エンジニアから選ばれる求人の条件とは? DX人材採用の成否を分ける「スキルの細分化」
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「2025年の崖」が到来した今、あらゆる企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を急務としている。だがDX人材の採用現場は熾烈を極め、「必要な人材が全く採れない」という悲鳴が聞こえてくる。
なぜ、これほどまでにDX人材の採用は困難なのか。そこで今回、DX領域の採用支援に強みを持つ株式会社レイン代表・芦川由香さんにインタビューを実施。芦川さんは数々の企業の採用課題を解決してきたプロであると同時に、彼女自身が元エンジニアという異色の経歴を持つ。
技術者の「本音」と企業の「現実」。その両方を知る芦川さんだからこそ語れる、多くの企業が見落としている採用の「致命的な勘違い」とは。
芦川さんのキャリアの軌跡をたどりながら、DX時代の採用を勝ち抜くための秘訣を聞いた。
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株式会社レイン(LeIN) 代表取締役 芦川由香
岐阜大学農学部を卒業後、電力系IT企業に入社しシステムエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、リクルートキャリアに転職し、IT領域の採用コンサルタントとして企業と転職希望者を支援。2019年1月にエンジニア採用に特化したHRコンサルティングおよびRPOサービスを提供する株式会社レインを設立。同時にLinkedInのオフィシャルパートナーとなる。2024年にアルムナイ事業を展開する株式会社ハッカズークと経営統合によりグループ化をし、グループのCOO兼CHROに就任
目次
キャリアの原点にある「正当に評価されない技術者」への違和感
ーーまず、芦川さんのキャリアの原点からお伺いします。農学部からITエンジニアへというユニークな経歴ですが、どのような経緯でその道に進まれたのでしょうか?
もともと理系ではあったのですが、大学は「動物が好きだから」という気軽な気持ちで農学部に進学しました(笑)
ただ私の進んだ研究室が非常にアナログで、皆が寝袋で泊まり込むような環境だったんです。この非効率な状況を何とかしたい一心で独学でプログラミングを学び、研究データを処理するツールを作ったのが、ITとの最初の出会いです。
自分でツールを作って効率化するのがとにかく面白くて、就職活動ではIT業界一本に絞りました。
ーーでは、なぜエンジニアから人材・採用の世界へキャリアチェンジしようと?
エンジニアとして5年弱働く中で、自分にはプログラミングの才能があまりないと感じる一方、周囲には技術力が非常に高く、情熱を持ったエンジニアが数多くいました。
ただそういったエンジニアの中には、コミュニケーションがやや不器用なだけで、面接で正当に評価されず実力に見合わないキャリアを歩んでいる人も少なくありません。そんな中、要領の良い自分が彼らより良い給与をもらっているという状況に、大きな違和感を覚えました。
わずか数時間の面接で技術者の価値が測られ、その後のキャリアが左右されてしまうことに、強い疑問を抱いたのです。
ーーその問題意識が、リクルートへの転職、そして現在の起業へとつながっていくのですね。
リクルートでは、最初にRA(リクルーティングアドバイザー)として名古屋支社に配属され、IT採用の支援を担当しました。そこで驚いたのは、エージェントの担当者や人事担当者の中には、ITの知識が乏しかったり、そもそも関心すら持っていない人が少なくなかったことです。
そのため、要件に機械的に当てはめて白黒をつけてしまう場面が多くありました。例えば、求人票に「Javaの経験5年以上」と書かれているからといって、実務経験が3〜4年しかない候補者は実力や適性を問わず不合格とされてしまうといった形です。
「年数の密度は人によって大きく違いますし、Javaではなくても近しい言語であれば十分に即戦力になります」といった話をして、ようやく選考に進めてもらえることも多くありました。
入り口の段階で画一的な判断によって大きな機会損失が生まれている現場を目の当たりにし、「採用の仕組みそのものに構造的な課題があったのか」と痛感したのです。
入社して半年ほど経った頃、リーマンショックが発生し、状況は一変しました。毎日のように「求人を止めたい」という電話が鳴りやまず、社内でもリストラが進み、私はCA(キャリアアドバイザー)へと異動になりました。
そこからは、職を失った候補者の方々への対応に追われる日々です。今振り返っても、本当に辛い経験でした。家族を支える方々が「会社が潰れる」と必死に次の職を探しているのに、求人そのものがほとんど存在しなかったのです。
その中で私が目の当たりにしたのは、適切なキャリア形成ができていなかった40代の方々が直面する厳しい現実でした。お話を伺う中で、多くのIT企業において、社内のキャリアステップや評価制度がきわめて脆弱な基盤の上に成り立っていることを知りました。そこから「入社後の内部の仕組み」を整えなければならないと強く意識するようになったんです。
だからこそ、レインでは企業の採用課題の根本に踏み込み、コンサルティングを行っています。単なるオペレーション代行(RPO)であっては意味がありませんから。
DXが「目的化」する現場。“超・超売り手市場”で起きていること
ーーレインはDX領域の採用支援に特化されているとのことですが、今その最前線では何が起きているのでしょうか?
