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妖々の神畏 - 第三十二話 弱くて、ごめんなさい
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第三十二話 弱くて、ごめんなさい

 気付けば二年程の月日が流れた。

 これといった結果も残せないまま長い期間を浪費した僕は故郷に帰る身支度をしていた。


 「ふーん、その様子だと諦めるの?

 父親、まだ見つかってないよね?」


 「これ以上此処に残っても変わらない気がしてる」


 「あーそっか、残念。

 まぁいい修行にはなったんじゃない?

 力の扱い方は筋がいいと思うよ。

 でもあくまで戦いに関してだけど?

 それ以外は、うん、あまり褒められたものじゃないかな?」


 「流石に失礼すぎないか?」


 「えー、でも事実でしょう?

 てか、こっちで新たに神畏になるって道は考えなかったの?

 後継者さえ見つかれば、貴方達双子は今後どうなるのかな?」


 「かつての厄六も、そうやって始末したのか?」


 「あー、気付いた?

 まぁ当然か、うん」


 「全く、やはり人間は好かないな。

 特にミヤコの人間は気が滅入る」


 「でも私達は人間無くてして生きられないの。

 面倒だよね、畏れあっての怪異だもの」


 「…………」


 「これからどうするつもり?」

 

 「後継者は自分で探します。

 それとも、そちらが付いてきてくれるとでも?」


 「途中までなら別にいいよ。

 面白そうだしさ?」


 「そうですか、なら好きにしてください」


 

 それから、僕は彼女を連れて故郷に向かう事になった。

 それなりの長旅、途中で飽きて帰るだろうと思ったのだが何の気まぐれかタマモは酒倉井に到着するまで僕についてきたのである。

 そして、兄上は僕等二人を見て向こうでとうとう番を見つけたかと、涙ながらに喜んできてしまい誤解を解くのに少々苦労した。


 そしてタマモからは、母上のところへ案内して欲しいと頼まれ仕方なく僕は彼女を連れ出し母上の居る山奥の家へと足を運んでいた。


 「こんなところにわざわざ住んでるの?

 趣味悪いなぁ」


 「仕方ないだろ。

 母上はあまり人が多いところが苦手なんだからな」


 「へぇーそう。

 まぁいいけどさ、ふーんなるほどね………」


 「なんだよ?」


 「人を殺したのは君で、食べたのはあの子か」


 「そこまで分かるのかよ?」


 「魂の流れかな、うん。

 なるほど、まぁ少し無理したら魂が壊れかけて一時しのぎの為に人を食わせたってたってところかな?

 当たってる?」


 「…………」

 

 「まぁ別にそんなのどうでもいいか。

 一応聞くけどこれまで何人食わせたの?」


 「週に一人、それを200年程は食わせていた。

 お役目を果たすのに力が必要だったからな」


 「…………、そっか。

 うん、なるほどね」


 いつもより少しばかり反応が遅かった。

 何か思うところがあったのか?

 それとも他に何かしらが?

  

 「この先、ミカちゃんはどうなると思う?」


 「どうなるとは?」


 「一応、あの子はそう遠くない内に死ぬ訳だけどさ?

 それまでに何が起こると思う?」


 「ただ弱って、死ぬんじゃないのか?」


 「それだけなら見廻り組とか必要無かったんだよね」


 「どういう意味です?」


 「ミカちゃんも居るところで教えてあげる。

 あの子、多分気づいてるだろうし」


 「…………」


 

 そして俺達は母上の家に上がり、久方ぶりの再会を喜んだのだった。


 「只今戻りました、母上」


 「おかえりなさい、水獺。

 隣の方は、随分その若そうな子だけど………その」


 「誤解しないでくれ、彼女はタマモ。

 その記憶を失う以前に、母上にお役目を与えるきっかけとなった御方だ。

 とても強い力持つ、妖狐と呼ばれる一族の一人で……」


 「そんな説明はいーから。

 で、久しぶり……じゃなかった。

 今のあなただと、はじめましてなのかな?

 さっきの説明通り、私はタマモ。

 まぁ私は彼についてきただけだからさ?

 そんなに堅苦しくしなくてもいいよ」


 「そうでしたか、そのすみません。

 遠くからわざわざ足を運んでもらって」


 「いいの、むしろこっちもごめんね。

 色々と面倒なお役目とかさせちゃって。

 でも、ありがと。

 この地のお役目はちゃんと果たしている」


 「ありがとうございます、タマモさん。

 その、もしかしてミタモさんとは何かご関係が?」


 「あー、ミタモは私の妹だよ。

 あの子、ほんと馬鹿ばかりでさ困った妹だよ」


 「あはは……。

 でも、向こうで元気にしているなら何よりです」


 「あー、うん。

 そうだね、でそっちはどうなの?

