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妖々の神畏 - 第五十三話 そして少女は
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第五十三話 そして少女は

 冷たい、冷たい水の中に俺は居る。

 いつまで続くのか、分からない。

  

 とても息苦しい、呼吸が出来ない。


 俺は何をしていた?

 何処にいた?


 分からない、思い出せない。


 何処からともなく声が聞こえてきた。


 「………………」


 何を言っているのか分からない。

 それでも、その声の方向に向かって手を伸ばして……


 俺はその声の主をようやく見つけた。

  

 何処かで見たことがあるような女の姿。

 以前にも一度だけ合ったことがあるような気がする。

 

 『…………あなたは誰ですか?』


 声にはならない。

 でも、相手には俺の思考が伝わったようだ………。


 その人は、僅かに微笑むと、一言。


 『ありがとう…………』

  

 女はそう言うと、俺の後ろを軽く指差し光のある方角を教えてくれた。

 もう一度、女の方を振り返ると姿はない。

 示された光の方角を目指していく。


 息が苦しい、もう少しで届くはずなのに………、


 届かなくて、冷たくて………。


 限界が訪れようとしていた、その時……。

 

 光の先から、誰かの手が差し伸べられた。

 

 「………やっと見つけた」


 ーーーー千歳?


 少女の手が俺に向けられていた。

 そして、彼女は俺が伸ばした手を掴むとそこで目の前は光に包まれたのだった。



 全身が疲労感で感覚が鈍る。

 あの夢のような光景から間もなく、俺の意識が現実に戻って最初に目に入った光景は今にも泣きそうな様子で心配そうにこちらを見つめるミタモの顔だった。


 「ミタモ、お前……何で………?」


 「目が覚めたか、小童……。

 ご苦労だったな、かの戦いはもう終わった」


 彼女らしからぬ、珍しく労いの言葉を掛けられ俺は僅かに照れ臭くなり視線を逸らす。

 

 「…………、そうか。

 それで、他の奴等は?」


 「凪と久矛は、お主より少し前に意識を取り戻した。

 そして、千歳とミナウセはミカの今際に立ち合っておる」

 

 「今際だと……?」


 「ああ、先程の戦いにてお主等の手により魂の核となる部分が大きく損傷したからな。

 よって、取り込み過ぎた力による暴走は収まり、ミカは正気を取り戻したようじゃな。

 じゃが、奴の魂の核は完全に壊れたも同然じゃ……」


 「………そうか」


 「間もなく、ミカは死ぬ。

 その最期に家族の顔が見れただけでも、あやつにとってはまだ幸福であったと言えよう……」


 そう言って、ミタモはミカ達が居ると思われる方向へとゆっくり視線を向けた。

 何処か哀愁漂うその様子に、俺は何も言わずその行方を見守ることしか出来なかった。



 「…………。」


 目の前には、会えないかと思っていた実の母が居た。

 しかし、先程までの戦いで深い傷を負いもう立ち上がることすらままならない程。

  

 いや、今この瞬間生きていることが不思議な程だ。

 そして、そんな母上の元へと私と実の兄であるミナウセと共に歩み寄っていた。


 「ミナウセ、それに………千歳」


 「「はい………」」


 「まさか、こうして再び顔を合わせられるとは思ってもいませんでした。

 このまま朽ちるのが定めであると思っていたので」


 「母上。

 何故、私の元から姿を消したのですか?」 


 私の問いに、僅かに間を空けるとゆっくりとその真相を語り始めたのだった。


 「私は……、考えていました。

 ずっと、このままで良いのだろうかと………」


 「それは、どういう意味ですか?」


 「私は元より、ミカの身体に入り込んだ人間の魂の一つであることに変わりません。

 当の昔に死んでいる人間の魂、ソレが深い後悔の念が強過ぎるあまりにこの世に留まり続け、ある時を境にこの肉体を見つけて入り込んだ。

 元の身体の持ち主であるミカに返すのが、本来在るべき形ではないのか?

