第97話 彼女の覚悟
「……洗脳ってどういうこと?」
市子がそれを聞き逃さず、訊いてくる。
……流石に迷った。
迷ったけど……
俺は言った。
法王バイルが影で何をしているかを。
すると
「絶対許せない! 本物の悪魔よアイツは!」
『……1秒も生かしておけないな。速やかにこの世から消し去らないと』
市子とタケルさんがともに、怒りに震えた。
……無理もないな。
俺だって、あの映像を見たとき、頭が怒りと憎悪で真っ白になった。
まともに思考ができなくなった。
「今すぐやっつけに行こう!」
市子が俺に目を吊り上げて提案する。
念写すれば居場所はすぐに分かるだろと。
だけど
「……法王バイルは、そのままで討伐するのは難しいかもしれません」
そこでガルザムが口を挟んで来たんだ。
何故だと視線を向けると……
「将軍ベルゼブが倒されたことはおそらくすでに伝わっているはずだと思いますよ」
法王バイルに。
ゼルノスが真顔で。
……俺の話に眉ひとつ動かさずに。
動揺しないのか。
さすが、なんだろうか……?
「伝わっているから何だって言うのよ!?」
「将軍ベルゼブを倒した相手に勝てるわけ無いと、法王バイルが逃げに徹したら困ると言うことです」
法王バイルの人間体の立場を思い出して下さい。
マーシアハ教会の教祖の娘ですよ?
資金はふんだんにあります。
何処までも逃げていくことが出来るんです。
対してこっちは機動力に限界ありますから、現在地をその気になればいつでも調べられるのは決定打にはなり得ません。
……ぐうの音も出ない。
正論だ……!
「じゃあ、どうすればいいって言うのよ!?」
市子がイラついている。
絶対に許せない悪鬼が、逃げ回って命を永らえる構図が我慢ならないのか。
「落ち着いて下さい藍沢さん」
ガルザムがそう、神経を逆撫でしかねない声音で言い。
そのまま
「あなたが囮になれば全て済むことですから」
……突然、そんな聞き捨てならないことを言ってきやがった。
「ちょっと待てよ!」
ダン! と俺はテーブルを叩いて立ち上がり
「市子をここから追い出して、餌にするっていうのか!?」
俺の怒声に
「落ち着いてください」
ムカつくくらい平静な、ゼルノスの声が俺に飛んで来た。
そして続ける。
「藍沢さんが囮になることで、法王バイルが出て来ざるを得ない状況が生まれるのですよ」
……それは
その通りかもしれない。
今の市子はナラッカたちにとって、ゴールそのものだ。
そんなものがノコノコ出てくれば、法王バイルが出向かざるを得ないだろ。
多分、市子に接触することで洗脳が成るんだと予想できるし。
自分の身が危ないから、という理由で諦めるとは思いにくい。
市子は迷っていた。
目が泳いでいる。
……そりゃそうだろう。
化け物を釣るための餌になれって言われて
分かりましたやります。
なんて即答できるわけが無い。
だけど……
「分かりました」
市子は受けたんだ。
その危険極まりない役回りを。
俺はこのとき、この幼馴染の真の強さを見た気がした。
全力で逃げられると不味いのはホント。
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