無題
なぜこんなことになっているのだろう。目の前で、美味しそうに食事をする彼女を見て、ぼんやりと思う。
いつの間にか定期的に行われるようになった食事会。最初は、それなりの店に行ってた筈だが、今では近場のカフェやこれまでの人生で行ったことの無いような定食屋などに連れていかれるようになった。
そう、連れていかれるのだ。
彼女のかつての花嫁の結婚式の日に、泣いている彼女へハンカチを差し出したが最後。お礼だからという理由で食事に誘われ、女性にご馳走されるだけでは失礼なので、今度はこちらが誘ったら、それが今の今まで続いてしまった。
こちらとしても、ガンダムのパイロットとお近づきになれるのはありがたいことではあるが、俺の仕事ではないはずだ。
「あの……美味しくなかったですか?」
食事をする手が止まっていたことに気がついた彼女が、心配そうにこちらを見る。
「いや、美味しいよ」
「よかったぁ!リリッケさん達から、おすすめのお店だって聞いていたので、エランさんにも喜んでもらえてよかったです!」
別に喜んでいる訳ではないが……。
この年でそこまで純粋なのは逆に心配になってくる。
あの頃のまま、変わらぬ笑顔を浮かべたスレッタ・マーキュリーを見て、心の中で小さく溜め息を吐いた。