日本の若い女性の幸福度が顕著に上昇している。拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「世界的に若者のメンタル状況の悪化と幸福度の低下が指摘される中、これは珍しい現象といえる。その背景には結婚、出産への社会的圧力の変化があるのではないか」という――。

日本の女性は本当に生きづらいのか

「日本の女性は生きづらい」

このような言説を目にすることがたまにあります。しかし、1966年から2019年までの長期データを丹念に追うと、まったく別の姿が浮かび上がります。

実は、日本の女性の「生活満足度」は、半世紀の間に着実に上昇していたのです。

なぜ、そんな変化が起きたのでしょうか。昭和・平成にかけて女性の生き方はどう変わり、それが満足度にどんな影響を与えたのでしょうか。本記事では、その実態に迫ります。

昭和は「1本のレール」しかなかった

戦後から昭和にかけて、日本の社会における「女性の生き方」はほぼ1本のレールに決まっていました。女性は結婚すれば家庭に入り、専業主婦として家事と育児を担う。夫は会社で働き、一家の家計を支える。

線路
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こうした「男女の役割分業」は、当時の常識であり、社会全体が疑うことさえしなかった価値観でした。

若い女性のキャリアはどうだったのでしょうか。学校を卒業して企業に就職しても、20代半ばで「寿退社」するのが一般的でした。これは単なる慣習ではなく、制度としてもそのように設計されていた面があります。

労働省が1966年に実施した『既婚女子労働者に関する調査』によると、当時の企業には女性の定年を25歳や30歳に設定していた例が実際に存在しました。

つまり、女性は“長く働くことを想定されていなかった”のです。退職後、子育てが落ち着いた頃にパートで職場に戻る女性もいましたが、それはあくまで少数派でした。

当時、社会全体として「家庭に入ること=幸せ」と考えられていた時代だったと言えるでしょう。