まず大きな問題として、多くの企業でDXは事業変革の「手段」であるはずが、「DX推進」そのものが「目的化」してしまっているという現状があります。その結果、採用ターゲットが曖昧なまま、人事担当者のもとには「とにかくDX人材を連れてきてほしい」という漠然としたオーダーが下りているんです。
しかし、採用市場では熾烈な人材獲得競争が繰り広げられています。もはや、“超・売り手市場”を通り越して“超・超売り手市場”。転職サイトから合計で週に100件ほどのスカウトが届くエンジニアも、珍しくないようです。
さらに、エンジニアのキャリアパスにも変化が生まれています。かつて事業会社のIT部門は、社内システムを安定運用する「守りのIT」が中心でした。しかし今は、ITを武器に事業を推進する「攻めのIT」を担う役割が求められ、エンジニアのキャリアパスは二極化しています。
企業側がこれらの変化を理解せず、旧来の価値観で採用活動を行っても、優秀な「攻めのIT」人材には全く響きません。
ーーそのような困難な市場環境の中で、エンジニアから人気のある企業はどういった特徴があるのでしょうか。
そうですね。私たちが以前行った、転職経験のあるITエンジニア・DX人材551名を対象にしたアンケートで行った「応募したくなる求人」「応募したくない求人」の質問結果からお答えします。
まず「応募したくなる求人はどういったものか」という質問に対し、最も多かった回答が「求められている経験やスキルが明確に示されている」で、34%を占めました。次点が「自分のスキルや経験が活かせる」(23%)です。
この結果からは、ITエンジニア・DX人材がいかに「自分がこれまで積み上げてきたものを活かせるか」を重要視しているかが分かると思います。
以前、ある開発エンジニアが転職先を決めた理由を「求人情報を見た時に、自分を求めていると強く感じたから」と話していました。その求人票には、採用背景から期待される役割まで、彼がまるで足りないパズルのピースのように、自分自身をそのポジションに当てはめてイメージできるほど、具体的に書かれていたそうです。
ーー逆に、「こういう求人は応募したくない」という声はいかがでしたか?
こちらはさらに顕著です。1位の「給与や福利厚生などの条件面が合わない」(47%)は当然として、それに次いで多かったのが「これまでの経験を活かすことができない」(45%)、「キャリアアップのイメージが持てない」(37%)でした。
求められるスキルや役割が具体的に示されていないと、「自分の経験が活かせないのではないか」という不安に直結する。このデータは、エンジニアの切実な思いを浮き彫りにしていると思います。
「●●開発経験」で探しても無駄。鍵となるのはスキルの細分化
ーーでは、企業はどうすればエンジニアに「自分の経験が活かせる」と感じさせることができるのでしょうか?
いくつかポイントがありますが、中でも重要なのは「スキルの細分化」です。
例えば、スマートフォンが登場したばかりの頃に、「スマートフォンの開発経験者」を探しても市場にはいませんよね。しかし、必要なスキルを「センサー開発」「カメラ開発」「画面設計」と細分化すれば、ガラケー時代にそれらの技術を経験してきたエンジニアが候補者として浮かび上がってきます。
実際に、そうしてキャリアを切り拓いたエンジニアもいました。単純に「●●開発の経験者」と探すのではなく、必要なスキルを翻訳し、候補者がどう活躍できるかを提示することが重要です。
前述の調査結果でも「企業や製品の特徴が不明瞭で将来性を感じない」(19%)という声がありました。事実、求人サイトには似たような募集要件の求人が溢れています。その中で、自社の強みや製品の魅力を言語化し、エンジニアが「ここで働くことで社会にどう貢献できるのか」を想像できるようにしなければなりません。
もし自社の強みが分からなければ、社内の営業やマーケティング担当者に相談してみることをお勧めします。
ーーそれこそ、週に100件ものスカウトが届くようなエンジニアに選んでもらうためには、面接で他社と差を付ける必要もありますよね?
