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ナルシズム - 13. ドグマ
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13. ドグマ

世界一のかっこよさを目指す鳴紫恋なるしれん


その前に立ちはだかる“無表情の男”。

今明かされる彼の過去。


かつて天才と呼ばれ、誰にも届かず、

誰にも触れられず


――一人の少年が、静かに壊れていく




俺はいわゆる天才というやつだった。


「すごいわドグマ!

またテストで100点とったのね!」


「すごいよドグマくん!

どうしてそんなことがわかるの?」


小学校レベルのテストはもちろん満点。

親からも友達からもいつもめられる。


それが俺にとっての当たり前で、

何のありがたみもなかった。


むしろわからなかった。

なぜ彼らが“間違い”を選ぶのか。


「逆に何でわからないのかがわからないよ。

 どうしたら間違えられるんだ。

 想像したら答えなんてわかるじゃないか」


「お、おう……そうか……」


しかしいつも返ってくるのは、

どよめきか、はぐらかし。


時には、嫉妬しっとじみた侮辱ぶじょくだった。


---


中学に上がる頃には

俺の周りには誰もいなくなっていた。


たまに話しかけられても、

話題は決まって成績か、問題の答え。


「ドグマ、これ教えて」


「ドグマならわかるでしょ?」


俺という人間には、誰も興味を示さない。


親でさえも、完璧すぎる息子には興味をなくし、

会話することすら減っていった。


俺が笑っていても、泣いていても、

怒っていても――


誰も気にしない。


俺は……空気くうきでしかなかった。


---


そんなある日、クラスで誰かが泣いていた。


理由は知らない。


ただ、明らかに周りの連中がそいつをいじめていた。


虐めをするような低脳ばかの考えることは

よく理解できない。


だが本来、虐めとは人目のつかない場所で

行われるものだろう。


しかし――


“空気”である俺の前では、

隠す必要すらないらしい。


堂々と暴力が振るわれていた。


ふと、その被害者と目が合った。

助けを求めているのがわかった。


俺なんかにすがるほど、

余程よほど追い込まれていたのだろう。


興味本位で、俺は助けた。


昔読んだ武道の本に、

『相手の重心を見れば次の動作が読める』

と書いてあったのを思い出した。


書かれていたことをそのまま実践し、

主犯格の動きを簡単に止めてしまった。


どうやら俺は、武道こっちの世界でも天才だったらしい。


そのあと、そこにいた連中全員を

数発殴って黙らせた。


うらまれたようだが関係ない。


世間一般的に見れば、

悪いのは虐めをしている方だ。


それから、虐められていたその子――

はるかとよく話すようになった。


随分と女っぽい雰囲気の男だった。

言ってはなんだが、虐めやすそうなオーラはあった。


なよなよした奴だ。


遥は色々聞いてきた。

俺の趣味。

将来の話。

恋愛の話。


「ねぇねぇ、ドグマくんって趣味あるの?」


「そうだな……考えることが趣味だ」


「考えること?」


「あぁ。人間は考える生き物だろ。

 何事も感情に流されたら駄目なんだ。

 衝動しょうどうで動いても結果は得られない」


「へぇー、なんか難しいね。

 でもさ、ドグマくんって意外と感情的だよ?」


「俺がか?」


「うん。

 ドグマくんは難しいことも

 きっちり考えられる人でしょ?

 だから軽率な行動はしない。

 だけど、虐められている僕を助けてくれた。

 ドグマくんは優しい人だよ」


「そんなことあるか。俺は理論的りろんてきな人間だ」


「そうだね、笑。

 ドグマくん傭兵ようへいとかやりなよ?

 似合うと思う。強いし、かっこいいし」


「傭兵?何だそれは?

 そんなよく分からん職業はごめんだ」


「えー、かっこいいじゃん!

 好きな人を守れる兵士とか超憧れる!

