夜明けはshowの後で
前回の続きから。
━スランピア・城門前━
広場を抜けた先。私たちの目に飛び込んできたのは、
『《お城、ですか?》』
「御名答!この遊園地のシンボルでございます!」
コミカさんがそう答える。すると、ディライアさんが振り向く。
「ではでは!メインの第一弾でございます!シロさん、46号お姉ちゃん、よろしくお願いします!」
次の瞬間、『UTOPIA』にネオンが光った━━ゾッとした。だって、ココは……『廃墟』である。
「えっ!?あ、あの~……ココ、電気って……?」
ガラテアさんが思わず聞く。
「アハハ!通っているわけないじゃないですか!」
コミカさんが笑って答える……いや、我々からして見れば、異常事態なのだが!?と、心の中でツッコんでいると、
「あ、イレネオさん、アレ!」
ガラテアさんが急に指を指したので、見ると、
『…!……ネズミ、でしたかね?』
そう言った瞬間、
ヒュー……ドーン!……パラパラ……
複数の花火が打ち上げられ、花開いた。その光の中、ネズミのシルエットが現れ、何処からか出てきた大玉に乗った。
『ヨウコソ、スランピアヘ!私ハ、シロ!コノ遊園地ノマスコット!ヨロシク!』
そう自己紹介する白ネズミの複製。そして、大玉の後ろから、
「そして、その一番弟子、量産型アリスのXX46号です!」
正規個体のアリスが現れた。
「XX?貴女もイレネオさんと同じで、番号を忘れているんですか?」
ガラテアさんが質問する。確かに引っかかる事ではある。
「ええ、そうなんです。まあ、お二人の事はヒルデガルトとチャペックに教えられましたので、事情は把握しております」
『ニシテモ、ホントニ複製ダトハ……チョット信ジラレナイヨネ!』
『━━まあ色々とありましたので』
……カタコトで、少し聞き取りづらいなと思った。と、そんなこんなでXX46号が場を整える。
「まあ、立ち話もこんな所で!今宵我らがお送りするのは!」
『花火ト大玉ノ共演!是非ゴ覧アレ!』
そう言って始まる2人のショー。爆弾が気になったものの、そんな事を上回る程に美しい彼女らの大玉芸。その背景を彩る花火。綺麗だった。そうして迎えるクライマックス。XX46号が人差し指を上へ向けて、
「さあさあ、ショーを締めるは特製の大玉!━━大一輪よ、今こそ咲け!」
そうして、打ち上がる見事な青い大一輪。ソレを持って彼女たちのショーは終了した。拍手しようとしたその時、
『オット、拍手ハ、マダ待ッテ!地下デ、マトメテ、シテネ!』
シロさんにそう言われて、私たちは構えを解いた。
「ささ、コチラへ!」
「次のステージへ、Let's go!」
━━コミカさんって無駄に発音良いな……と思いながら、次へと向かった。
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━回転木馬前━
次に私たちがやって来たのは、回転木馬、つまりメリーゴーランドです。そして、そこにいたのは、
「あ!ピンクの目の烏!」
『《我々の案内、ご苦労さまです》』
カァーカァー!
と、烏は答える(?)。と、その時、
『おや、どうやら来たようだね』
「私たちの出番ですね!」
上から声が聞こえた。そして、舞い降りてきたのは、オシャレなピンクの目の烏と同じ格好をしたアリスだった。
『私はクロ。シロと同じくこの遊園地のマスコットさ』
「そして、私はそんなクロさんの一番弟子、96号です!」
「もしかして、あの烏は……?」
『あの2人がココへ来るための案内人が欲しいっていうから遣わせたんだ』
「全く、ヒルデガルトとチャペックは人使いならぬ烏使いが悪いんですから」
そう呆れて言っているようだが、表情は笑顔だ。むしろ楽しそうである。
『━━』パクパク
『ん?このステッキが気になるって?』
……全然イレネオさんの言っていることが分からない。やっぱりイレネオさんの声って複製にしか伝わらないんじゃ……と思ってしまう。
「まあ、その答えは実際に体験して頂きましょうか!さあ、コチラにお乗りください!」
そう言って96号が運んできたのは、2人乗りのゴーカートだった。困惑しながらも周りに促され、仕方なく私たちは乗った。
「安全バー……ヨシ!タイヤ、OK!ライト、健康!ハンドル……all clear!」
「確認終わりました、クロさん!」
案内人の2人が安全チェックをする。
「それでは、ゴーカートで地上の園内一周コース、スタートです!いってらっしゃーい!」
『ほれ、行ってきな!』
クロさんがステッキを横に振ると、ゴーカートが発進した。が、
「『うわあああ!』」
一般的なゴーカートの速さではなかった。ジェットコースターとまではいかないが、普通の自動車並みの速さをこの小さなボディで出している。景色、楽しめるのか……?