私が推奨しているのは「ディスカッション面接」です。ホワイトボードなどを使い、「このシステムの構造はどうあるべきか」といった具体的なテーマについて、候補者と現場のエンジニアが一緒に議論する形の面接になります。
これを行うと、履歴書や職務経歴書だけでは決して分からない、その人の思考プロセスや技術的なセンス、課題解決へのアプローチといった本質的な部分が見えてきます。
そして議論の後に、「あなたのこの考え方は素晴らしかった」とリスペクトを込めて具体的にフィードバックすることが何より重要です。自分のスキルや経験を正当に評価してもらえたという実感は、どんな福利厚生よりも候補者の心を動かします。
もはや「外部採用」だけに頼ってはいけない時代
ーーこれまでのお話を伺っていると、採用がうまくいっている企業とそうでない企業の間には、明確な理由があるのだと感じます。
そうですね。ただ、「受け入れ側の企業」と「入社するIT人材」の間で、期待値のミスマッチが非常に多く発生している問題も見過ごせません。
企業側は「何でもできそうなITの人が来た」と過度な期待を寄せ、IT人材側も「エースとして期待に応えなきゃ」と気負いすぎてしまう。これを防ぐためには、採用の入り口で、任せたい役割やロードマップを明確にすり合わせることが不可欠です。
そもそも、企業のDXは単一のプロジェクトではなく、目的別に複数のプロジェクトが同時に走ることがほとんどです。そして、プロジェクトごとに必要な人材の種類や期間は異なります。例えば、あるプロジェクトでサーバーに強い人材を採用しても、そのプロジェクトが半年で終わった後はどうなるのか。そこまで考えていかないと、本質的な成功とは言えません。
最も重要なのは、「何のためにDXをやるのか」という目的を最上段に設定すること。その目的に対してどのようなプロジェクトが走り、どういう人材がどのタイミングでどれくらい必要なのかを設計するといいでしょう。
ーー採用についてあれこれ考えるよりも、まず事業やプロジェクトの目的を明らかにすべきですね。
はい。そう考えると、何も外部から人材を採用することが全てではないことにも気付くと思います。
私たちが提唱している「BBB(Buy, Build, Borrow)」という考え方があるのですが、Buyは「人材の採用」、Buildは「人材の育成」、そしてBorrowは「内部・外部人材活用」ということを指し、具体的には社内異動、業務委託、アルムナイ(退職者)の活用などが含まれます。
プロジェクトに必要な人材は、必ずしもすべてを「Buy(採用)」で賄う必要はありません。半年間だけサーバーエンジニアが必要なのであれば、それは「Borrow(業務委託)」で対応すればいい。プロジェクトごとに必要なスキルをマッピングし、それを「BBB」のどの手法で調達するかを戦略的に設計することが、プロジェクト成功の本質だと考えています。
ーーなるほど。採用だけに固執しない、と。
ええ。この視点は、採用だけをやってきた人にはなかなか持てません。しかし、現場で活躍してきたIT人材なら、業務委託や外注の方と働いた経験もありますし、プロジェクトを渡り歩く中でどうスキルを習得してきたかという感覚も持っています。
だからこそ、私たちはお客様から相談を受けた際に、「ここは採用で良いですが、ここは外部から調達しましょう」という複合的な提案ができるのです。
ーーレインには、エンジニア出身だからこそ活躍できるフィールドがあるのですね。
IT業界が本当に好きで、人とコミュニケーションを取りながら物事を調整したり、相手の気持ちを慮りながら仕事を進めたりするのが好きな方には、この仕事はもの凄く向いていると思います。
AIが進化していく中で「自分のプログラミング業務はいずれなくなるかもしれない」「今からプログラミングスキルを磨くことには情熱が向かない」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。そうした方が「これまでの経験を活かして他の職種に」と考えても、IT業界以外の仕事はなかなか想像ができないものです。
おそらく、その経験を唯一と言っていいほど活かせるのが、このHRのマーケットです。自分が得てきた経験やスキルを活かしながら、同じ職業に就きたい人や、エンジニアを採用したい企業を支援する。新たなキャリアを模索しているエンジニアには、ぜひ一度、この世界にチャレンジする選択肢を検討してほしいですね。
撮影/赤松洋太 取材・編集/今中康達(編集部)
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