ダンジョン探索―最深部―
ランド達は地下六階からついに最深部の地下七階までやって来た。地下七階に降り立って最初に感じたのは今までのフロアとは違う違和感だった。
今までのフロアと違い地下七階は広くて薄暗い部屋一つしかなかったのだ。
「なんだこりゃ?やたら広い部屋だけどここだけしかないのか?」
ゼルがそう言って辺りを見回す。
「油断しちゃダメよ、何が起こるかわからないわ」
ペンドラもそう言って辺りを警戒する。
「しかし暗いな…リン、明かりとか出せないか?」
ガイルの言葉に「ちょっと待ってて」とリンが答えて火炎魔法を上に上げて部屋が一瞬明るくなる。
少し明るくなったときにランドがあるものに気付いた。
「今こっちになにか見えたぞ」
ランドの言葉に全員が反応しランドの示す方向に歩を進めた。
そうして少し歩いていくと何処からともなく声が聞こえてきた。
『よくぞここまでたどり着いた、現代の冒険者よ』
突然の謎の声に全員が警戒を示す、ゼル達は武器を抜いて構え、ランドはノエルの前に腕を出し反対の腕を腰の剣に添える。ノエルは少し不安なのか無意識にランドの服の裾を掴んでいた。
警戒を示すゼル達に対して謎の声は言葉を続ける。
『そう構えるな、ここまでたどり着いた冒険者を称えこそすれ不意打ちをするような無粋な真似はせん』
謎の声がそう言ったかと思うと部屋の回りの壁に光が宿り部屋の中が明るくなった。
明るくなって部屋の全貌が明らかになるとランド達の正面から少しのところに玉座のようなものがありそこには大きな「鎧」が鎮座していた。
「これは?」
「鎧?」
「まぁこんなところにあるんだ…」
「ただの鎧なわけないわね」
「あの鎧、ここからでもすごい技術で造られたのがわかります」
「一体なんなんだ?」
ランド達が各々そう言ってると再び謎の声が聞こえてきた。
『ここははるか昔、小さくも精強な軍を有する国の地下宮殿であった。国がなくなり忘れ去られていったが今なお強き者を求める意志が残りダンジョンとなった。地下五階や六階から貴重な資源を獲得できるのはそれを餌に人を呼び寄せるようになったからだ、そのフロアまでたどり着ける程ならそれなりの腕が必要となるからな。』
声に反応したのは魔法使いのリンだった。
「そういことがあるのね、研究者達が提唱したダンジョンの誕生の秘密がこんなとこでわかるなんて…」
『なかなか研究熱心な者もいるようだな。しかしそれは少し違う』
「え?」
『あくまでもこのダンジョンはそういった経緯で造られたというだけだ。他のダンジョンがどういった経緯で現れたかは我の知るところではない』
「ダンジョンの誕生に関する原因は多数にわたりここのような原因だけではないということね」
『そうだ』
「でも、一つの要因として判明したのは成果だわ誰か知らないけどありがとね」
『なに、ここまでたどり着いた冒険者への敬意だ構わぬ』
リンと謎の声のやり取りに他のメンバーは
「言ってることがさっぱりわからん…」
「私も…」
「俺はなんとなくわかる」
「俺はわからん」
「私も…」
ゼル、ペンドラ、ガイル、ランド、ノエルが順に口にする。
『さて、話が逸れたがお主達にはここまでたどり着いたのだから頼みたいことがある』
「頼みたいこと?」
ゼルが聞き返すと謎の声も答える。
『そうだ、先程もいったが我はかつてここにあった国の強き者を求める意志が残って誕生した思念。我と手合わせを願いたい』
声がそう言ったかと思うと玉座に鎮座していた鎧の兜の隙間に光が宿り鎧が立ち上がった。
「つまりアンタを楽しませる程の戦いをすればここの攻略が完了すると?」
ゼルがそう問いかけると声も答える。
『そうだ、それだけでなく貴重な物を与えよう。五階のキングミノタウロス、六階のオリハルコンゴーレムを倒したお前達のパーティーなら我を楽しませることができると期待しているぞ』
声がそう言ってさも楽しみにしているように答えるがそれに申し訳なさそうに返答したのはペンドラだった。
「あー、ワクワクしてるところ悪いんだけど…」
『なんだ?』
「私達パーティーはキングミノタウロスもオリハルコンゴーレムも倒してないのよ」
『は?』
「だから、私達のパーティーではキングミノタウロスもオリハルコンゴーレムも倒してないの。倒したのはそこの男一人よ、ランドって言うソロの冒険者なんだけどソイツが一人で片付けたの」
『……マジ?』
「マジよ」
ペンドラの返答に少し間が空いてから鎧はランドの方に視線(?)を向ける。
『そうなのか?』
「あー、まぁ…」
ランドはそう言うと気まずそうに頭をかく。
『参考までに聞くが、キングミノタウロスはどうやって倒した?』
「いや普通にこの剣で」
ランドはそう言って腰の剣を見せる。
『それはなんか凄い名剣とかか?』
「いや?武器屋で適当に買った鉄の剣だけど」
『そんなもんでキングミノタウロスを倒すな!』
「そう言われても…」