 ドグマくん、好きな人とかいないの?」


「いない」


「でしょうね」


「なんだ“でしょうね”って」


他愛たあいもない会話は、ずっと続いた。


遥は勉強の話を一切してこなかった。

どうやら勉強が苦手らしい。


それが、俺には妙に居心地いごこちがよかった。

あいつは俺の“中身こと”を見ている――

そう思えたからだ。


しかし、このよく分からない“友だちごっこ”は、

長くは続かなかった。


その日も俺は、

遥と一緒に帰る約束をしていた。

だから下駄箱で待っていた。


しばらくして、

遥がいつものようにやって来た。

いつものように笑って――


だが、口にした言葉だけがいつもと違った。


「ごめんね、

 教室に忘れ物しちゃったみたいだから……

 先に帰ってて」


すぐ戻ると思い、俺は首を横に振った。


「忘れ物くらいならすぐだろう。

 戻ってくるまでここにいる」


しかし遥は、表情を変えずに

笑顔のまま言った。


「ちょっと時間かかっちゃうかもしれないから、

 大丈夫!急にごめんね。明日は一緒に帰ろ!」


不自然には思わなかった。


だから俺は、その提案を受け入れた。


「そうか。なら、また明日」


「うん。また明日、学校で!」


――だが、“明日”など来なかった。


今にして思えば、

あの時の遥は無理やり笑っていたのだろう。


次の日、学校に行くと規制線きせいせんが張られていた。


パトカーのサイレンがあちこちで鳴り響き、

校門前は騒然としていた。


俺は何の騒ぎかも分からず、

押し寄せる野次馬やじうまと一緒に

中の様子を伺った。


生徒たちのざわめきが耳に入る。


――今朝、誰かが三階の教室から

転落したらしい。


――警備員が発見した時には、

もう息がなかったらしい。


事故か事件かはまだ不明。


ただ、“誰かが亡くなった”という

事実ことだけが広まっていた。


三階の教室といえば、俺と同じ階だ。


だが、空気の俺には知り合いなど

遥しかいない。

だから何も感じなかった。


残念だとは思う。

だが、面識のない人間が死んでも、

特別な感情は湧かなかった。


(遥は俺のことを優しいと言うが……

 やはり、冷たいやつなのだろうな)


そんなことをぼんやり考えていた。


その影響で学校には入れず、

その日の授業も中止になった。


暇になってしまった。


(家に帰ってもやることは特にないし……

 どうするか…)


ふと、遥の顔が脳裏をよぎる。


(暇な時、遥は何をしていたんだろう)


そこで気づいた。


俺は――遥のことを何も知らない。


遥の趣味。

好きなもの。

将来の夢。

連絡先すら知らなかった。


思い返せば、

俺が一方的に自分の話をすることはあっても、

遥の話を聞くことはほとんどなかった。


(……俺は遥に興味がなかったのかもしれない)


俺が居心地がいいと感じていたのは、

ただ“自分の話を聞いてくれる相手”

だったからなのかもしれない。


(今度会った時は……遥に色々聞いてみるか)


――その“今度”は来なかった。


想像すらしていなかった。


遥が、まだ虐められていたなんて。


「は? 今なんて言った?」


「だから……昨日転落したの、

 遥くんなんだって…」


次の日の朝、学校に着くなり、

クラスの女子がそう告げてきた。


「噂だけどね……あいつらとめて、

 そのまま落ちちゃったらしいよ。

 でも目撃者もいないし、未成年だし、

 証拠もないから事故扱いになるって……


 酷い話だよね。

 最近ドグマくん、遥くんと仲良さそうだったから…

 …あれ?…ちょっと、ドグマくん、どこ行くの?」


途中から、言葉が耳に入らなくなった。


あれで終わりだと思っていた。


主犯格を撃退したことで、

全てが終わったと本気で思っていた。


だが――

虐めはそんな単純なものではなかった。


何でも分かっているつもりだったのに、

肝心かんじんなことは何一つ分かっていなかった。


何が天才だ。

笑わせる。


その後、自分がどうしたのかは覚えていない。


ただ――

気づけば、目の前には遥を虐めていた奴らが

血まみれで倒れていた。


うめき声を上げ、泣き、震えながら、

俺に縋りついて謝ってきた。


悪気はなかったと。

そんなつもりじゃなかったと。

許してくれと。


その声を聞いても、

俺の心は一ミリも動かなかった。


だから聞いた。

どうして遥を虐めたのか。


理由を知れば、

少しは同情できるかもしれないと思った。


だが返ってきたのは、

曖昧あいまいで、浅くて、

くだらない答えばかりだった。


むかついたから。

弱そうだったから。

みんながやっていたから。


要するに――

“虐めやすかったから”虐めていただけだった。


普通ならここで逆上して殴りかかるか、

あるいは涙を流して立ち尽くすのだろう。


だが俺は、何も感じなかった。

同情も、悲しみも、怒りすらも湧かない。


どうやら俺の感情は完全に壊れているらしい。


遥の死がきっかけなのか、

それとも初めからこうだったのか


――もう分からない。


俺は静かにその場を立ち去った。


後から聞いた話だが、俺が助けたあの日から

虐めはさらに過激になっていたらしい。


俺がいない時に教科書を隠されたり、

暴力を振るわれたり、

変な噂を流されたり。


それでも遥は、

俺に助けを求めることはなかった。


何も言わなかった。


あいつは、俺を信用しきれなかったのだろう。

薄々気づいていたのかもしれない。

俺の冷たさに。


むしろ恨んでいたのかもしれない。

俺が中途半端に助けたせいで、

いじめが悪化したことを。


今となっては、何も分からない。


ただ――

遥との“友情ごっこ”は、ここで終わった。





お読みいただきありがとうございます!


読んでいただいたあなたはヒーローです!


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