 そんなことを長らく考えていました」


 「…………」

 

 「しかし、その結果は見ての通り。

 人の身で抑えられる力ではなく、その力に魅入られて耐えられなくて、その挙げ句の果てに私は多くの人々の血肉を食らい数多の集落を滅ぼしてしまった。

 苦しくて、ずっと辛くて……でも、まさかこうなることが私の迎える最期とは……」


 「母上……私は、それでも家族と共に生きられる未来が欲しかった。

 生きているなら、生き続けられるなら、何か出来ることがあったかもしれない……」


 「………そうですね。

 貴方の父親も似たようなことを以前言っていました。

 罪は償えると、生きている限りその罪を償える。

 死ぬことが償いになるとは限らない。

 ええ、分かっています。

 でも、私はもう十分に生きましたよ。

 後悔は当然ありますが、今この瞬間こそが私にとって最も幸福で意味があったのだと思います」


 「…………それはどうして?」


 私の問いに、母上は優しく微笑むと僅かな温もりを残したその手を伸ばし、私の頬に優しく触れた。


 「大きくなりましたね、千歳。

 それに、ミナウセも……。

 あなたももう少し近くに来てくれませんか?」


 「………はい」

 

 母上の言葉に従い、私とミナウセは母上の側に近づくと私達の方へと優しく腕を伸ばして優しく抱き締めてきたのだった。

 

 「本当に、本当に、よく頑張りましたね。

 二人の想いと覚悟は確かに受け止めました……」


 「ははうえ………わたし、わたし……!!

 ずっと寂しかった!!

 会いたかった、だから、だから!!!

 このままお別れなんていやだ!!

 この先もずっと、ずっと家族で暮らしたい!!

 このままお別れなんていやだよ!!!」


 「………そう、ですね……。

 でも、別れは必ずやってきます。

 それがどんな形であろうとも………。

 ミナウセ、貴方ならこの意味が分かるはずです」


 「はい、勿論です」


 「罪は確かに償えます。

 しかし、取り返しのつかないことも当然あります。

 でも、だからこそ立ち止まってはいけないのです。

 ミナウセ、貴方は自分のやるべきことの為に多くの人々をその手に掛けてしまった。

 実の父である、黒鼬を殺したことは以前に秋重からその話も当然耳にしています。

 ですが、私も勿論多くの人を殺してしまった。

 だからこそ、同じ罪を持った者として貴方のしたことを決して許してはいけないのだと………」

  

 「…………はい」


 「それでも、貴方は立ち止まってはいけません。

 罪を償う為であれ、その犠牲の上でしか貴方のやるべきことを果たせぬのなら、最期までそれをやり遂げる覚悟でいなさい。

 その道は後悔も苦難も沢山あるでしょう。

 それでも、それが貴方の選択なのです。

 それは貴方の殺めた黒鼬も同じでした。

 彼もまた、多く人を殺めた者。

 ですが、その先で彼は己の成すべきことを見つけた。

 ミナウセ、貴方は己のやるべきことを、今居るその場所で見つけることが出来ましたか?」


 「……はい、勿論です。

 僕にはやるべきことがあります」


 「わかりました。

 ならば、もう何の心配はありませんね」


 そう言うと、母上は抱き締める力を緩めた。

 コレが何かの合図だと察したのか、ミナウセは私を母上の元から無理やり引き剥がしたのである。


 「え………一体……何を考えて?」


 「…………女狐、お前の出番だ。

 母上の介錯を頼みたい」 


 「何を言っているんですか?

 駄目、そんなの駄目に決まってるでしょ!!

 母上はもう戦う力も残ってない、だからこれ以上傷つける必要なんて………!」


 「…………」

  

 ミナウセは何も答えなかった。

 私が必死に暴れるも、彼の力から逃れられずその場でのたうち回ることしか出来ない。


 そして、母上の前にその人影が入り込む。

 ミタモが、母上の前に立っていたのだ。


 「………駄目、やめてよ………!!

 冗談だよね、そんなことしないよね?!

 ミタモ!、お願い!!

 母上を殺さないで!!お願いだから!!!

 やめてよ!、ミタモ!!!やめて!!!」


 「…………ミナウセ、手段は問わん。

 千歳を少しの間黙らせよ」


 「駄目!!そんなの駄目!!!

 絶対に……絶対に、駄目!!