 身体調子が随分前から良くないって聞いてたけど?」


 「はい、その以前のような力出せませんけどお役目を果たすだけならぎりぎり力を賄える具合ですかね。

 でも、ほとんど家から出るのは難しいみたいで」


 「んー、了解。

 ちょっと失礼するね」


 そう言ってタマモは母上の額に自身の額を当てつつ、右手と左手をお互いに重ね始めた。

 

 「んー、なるほどね。

 こりゃ難しいかな、多分治らないねコレ。

 思ったよりも魂の傷が深い。

 治そうとする力は表面でしか機能しないから、内部に及んだ傷までの治療には届いてないみたいだね。

 こうなると大きな病院で、五年くらいは安静かな。

 でもここをそんなに離れると不味いみたいだね」


 「はい、そうですね」


 「うん、いいよ。

 ある程度は察してたから、この分だと現状維持で封印自体もそう遠くない内なのかな……」


 「やはりその、私ではもうお役目は………」


 「どうだろ、まぁちょっと考えとく。

 で、話は他にあるんだけどさ?」


 「はい、何でしょう?」


 「ミカちゃんさ。

 人を食べたこと、ある?」


 「…………」


 「ないわけないよね?

 分かってたんでしょ、あなたの子供があなたの為に人を料理してあなたに食わせてた。

 そのお陰で随分長生きしたみたいだけど」


 「…………はい、勿論知っておりました」


 「お役目を果たす為、仕方のないこと。

 あるいは子供の為に仕方のなかったこと。

 まぁ、どちらでも良いんだけどさ?

 見廻り組の件について、一応知ってるよね?

 当時を知るなら、彼等が何の為に各地を巡っていたのかなんて聞いてるはずだもの」


 「はい、勿論承知しております」


 「今すぐとは言えないんだけど。

 新しい子をいつか後継者として、酒倉井に派遣してあげる。

 で、その時になったらさ?

 あなたは死ねるの?」


 「はい、覚悟はしております」


 「なっ……タマモ、お前何を、言って………」


 「そうか、ならいい。

 話は以上だ、あとは好きにするといい」

 

 そう言うとタマモは母上から離れて、そして家を去っていく。


 「おい、待てよタマモ!!!」


 僕はすぐに彼女の元を追った。

 すぐに追いつき、去っていく彼女の右腕を掴む。


 「待て、タマモ!

 何の真似だよ、僕に説明しろ!!」


 「分からないかな、あなたの母に死ねと言ったの。

 当然でしょう、というかさ?

 人を殺した怪異にお役目をさせるだなんて、そんな馬鹿げた事をどうしてやったのかな?

 何故報告しなかったの、貴方達?

 仮にも、あの子の子供でしょう?

 何故、あの子がお役目を果たせたのか分からない?

 私と会った時に、どうしてお役目を果たせなかったのか分からなかったのかな?

 あー、そっか弱いもんねお兄さん?」


 「っ!!!」


 「お役目を果たすには穢れのある魂を持った怪異では駄目なんだよね、分からない?

 つまりさ、人を殺した、食った怪異では駄目なの。

 本当はお役目をする前に必ず伝えてるはずなんだけど、その言伝が途絶えてしまった。

 あの子が記憶を失ったこと、そして見廻り組の彼等がちゃんと改めて伝えなかったのでしょうね?

 全く、とんでもないことをしてくれたわ」


 「何を言って………」


 「あとね、もう一つ言っておかなきゃ。

 人を食べた怪異はね、一度食べてしまったらその魂の味を忘れられなくて求めるようになるんだよ。

 つまり、魂を求めて人を殺すようになるんだよ。

 一度現れたあの欲求を取り除くのはほぼ不可能、私だってまだ完全には出来てないからね?

 あの子、多分隠れて何人か食ってるんじゃない?」


 「っ………そんな、そんな馬鹿な話が………」

 

 「ほんとさ、弱い癖に勝手な真似をしないでよ?

 あーあ、本当に残念なミカちゃん。

 馬鹿で、弱い、間抜けな子供をわざわざ残してさ?

 お役目を果たすどころか逆効果なのに………。

 だから言ったのよ、後継者が来たら死んでねって?」


 「そんな、そんなことが許されるわけが!!!」


 「うるさい、黙って」


 その瞬間掴んだ右腕の骨が突然砕けた。


 「っぁ?!!!」


 「じゃあね、お兄さん。

 楽しかったよ、それなりに。

 せいぜい残った時間を楽しみなさい。

 じゃあ、さようなら」


 折れた右腕を抑えながら、僕は何も出来なかった。

 無力な自分を呪った。

 強さが欲しかった、もっと強く生まれたかった。


 どうしてだ、どうして僕では駄目なんだ?


 強く、強くなりたい。

 強くならなきゃ、母上のお役目が………。

 ここを守る事は………、何故だ、どうして………


 「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 弱さを呪うしかなかった。

 何をすればよいのか分からない。

 だが僕達のせいで、僕達の弱さのせいで………。

 母上は……母上は………


 「ごめん、ごめんなさい……。

 母上………ごめんなさい。

 ごめんなさい………ごめんなさい」


 何度も、何度でも僕はただ嘆く事しか出来なかった

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