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秘めたる狂気に祝福を〜変態ギリギリのよく訓練された超高難度鬼畜ゲー狂信者〜 - 11:心の中の某夫人
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11:心の中の某夫人

電気ストーブ大好きの巻




「ダァシェリイェス!! 」


 怒りのあまり日本語でおk状態の言葉が口から飛び出る。

 あまりに早い味方枠の裏切り。勝てた試合だったのにこの始末である。最初の拠点に到着するまでノーデスできるだろうなんて考えていたら早速デスポーンだ。

 

 詐欺、騙し打ち、裏切りに定評があり、ゲームの全NPCの中でも全体的に荒んでいると名高いのがオヴェリシリーズのNPCだが、青鹿もここまで早く推定味方に裏切られる経験は無かった。


 冷静になって辺りを見渡せば、また初期リスポンの台座下の謎空間だった。

 そこから再び這い出し周囲を確認。ふと違和感を感じて下を見れば自分のいた場所に錆び切った剣が刺さっている。

 しかも既に黒い霧に侵蝕された状態の物だ。

 

 漆黒に光る直剣。刀身には血管の様に線が走り拍動、呼吸をする様に青黒い霧が漏れ出る。


「(………どうなってんだ?)」


 何がリセットされて何がリセットされていないのか。オヴェリシリーズでも経験した事の無い死に方をしたので予測もできない。


 とりあえずパラメータを確認。相変わらずクソ雑魚。SAN値も勝手に減少していない。


「おい、バカSIDE。勝手に暴走してんじゃねぇぞ」

『………。……“…s』


 それでも怒りは冷めず語気を荒くして吐き捨てれば、また脳内に囁きが聞こえた。それは小さく一見反省している様に聞こえるが、そんなわきゃないと青鹿は直感的に感じていた。

 自分のSIDEは多分自分に近い、つまり目的の為ならムカつく奴にも、内心で下にみてる奴にもプライド捨てて幾らでも頭を下げられるタイプの“いい性格”してるタイプの人格だと、青鹿は漠然とそんな印象を受けたのだ。


 と言ってもSIDEに性格なんて物があるか定かでは無いが、青鹿にはSIDEが明らかに意思を持って動いていた様に感じられた。


「(こっちがヘルプ出すまで動くんじゃねぇ。テメェの力無しでもある程度戦えんだよ、舐めんな。おしゃぶり咥えて黙って見てろ)」

 

 青鹿にとって、ゲームの最中、熱い勝負の途中で横槍を入れられるほど興醒めで憤りたくなる事はそう無い。

 

 再び剣を携えて外へ出て、また教会の裏手へ戻る。

 此方はリセットがかかった様で折角集めた廃材も初期位置に戻ってしまったし、焼け焦げた跡はない。


 青鹿はイライラしながらも剣で強引に廃材を動かし、今度は戦闘用のフィールドを作り上げる。

 先程は不意を突かれたが、来るとわかってるなら問題ない。


 軽いバリケードを築き、壁際に移動。威嚇する様に木の棒と剣をかち合わせてガンガンと音を響かせる。


 来い、餌は此処にあるぞ。

 度胸があるならば駆けて来い、俺は逃げも隠れもしない。

 ド頭かち割ってやるから早く頭を差し出せよ、福音を脳に直接聞かせてやる。

 マタイの福音書第5章『But whoever slaps you on your right cheek, turn the other to him also.』

 右の頬を差し出したら左の頬も差し出せ。

 青鹿流に言い換えるなら、首を差し出したら命も差し出せ。


 威嚇する様に、挑発する様に。その悪過ぎる目付きをギラギラと光らせて、包帯下の口は凶悪な笑みを浮かべて。


 そして捉えた、風を切る音を。

 タンッと軽い音を。

 その巨体は小さな音だけで簡易的に築き上げたバリケードなど鼻で嗤う様に軽く飛び越える。


 しかし、それこそが青鹿の狙い。余裕ぶってジャンプしたアホを仕留める為のハードルだ。


 飛び込みと同時に揺らめく角。一撃目から火炎砲という容赦なさ過ぎる思考ルーチン。しかし慌てない。

 青鹿は掬い上げる様にスイングで棒を投擲。敵の鼻っ柱に綺麗にヒットさせて顔を強引にカチあげると同時に接近。

 露出した首に深々と剣を突き刺し地面に討ち倒す。


「リベンジじゃオラァ!」


 最早何方が獣かわからない獰猛な表情で青鹿は吼えた。


 