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酔った。到着したのは良いが、生きた心地がしない。イレネオさんも目をぐるぐると回している。
『良ければ、木馬にも乗ってくかい?』
そう言って、木馬が空中に浮かせる。いや、空中メリーゴーランドってなんですか!?
「遠慮しておきます……」
「そうですか?ヒルデガルトとチャペックは乗りましたけど……」
……あの2人、意外と苦労したんだな、と勝手に思った。
「その様でしたら、地下へと行きましょう!」
「私たちは妹たちを呼んできます!なので、お姉ちゃんたち、案内の方、お願いします!」
「ほいほーい!という事で、こっちです、こっち!」
何処かでスタンバっていたのであろう、XX46号が96号と共に手招きをする。案内人が業務をほっぽりだして良いのだろうか?と思いながら付いていった。
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━地下━
そこは不思議な空間だった。右端と左端に線路が引かれている。駅があったのだろうか?そんな疑問を浮かべていると、妹たちを集合し終えたコミカさんたちが、
「さあさあ、今夜の幕を締めるのは、世紀のマジシャンたちによるマジックショーでございます!」
「ではでは、早速お呼びすると致しましょう!ゴズさ〜ん!52号お姉ちゃ〜ん!」
すると、奥のトンネルから汽笛が聞こえた。左右一緒に出てきたのは、ネズミの顔の汽車……いや、ジェットコースターだった。右は如何にもマジシャン、という格好をしたアリスだが、
『(左は……お、大きい猫!?━━いや、複製か!本当に、ココの複製は変わってますね……!)』
「Ladies and Gentleman!今宵も始まりました、私とゴズさんによるマジックショー!」
『どうぞ、楽しんでいってニャ!』
そう言って、会釈するお二人。すると、アリスの方が初対面のお客に気付いたらしく、近づいてきた。
「はじめまして!私は52号。見習いのマジシャンです!お二人は……成る程、ヒルデガルトとチャペックの遣いですね!話は聞いています!」
続けてやって来た猫も話す。
『ニャる程、君たちが……ワシはゴズ。お察しの通り複製ニャ!』
「おお〜……!マジック、楽しみです!」
……気のせいだろうか?ガラテアさんの目がキラキラとしているような気がする……手品に興味があるんだろうか?
「フフッ、そんな目をされたら、応えていくのがエンターテイナーという者!では、早速私から!」
おもむろに彼女はハットを頭から外し、穴の方を前に出す。すると、中からトランプが規則正しく出てきた。
「トランプの手品は私の十八番です!こんな風に舞わせる事だって!」
彼女がハットから出てきたトランプに向かって人差し指をクルクルと回す。すると、たちまちトランプの竜巻が形成された!
『す、凄い!』
「アハハハ!まだまだ序盤です!ここからもっと楽しませますよ!」
その後も彼女の手品は続く。鳩にコインと、その他諸々を彼女は操る。これでもまだ見習いなのか……と手品の奥深さを知った。ちなみにだが、ガラテアさんはずっと目を輝かせていた。
━━その後、ゴズさんの番になり、変な空間に巻き込まれ、彼の分身に翻弄されたのは別の話である。
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━広場A━
私たちは広場Aに戻っていた。なぜなら、もうすぐ夜明けが来るからだ。それに、
「いや〜、遅れてしまいましたね!」
「ホント、やれやれです……」
迎えが来ていた。
「アレ?2人って来ないんじゃ……」
XX46号が首を傾げる。
「私たちは『行き』しか頼んでいませんよ。ね、クロさん!」
『ああ、迎えは頼まれてなかったからね!』
『所デ二人共用事ハ?』
「「くしゃみと格闘しながらも、なんとか終わりました!!」」
凄いやり切った感のある表情をお二人は揃ってした。くしゃみって事は……まさか、ね?
「今度は4人で来てください!」
「……善処はしますよ、52号」
苦笑いを浮かべながら、答えるチャペックさん。個人的には手品が興味深いと感じたため、また行っても良いかな、と思った。
「「「また、来てくださ〜い、待ってますよ~!!!」」」
正規の3人組に見送られながら、私たちは夜明けと共にその場を後にした。
━登場人物━
59X号、5601号、コミカ、ディライア、XX46号、シロ、96号、クロ、52号、ゴズ、917号、1920号