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野内くんのイヤイヤ天才学園生活〜何もしてないのに天才扱い、勘違いがエスカレートして手が付けられません〜 - 第23話 解決策
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第23話 解決策


「はあ……また嫌なことを思い出しちゃったな……」


 そんなことがあったため、結局俺は入学2日目に早退してから週明けの今日にいたるまで、ずっと学校を休んでいた。


 実はあともう一つ、同じくらいの重大なストレス源があるのだが、それは一旦頭の片隅に置いておく。

 一度に複数の問題を考えても、頭が混乱するだけだ。


 兎にも角にも、天才くん問題を一目散に解決しなければ、俺の夢である普通の学園生活など送れるはずがないのは火を見るよりも明らかなため、こんなにも困っているのだ。


 中学時代のトラウマが再現されようとしているのだから、必死になるのも仕方がないだろう。


 あの頃を思い返すと、今でも嫌な気分になってくる。


 小学校時代は単純に目立っていただけだったが、中学に入ってからは話が違った。


 ”天才くん”という呼び名と共に、まるで何でもできる超人のように扱われるようになったのだ。


 最初は気分が良かった。


 調子に乗って、その称号を享受していた自分もいた。


 しかし、段々と周囲の期待が重荷になってきた。


 だって、何をやっても「さすが天才くん」と言われるけど、実際には何も特別なことはしていないから。


 まるで知らないことまで、当然のように計算し尽くされた結果のように扱われる。


 そのギャップに気づいてからが地獄の始まりだった。


 しかし、それだからこそ思うことがある。


(………ダメだ。何をしても上手くいく気がしない……)


 中学時代だって、何もしてなかったわけではない。

 自分なりに天才くんの評判を下げようとしたことも何度もある。


 それでも何一つ上手くいった試しがなかった。


(…………あぁー……もう……なんでこんなことに……)


 一人で頭を抱える。


 考えてみれば、ゲーム翌日の午前中には教室内だけで盛り上がりが済んでいたはずなのに、

 もう他のクラスっぽい人たちが噂するぐらいには広まっているのだ。


 俺にとって、最悪の展開だと言える。


(はやく何とかしなくては……)


 そうこう思考を逡巡させていると、俺が立ち止まっていることに気付いた文音が振り向き声をかけてきた。


「どしたー、天才くん?おーい?早くしないと遅れちゃうよー」


 暗い俺の脳内とは裏腹に、随分と呑気な様子の文音を見てると、今の俺の気持ちをつい聞いてほしくなってしまう。


 ただそれだけの考えで発した、なんて事はない呟きだった。


「………………して……った…」


 心の奥底からの嘆きが、小さく漏れ出る。


「え?なんてなんて?」


 しかし、俺が発したその小さな叫びは、少し離れた場所にいる文音には届かなかったらしい。


 少し残念だけど、聞こえなかったならもういいか……


 と、文音のいる方へ歩き出そうとするのだが、そこでふと良いことを思いつく。


(………ああ、そうか。もう目立っちゃってるわけだし、悪い方向に目立ち直せば良いだけなんじゃ?)


 これまでの俺は、ただひたすら”天才くん”という評判を否定することばかり考えていた。

 しかし、それは根本的に間違ったアプローチだったのかもしれない。


 思い返してみれば、中学で俺が試してきたことは、ただ自分の功績を否定する行為だらけだった。

 功績を悪い方向に上書きするという案は、今まで思いつかなかったことにここで気が付く。


 これは発想の転換だ。


「すごい人」から「普通の人」になろうとするのではなく、「すごい人」から「変な人」になってしまえばいい。そうすれば、少なくとも”天才くん”として持ち上げられることはなくなるだろう。


 何でこんな簡単なことに気が付かなかったんだろうかと自分にはつくづく呆れてしまうが、この場面で考え付いたんだ。

 いくらバカな俺とて中学までとは一回りも二回りも成長していっているということなんだろう。


 それに、城才学園という環境も追い風になりそうだ。


 ここは天才だけでなく変人や奇人なんかも多く集まってくるって有名な学校だ。


 少しくらい変なことをしても、「ああ、この学校らしいな」で済まされるかもしれない。


 まぁつまり、何をしようとしているのかと言えば――


「ここでストレス発散も兼ねて、大きく叫んでみたらいいんじゃないか?」ということだ。


 こんなことになる前だったら目立つことすら嫌なので即却下なアイデアだったが、こと既に目立ってしまっている今の状況なら悪くはなさそうだと感じる。


 だって、噂が回っているとはいえ、まだゲームで大勝したってだけなんだ。


 その一回の成功だけなら、俺が悪目立ちしていけば変な誤解も生まずに「天才くん凄い!」じゃなくて「いや、別にそんな凄くもないんじゃね?」みたいに変わっていって、この風潮も直に消え失せていくんじゃないだろうか。


 何にせよ、地道でもいいから少しでも評判を下げる行動くらいはしておくべきだろうし、これは名案すぎるかもしれない。


(よし……文音も聞こえなかったって言ってるし、どうせなら文音だけじゃなくて、学年中に俺の奇声を聞かせてやるとしようじゃないか)


 ――そう決心したなら、俺の行動は星が流れるように早い。


 計画の詳細を練る必要もない。


 とにかく、できるだけ大きな声で、できるだけ意味不明な叫びを上げればいい。

 そうすれば、”天才くん”なんて呪いの呼び名は消え失せ、代わりに「変な奴」「うるさい奴」といったグレードダウンした評判が広まるだろう。

 嫌な事には変わりないが、今よりは幾分マシだ。

 魅力的すぎる。


(さあ……俺の心の叫びを聞いて、その虚像を取り払うがいい!)