 やめてよ!!母上を、私の家族を奪わな………!!」


 やめてよ………お願いだから。

 意識が消える瞬間、その刹那の際に………。


 優しくこちらを見つめる母上の顔がそこにはあった。


 届かなかった……。

 結局、私には何も出来なかった…………。

 

 母上にまだ伝えたいことがあったのに……。

 言いたいことが沢山、沢山あったのに………。


 これで終わりなの?

 

 父上も、母上も、みんなみんな目の前で……。

 私は何も出来なくて………。


 「い…や………だよ………」

 

 手を伸ばした、届かなかった。

 そして次に目覚める時には全てが終わっている。


 これで終わったのだ。


 何もかもが、私の故郷で起こった何もかもが。


 この瞬間に終わりを告げたのだ。



 こうして、私の故郷での一大事は幕を下ろした。

 数年振りの帰省では沢山の事があったと思う。


 次に私が目を覚ましたのは、実家のお屋敷。

 意識を取り戻して間もなく、私は父上と母上の訃報を知ることになる。

 

 征伐隊の人達からは、私の身を案じてのことで酒倉井での滞在を一週間延長してくれたのだった。

 大きな怪我を負った、久矛さんや凪さんの治療も兼ねて丁度よい療養の機会であろう。

 

 今回の事件において、最大の功労者とも言えるミタモと遥は私が目覚めることを待たず片腕の怪異を追うとのことで早々にこの地を去った模様。


 二人には沢山お世話になった。

 剣術での戦い方や怪異としての力の使い方。

 

 どれも貴重な経験で、ちゃんとしたお礼も出来てないのが心残りと言えよう。

 母上はミタモの手によって介錯されたようだが、私はそれを一方的に恨む事が出来なかった。


 話に寄れば、以前からの約束事らしい。

 母上は己が道を間違えた際に、自らの処刑をミタモに頼んでいたとのこと………。

 ミタモは母上はとても大切な友人であったからこそ。

 その大切な役目を、彼女に頼んだのだろう。


 私の実の兄であるミナウセもまた、私の意識が目覚めることを待たずして何処かへと旅立ったらしい。

 久矛さん曰く、彼とはいずれまた会うことがあるだろうと意味深なことを告げていた。

 

 私にとっては、あの事件の時の僅かな間の付き合い。

 でも、私に残された唯一の家族。

 いつか再び会えるだろう、その時お互いがどうなってるかは分からないが………。


 そして征伐隊としての活動に戻るにあたって、酒倉井の自治は父上の補佐として長年務めていた、父上が引き取った養子の一人が引き継ぐ形になった。

 私が征伐隊としての任期を終え、再びこの地に戻れば私がその人に変わって酒倉井の地を治める長としてその座につく予定である。


 今回の事件の詳細について、真実を当然酒倉井の民に伝えられる訳もなく色々と脚色して伝えることになったのだった。


 この地をかつて支配していた悪しき怪異の手によって、ミカは愚か秋重までもな悪しき怪異の魔の手によって酒倉井を裏で支配していた。

 そこに、旅の神畏であるミタモ達と征伐隊である私達が手を組んで悪しき怪異に戦いを挑む。


 その戦いの果てに秋重とミカは命を落としてしまう。

 そして、ミカの実の子である私が征伐隊と旅の神畏を率いて悪しき怪異を討伐したのだった。


 実に民にとって聞こえの良い都合の良い話。

 

 でも、全てが悪い話という訳でもない。

 母上や父上の犠牲がありつつも、あの戦いの影響で例の封印は壊れ、そして封じられた力も何処かへ消え去ったらしい。


 つまり、酒倉井から長年苦しめてきたお役目が消えたのである。

 お役目が無くなったことで、黒の怪異による脅威に怯える必要もない。

 いや、アレが黒の怪異本体ではないらしいがそれでも酒倉井はようやく平穏を取り戻したと言えよう。

 

 これで一安心。

 もう誰も苦しまなくても済むんですよね?

 母上、私……一人になっても大丈夫なのかな?

 

 まだ心配で、分からないことばかりです。

 でも、私は頑張ります。

 

 私の家族が守ってきた酒倉井。

 私も、守り抜くて決めたから………。


 だから、見守っていて下さい。

 私もいつか、母上のような立派な御方になりますから


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