『じゃあ…オリハルコンゴーレムはどうやったんだ、流石に鉄の剣では斬れまい?どうやって倒した!』
「そっちの言う通り鉄の剣では無理と思ったから、一緒に出たミスリルゴーレムをぶん投げてぶつけて…ついでにキングミノタウロスから手に入れた斧もぶん投げた」
『ふざけてるのか!世の中の常識を考えろ!』
「思念体みたいな非現実的な存在に言われるすじあいは…『うるさい!』…えぇ?」
非常識な存在に非常識と言われてランドは少し凹んだ。
そんなやり取りを見ていたゼル達は…
「どうしよう?ちょっと思念とか言うやつの方に同意しそうになった」
「私も…」
「俺も」
「どっちもどっちな気もするけど…」
「み、みんな…ランドさんが可哀想だよ…」
なんて言ってた。
『ま、まぁいいか…お前が手練れなのはわかった。ともあれ我と手合わせを願おう』
「えっと、まぁよろしくお願いします?」
『うむ、いざまいる』
「とりあえずみんなは下がっててくれるか?」
ランドがそう言うのでゼル達とノエルは少し距離を置いた。
「あ、やる前に聞いていいか?」
『なんだ?』
「お前も見てわかると思うがあそこにいるノエルは非戦闘員なんだ。このフロアにはモンスターは出るのか?」
『安心しろ、ここではモンスターは出ない。我との戦いに集中するためにな、そして我も戦闘職以外のものには手を出さん』
「そうか安心した。ではやるとしよう」
『うむ』
こうして強き者を求める思念体を宿す鎧とランドの手合わせが始まった。
鎧はその重そうな外見とは違い凄まじいスピードで剣を振り回している。
ランドもそれに合わせるように剣を合わせ互いに一歩も譲らない。
『フハハハ、素晴らしい!力業だけの強引な男かと思ったが剣技も冴えているとはな!』
「俺も驚いた、そんな重そうな鎧着ていてそんな速度を出せるとはな」
『我は思念体、鎧に見えるが中身はなく関節などの概念も疲労の心配もないからな!』
「それちょっとズルくないか?」
『案ずるな、殺し合いをしたいわけではない。満足したらば認めるとも』
「なら良いけど」
そんなやり取りをしている二人(?)を見ながらゼル達は呆気にとられる。
「ペンドラ、あいつらの動き見えるか?」
「無理」
「多分俺の結界も一瞬で砕けるな」
「詠唱してる間に斬られるわ」
「あの鎧の持ってる武器も凄い技術みたい」
そんな会話をしていると決着が着いたようだ。
力強く振り抜いた鎧の剣をランドが角度をつけて受け流したタイミングでできた隙をついて剣を弾き飛ばしたのだ。
『素晴らしい!我の敗けだ』
思念体の鎧はそう言葉を発した。
「認めてくれたということかな?」
『勿論だ!そして礼としてあれを授けよう』
鎧はそう言ってランドが弾き飛ばした剣を指差す。
「あの剣か?」
『そうだ、今のままではお前にはサイズが合わないかもしれないが鋳とかしてお前に合う武器にするがよい。あれの素材は『アダマンタイト』だ』
「アダマンタイト!?」
鎧の言葉に反応したのはノエルだった。
「知ってるのノエル?」
ノエルの言葉にペンドラが質問をする。
「勿論だよ、おじいちゃんに聞いたことがあるけどアダマンタイトはオリハルコンよりも貴重で今では伝説と呼ばれてる金属だよ。まさかこの目で見ることができるなんて…おじいちゃんですら見たことないと言ってたのに」
「す、凄いわね」
ノエルの説明にペンドラも驚きを隠せない。
「まぁこれでダンジョンは攻略となるのかな?」
ゼルの言葉に鎧が答える。
『そうだ、我も満足できる戦いができた。今後このダンジョンは六階までとなりこのフロアはなくなるだろう。まぁモンスター等はそのままだから探索をするのは影響はない』
「そうなのか?」
鎧の言葉にランドが質問する。
『うむ、我の思念はこれで果たされた。この鎧はオリハルコンでできているが我の思念が消えるとただの鎧に戻るだろう。その後素材にするなりそのまま装備するなり好きにするがよい』
「モンスターはそのままか…こりゃ戻るのも一苦労だな」
「素材採れなくなるのは困るし仕方ないんじゃない?」
ゼルとペンドラがそんなことを口にすると『案ずるな』と思念体が言った。
『お前達は我の剣と鎧を持っている。どちらかを持っていればその気配でこのダンジョン限定だがモンスターは近づいてこん。帰りは楽だろう』
「そりゃ有り難いな」
『これが最後のお前達への敬意だ、そろそろ我は消える。願わくば来世ではお前たちの来世と共に冒険をしたいものだ』
「その時はよろしくな」
「楽しみだわ」
「あぁ」
「またね」
「さようなら」
ゼル達とノエルはそう言った。
『ランドとやら』
「なんだ?」
『実に満たされた、来世でもまた手合わせを願おう。その時は常識を身に付けておいてくれ』
「あぁ、ちょっと引っ掛かるが楽しみにしてるよ」
『うむ、ではさらばだ』
そう告げたとたんに
ガチャン!
鎧はその場で形をそのままに倒れて動かなくなった。