 珍しく自信のある名案だったため、調子に乗って中二病っぽいことを心の中で呟いてみる。


(――そして願わくば、普通の学園生活を!!!)


「……スウ―――――…」


 胸ではなく、腹の底まで空気で満たすように息を吸い込む。


 これが上手くいけば、もう”天才くん”として期待される重圧に耐える必要はない。

 変人として扱われることで、徐々にその呪縛から解放されるのだ。


 深呼吸をしながら、俺は心の中で自分にエールを送る。

 これまでの受け身な対応とは違う、積極的な解決策だ。

 きっと上手くいく。


 ……いや、上手くいかせてみせる!!


 そして――


「………ふほおおおんんじょぉうぅんにいぃ……ドオオオジテくうああうぬわあぁーーったあああああああ!!!!!」


 (※ほんとうにどうしてこうなった)


 我ながらあっぱれなほどに大きな奇声が廊下に響き渡る。


 自分でも何を叫んでいるのか分からないほどの意味不明な叫び声だった。


 音量的にも完璧だ。


 きっと教室棟全体に聞こえただろう。


 内容的にも完璧だ。


 これを聞いて「さすが天才くん」などと思う人はいないはず。


 ざわざわとしていた教室棟が静かになっているのがここからでもよく分かる。


 一瞬、時が止まったような静寂が訪れた。


 そして、その後に聞こえてきたのは、各教室からの困惑した声だった。


「今の何?」

「誰?」

「何て言った?……」


 詳しくは聞こえないが、そんな言葉が行き交っているに違いない。


 今は誰が発したものかなど分からない人が多いだろうが、すぐに奇妙な俺の噂が広まるだろう。


 そうやって、徐々に天才くんムーブメントなどかき消してもらうとしようじゃないか。


(……完璧だ)


 これで俺は”天才くん”から「変な叫び声を上げる人」にジョブチェンジできたかもしれない。


 後者の方が圧倒的にマシだ。

 達成感が半端じゃない。


「………………ふぅ。さて文音、教室に行こうか」


 非常にすっきりとして気持ちがいい。


 やはり、学校を休んでいただけではストレスは解消されず、溜まり続けていたようだ。


 解決の糸口を見つけられたような気がして、それらが雲散霧消していくのを感じる。


 ”天才くん”になるくらいならば、喜んで変人になってやろう。


 色々な思いが吐き出せた気がして気分も明るくなってきた。


 ……のだが。


 こんな前向きな場面でも、ネガティブな考えが頭に出てきてしまう哀れな自分がいた。


(…………あれ、ていうか天才が多いなら特別指定席くらい余裕で取れたんじゃないの?)


 突然、俺の頭の中に「本当に天才たちが集まっている学校なのか」という疑いが出てくる。


 もし本当に天才ばかりが集まっているなら、特別指定席の法則くらい簡単に見抜けそうなものだ。

 それなのに、頼ってもない偶然だけで俺みたいな人間が10ポイントを獲得してしまうなんて、おかしな話かもしれない。


(……いやいやいや、そりゃ先生の席になんて頭の良い人は座らないって)


 不安要素が大きな疑問になるまえに実際に頭を振って、頭の中から邪念を振り払う。


 常識的に考えて、先生の席に座るという発想はしないだろう。


 そもそも俺が座ったのも、席がなかったからっていう消去法的な理由だったわけだし。


 天才だからこそ、非常識な行動なんか取るはずがない。


 第一、そんなこと考えたって仕方が無いのだ。


 どうしたって、俺のやることは変わらない。


 今の俺にできることは、”天才くん”というイメージを払拭することだけだ。


 俺は俺の問題を解決するしかない。


 こうして、改めて現状を打破するための似合わない決意をした俺は、未だ耳を抑えたままの文音などお構い無しに、清々しく教室へと向かっていくのだった。



 ――――この日、朝のHR前のやけに広い1年生教室棟では、野内蓮・通称”天才くん”の大きな叫び声が谺した。


 だがしかし、意味不明な奇声を上げることだけが優先されたその叫喚では、誰が発したものかなど分かるはずもない。


 次の時間になればそのことさえ忘れ去られ、中身をはっきりと聞き取れた者などいるはずもなかった。



蓮「ふうおおしいいとうぉおお、ぶッッッぐむあぁあくぅ……ゆぅおろじく、おぅねぐうぁあいじまぁあああッッすぅぅう!!!!!」

(※☆とブックマークよろしくお願いしまーす!)


作者「まだ第二章の投稿を開始してすぐなんですが、またもや3連続ランクインしてました。読んでくれている皆さま、リアクションで反応してくれている皆さま、そしてブクマや評価をしてくださった方々、本当にありがとうございます<(_ _*)>」

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