、ずっと………ちゃんと前の記憶も取り戻して、あなたを必ず迎えますから」


 「嬉しいお言葉ですが。

 戻れる保障もない、厳しい旅路ですけどね」


 「それでも私は待っていますから。

 いつまでも、あなたが戻ってくるのを」


 「自分も必ず戻って来られるように頑張ります。

 あなたが此処で待っている限り」


 そう言うと彼は、腰に刺していた短刀を一つ私に手渡してきた。


 「何かあったら必ずまた駆け付けます。

 今度は必ず、すぐにあなたの元へと……」


 「はい」


 そして翌朝、見廻り組の方々は酒倉井を後にした。

 それからの彼等の行方を噂で耳にすることはなく、そのまま次の年を迎える。


 その年の梅雨が終わりを迎えた頃、私は双子の男の子を産み落とした。

 

 二人の子には秋重アキシゲ水獺ミナウセと名付けた。

 私はこの子達と共にこの地を守り抜くと決意を新たにしたのだった。


 あの人達が再びこの地に訪れる事を信じて………



 そして更に、数十年の時が流れた………。




 「今年も良い出来みたいだな、長殿」


 試食の酒を飲み終え、もう一口貰いたいのを我慢しながら今年の出来を集落の長に伝える。


 「勿論ですとも、秋重様。

 これもあなたのお母様のお陰です」


 「来年も期待している。

 それで、自分の弟の方を見なかったか?」


 「あー、水獺様でしたら……。

 本日講師が急病の為、寺子屋の方にて近所の子供達に字の読み書きを教えておりますよ」


 「そうか、済まないな」


 「いえいえ、またご贔屓に………」


 そう言って、長は自分に頭をヘコヘコと下げる様を眺めた後に弟の居る寺子屋へと足を運んだ。

 途中、子供達への土産の為に菓子屋に赴き饅頭を箱入り注文した。


 そして目的の寺子屋へと足を運ぶと、男共に剣の稽古を付けている弟の姿が目に入る。


 「われら見廻り組の剣を受けてみよ!!」


 「くらえーー、神畏さまの御力じゃー!」


 「ふん、甘いな」


 そう言って、子供相手にも容赦なく木刀を持って斬り掛かって彼等を容易くあしらい、彼等に膝を付かせた籠を被った男。


 「うわっ……大人げない」


 「もう少し手加減しなよ、ミナウせんせー!」


 「ははは、僕は子供相手でも容赦しないよ?

 嫌ならもっと強くなれ、小僧共?」


 「くっ………次は絶対に負けないからなぁ!!」


 「今度は絶対に勝ってやる!!」


 「その意気その意気、どんどん来い。

 そして強くなれ、僕を倒せるくらいにね?」


 子供達の相手をしている素顔の見えない弟ではあるが、その素顔は確かに笑顔を浮かべているであろうと確信している。

 頃合いを見て、俺は饅頭の入った箱を掲げながら彼等の元へと向かった。


 「お前等、ちゃんと仲良くしてるかぁ!!」


 「「秋重様!!」」


 「今日の土産だ、さっさと手を洗ってこい!!

 ほら行った行ったぁ!!」


 自分の声に反応し、子供達は離れの手洗い場へと向かっていき、彼等の過ぎ去ったその後に弟は一人残される。


 「くっ、饅頭とは卑怯な真似を」


 「ははは、まぁ子供なんてそんなもんだろ?

 お前も手を洗ってこい、それと後で話がある」


 「何です?、僕今日は忙しいんですけど?」


 「大事な話だよ、母上の件だからな」

 

 「来月のお役目に何か支障が?」

 

 「細かい話は後々、子供の前だからな。

 後で自分の元へ来い、そこで色々と話そう」


 子供達が駆け足で戻ってくると、子供の一人に饅頭の箱を手渡し皆が一目散に一つ一つを取っていく。


 「一人二つ、仲良くしないなら次は無いからな!」


 美味そうに饅頭を食う子供達を眺める中、内に秘める不安が少しばかり和らいだ気がする。

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