組織のリーダーには何が必要か。経営コンサルタントの増田賢作さんは「個人の感情より、組織全体の未来を優先する冷静な判断力だ。三国志の英雄の一人、曹操も有能であれば裏切り者でも積極的に登用するという一貫した方針を持っていた」という――。

※本稿は増田賢作『リーダーは世界史に学べ』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

中国・河南省許昌市にある曹操の石像
中国・河南省許昌市にある曹操の石像(写真=Morio/Wikipedia Commons/CC-BY-SA-4.0)

戦闘力が気に入れば反乱軍の残党も採用

後漢末期の混乱のなか、中国統一を目指して台頭したのが、魏の基礎を築いた曹操です。彼は、群雄割拠の戦乱のなかで袁紹、孫権、劉備らと覇を競い、優れた軍略と政治手腕によって頭角を現しました。

曹操の台頭を支えた大きな要因の一つが、「人材の活用」に対する柔軟な姿勢でした。彼は能力を重視し、「過去」を理由に人を排除しないという一貫した方針を持っていたのです。その象徴的な例が、かつて反乱軍とされた「黄巾党」の残党を自軍にとり込んだことです。

黄巾党は、太平道の教祖・張角が率いた宗教反乱軍であり、当時は国家への反逆者として扱われていました。一般的には信用されない存在であったにもかかわらず、曹操はそのなかに戦闘能力の高い者がいると見抜き、あえて登用しました。世間的な評判よりも、現実的な戦力としての価値を優先したのです。

さらに、「過去を問わない」曹操の姿勢を最もよく表すのが、官渡の戦い(200年)でのエピソードです。この戦いでは、曹操軍がわずか1万に対し、袁紹軍は10万を超える大軍という圧倒的な戦力差がありました。劣勢に立つなか、曹操の陣営にいた一部の武将たちは、袁紹の勝利を予想してひそかに袁紹に通じる手紙を送っていたのです。