 ◆



 先程の戦闘でパターンの殆どは把握している。

 更には弱点も。


 小型肉食型恐竜の弱点は頭。見た目に反して背後への対応力も高く、前は噛みつきや爪が怖いが、実は最速の攻撃は尻尾。

 今の青鹿のパラメータだと回避が厳しい。

 

 問題は角から放たれる火炎放射だが、陽炎を見切った瞬間に頭部に攻撃を与えるか全力スライディング回避でなんとかなる。


 火炎放射の瞬間に頭部に接近するのは怖いが、敵にとっても大技らしく集中力が頭の制御に割かれている。故に攻撃しても反応が鈍く、攻撃を当てる絶好のチャンスでもある。

 ミスれば大火傷だが、ミスらなければいいだけだ。背負ってるリスクは等分である。


「死ねぇクソトカゲ!爬虫類界の半端者!一丁前に毛生やしやがって!接着剤で全部剥くぞ!」


 執拗に、目を、角を、斬り斬り殴り踏みにじり屠る。

 先程は無駄に焦らされて精彩を描いたが、それが無ければこの程度敵ではない。

 鬱憤を晴らす様に、甚振るように一方的に攻め立てる。


 SIDEの暴走が無い分先程より与ダメージはかなり下がっていた事で役立っていた事は判明していたが、それはそれ、これはこれ。頼んでも無いことをされてもお節介という物だ。


「折れろ!」


 角の付け根を叩き続ける事5分、執念が通じたのかバキッという耳を塞ぎたくなる音と共に悲鳴が上がる。

 

「っしゃぁ!」


 その隙をついてフルスイング。剣をバッドに見立ててホームラン。角が折れて吹っ飛んだ。

 部位破壊の達成、HPバーは金と赤黒点滅。

 クリティカル+ほぼ致命判定、敵のHPが大きく削れる。


「(なるほど、部位毎に弱点属性も変化してる?)」


 大型のボスだと形態変化による弱点属性の変更はオヴェリシリーズでも存在した。一方、小型のモブに関しては流石に部位毎までハッキリ細かく弱点属性を定められてはいなかった。


 しかし今回の角に対する攻撃は、剣で攻撃していた時は青緑から緑に近い点滅、つまり相性は悪いという反能があった。

 だが、稀に有効に近い黄色の反応が出る事もあり、その法則性を若干掴みかねていたのだが、どうやら剣の面で叩く事で『斬撃』ではなく『打撃』判定が出ているようだ。

 ノリで行ったフルスイングがまさかの最適解。棚からぼた餅である。


 部位、武器の使い方による明確な属性判定の強化。些細ではあるが企業側からすればなまじ自由度が激増した憑戦装カースドアークの所為で処理が大変な作業だ。

 因みに他のゲームでも実装されている要素ではあるが、簡単そうに見えて難しい作業らしく一般的な仕様ではない。

 殆どのプレイヤーなどあまり気づかないだろう。

 だが、プレイヤーの中でも玄人ほどその小さな変化の価値を知っている。戦略性が一気に増加した事を理解できる。


「(とんでもない要素をサイレントアップデートするって、あーた)」


 動揺から思わず心の中の某夫人が出てきてしまったが、それ程までに青鹿は驚いていた。


「(これは武器の扱いに関してHCPのアップデートも必要だな)」


 動きと戦略の幅が増えるという事は、自分の動きも調整が必要だ。大変な作業だが、しかして青鹿の心は歓喜に沸き立っていた。

 更に自分を高みへ導いてくれる要素がまた増えたのだと。


「楽しかったぜ」


 最期の力を振り絞っての巨体の跳躍。しかしそれは完全に見切った。

 下から斬り上げるような一撃。敵の自重を利用し、遂に敵の首が切断され、HPバーは黒く点滅。身体はドロドロに溶け、消えていき、其処には白い光だけが残っていた。




 ◆




「よっしゃドロップ」


 青鹿が敵が消えた後に地面に残った白い光の粒。これはオヴェリシリーズ恒例で敵のドロップであり、正式な名前は特に無い。

 プレイヤー達から単純にドロップマークと呼ばれている。これに触れる事でプレイヤーはアイテムを回収できるのだ。

 

 但し、ゲームでよくあるインベントリの容量を超過するとアイテムは回収できない。


 敵を倒しても無条件でアイテムが手に入らないのがミソだ。つまり崖から突き落としたりと卑怯なやり方をすると折角のドロップが回収困難になる。


 また、敵を倒すとドロップするのはアイテムだけでは無い。

 オヴェリシリーズでは『フラグマ』と呼ばれる特殊な物を回収できた。


 この『フラグマ』はアイテムとしての実体を持たない。イメージとしては生命に宿るエネルギーみたいな物で、NPCと売買を行ったり、武器の強化の際に通貨として利用できる。

 また『フラグマ』はアバターを強化する為の経験値も兼ねている。

 アイテムを買うか、パラメータを成長させるか。このシビアなやり繰りが嫌いな人は分けて欲しいと切に願うが、一方でそのシビアな仕様のファンも多く、オヴェリシリーズ1作目から変わっていない仕様だ。

 そして更にそれを複雑化させるのが、強化や回復まで可能とする点にある。


 言わばエネルギーを短期的に消費する事で、HPを回復したり短期間だが効率良くパラメータの強化が可能になるという事だ。

 その効率性は圧倒的であり、一度知るとついつい頼りたくなる。だが、それでは延々とパラメータが上がらず自力が上がらない。

 このジレンマにプレイヤーは更に苦しめられ、『フラグマ』集めの亡霊と化す。

 

 PvPに至ってはこのフラグマの貯蓄量が勝敗に直結するので、一時期は『金持ち喧嘩しない、どころか金持ちの殴り合いじゃね?』とまで言われていた。

 故に泥試合になりそうだと暗黙の了解でフラグマ消費の回復は制限する事も多かったりする。


 さて、そんな大事な大事なフラグマだが、死ぬと容赦なく全ドロップ(ロストでは無い)する。

 リスポーンして再度回収できれば、大体半分程度取り返せる。というのも、回収できるフラグマは時間経過で減少するからだ。

 故に大量のフラグマを落とした場合、ゲームは鬼畜ゲーから鬼畜RTAに早変わりする。


 因みに回収前に死ぬと大幅なタイムロス扱いになり余程リスポーン地点から近場でないと回収困難になる。


 また、偶に自分を倒した敵がドロップしたフラグマを吸収している事がある。

 その場合はフラグマの減少率は大きく減り、95%以上回収できる。

 一見ラッキーに感じるこの要素。しかしオヴェリを作ったのは人の心が無いと言われるプロミスだ。


 フラグマは生命エネルギー。利用すれば肉体を癒し強化もできる。

 つまり、それを取り込むという事は敵が強化されるという事。

 万が一大量のフラグマを吸収された時には只のモブさえボスクラスに早変わり、なんて最悪の展開になる。


 因みに、この仕様を利用して、『何度も殺される事が分かってるボス戦の前に比較的倒し易い敵に敢えて自分を殺させ、フラグマ預金機にする』という裏技があったりするので一概にクソ要素とは言えない。


 ただ、これだけ何度も死に、フラグマをロストする確率が高いとプレイヤーの耳に悪魔が囁きが聞こえるようになってくるのだ。

 『どうせ失うくらいなら、フラグマ使ってバフかけて戦った方が良いのでは?』と。


 普通のゲームよりも死亡確率が異常に高くシビアな仕様だからこそ、この誘惑に惑わされるプレイヤーは後を絶たない。

 オヴェリのRTAは全ゲーム中でも屈指の地獄と言われているが、それは単純な難度では無くこのようなシビアな要素があるからだ。


「あれ?何これ?」


 さて、そんなフラグマとアイテムを内包した白い光の粒だが、近づいてみると何故かキノコの形状をしている事に青鹿は気付く。


 ただの光よりはかなり分かりやすいが、謎の新要素である。

 其れと同時に青鹿はふと疑問に思う。


 俺からドロップしたはずのフラグマは何処へ消えたんだ、と。


 チュートリアルエリアから強制的に追い出され、スポーンして、パラメータを確認した時には最初から何故かフラグマがある程度あったのだ。

 しかし、死んでもう一度パラメータを見た時には0になっていた。


 故にこの小型肉食恐竜悪魔が持っているのかと思ったが、その場合はドロップマーカーは赤色の光のエフェクトの筈。

 回収できた感じもないし、辺りを軽く見渡しても落ちている様子はない。


「Where is my fragme? 」


 結局探せども見つからず、また一つ謎が増えたと青鹿は首を傾げるのだった。



――――――――――――


【陽払角】


小型恐竜属悪魔の角

血を溜めることで熱を操る能力を持ち、その熱は攻撃に用いられると共にその身を蝕む恐ろしき物から護っていた

血を溜める都合上、火を用いる時には一時的に貧血に近い状態になり動きが鈍る


血の無い今はただの角だが、触媒としての価値を持つだろう



༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽フレーバーテキストって平行で連載している

『神ゲーしようと思ったらクソピーキー性能のチート詰め合わせの初期特典に当選したので悪役に徹することにする』

では設定上断念したので書いてて楽しい

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