【エピローグ】果てなき今(ユメ)をキミと共に
後日トレセン学園———
平日になったアタシ達は担当とトレーナー、指導者と教え子の関係に戻っていた。
もちろん平日"は"その関係でいるけれど、休日は2人で一緒に何気ない日々を過ごしてる。
時折その時の話をする。色々語る事は多いけど当然あの夜の事は、アタシ達の交わした"それ"は隠したまま。
今日もアタシの話をエースとルドルフが聞いていた。時折顔を赤らめていたけど。
「おや?シービー。君のトレーナーが向こうにいるね」
「あ、ホントだ。おーい!あなた〜!」
アタシは立ち上がって薬指に絆創膏を巻いた腕を大きく振って声を上げた。
「へ?…"あなた"?」
「あっ」
少しバレてしまったアタシ達の秘密。まぁ、呼び方だけだから問題ないけど。
「こら、その言い方は我慢しろって」
コツリと頭に拳を乗せられる。
「アハハ…つい…ね?それともダーリンの方が良かった?」
「もっと良くない!」
「冗談冗談!……あれ?2人とも?」
静かになったと思って振り向くと2人はもっと顔を赤くしていた。それにアタシ達の左の薬指の絆創膏を交互に何度も往復するように見ながら。
あーあ、バレちゃったか。ま、"あなた"って言っちゃった時から開き直ってたケド。
「負けねぇからな…そっちの方でもシービーには負けないからな!」
「ふ…ふふふふふ…私も負けてられないな…皇帝として私もルビコン川をわ、渡る時が来ただけ…ト…トレーナーくーん!」
そんな捨て台詞みたいな事を言いながら2人は向こうへ…おそらくそれぞれのトレーナーの方へ駆けていった…
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。まぁアタシが2人に火を付けた様なものだけどさ……ねぇトレーナー?」
そう言ってアタシは振り向く。
「もし…さ、アタシ達の関係が色んな人から言われる様になっちゃったらさ…2人で逃げちゃおっか?」
「そうだな…そうなったらいっそ地の果てまで逃げちゃおう。2人が一緒に暮らせる所で」
「トレーナー…」
「それに、そんな事にはさせないよ。君を辛い目に合わせる事は絶対にしない。君に今(ユメ)を見せ切るまでは、叶え切るまでは絶対に」
「……嬉しい」
まだ平日なのに、学園の中なのにアタシはトレーナーの手を握って彼の身体によりかかる。そんなアタシをしっかりと受け止めるトレーナー。何やら周囲から黄色い声が聞こえてくるけれど、そんな事なんて関係ない。
「ねぇトレーナー…今度の休みだけどさ、一緒に行きたいお店があるんだ。…その時はね、トレーナーとしてじゃなくて———さんとして行って欲しいんだ」
だって、その店は皆が憧れる場所だから…
「なら、その時はミスターシービーの———として一緒に行こう」
「あなた………大好き」
「それじゃ、トレーニング始めるか!」
「オッケー!行こう!」
そうして歩き始めるアタシ達。ゆっくりだけど構わない。
まだ、今(ユメ)は始まったばかりだから…
そして月日は流れて……
「そんな話もあったね〜」
「全く…2人のそれに気付いた時はアタシの頭の中がぐるぐると回ったんだぞ?」
「驚天動地…私も当然驚いたな。まさか君が先に凱旋をするとはね…お陰で用意も無しに私もルビコン川を渡り切ってしまったよ」
アタシはあの時の2人と喫茶店で談笑をしていた。どうやらアタシが2人に火を付けた事は間違いなかったみたい。
「そう言えばシービーは最近どうなんだ?」
「アタシ?アタシはね………ふふっ♪」
そう言ってお腹をさすると2人は目を見開いて大層驚いていた。
「シ…シービー…!?ひょっとして…」
「うん、そのまさか」
「おめでとう!それで彼には伝えたのかい?」
「知ったのは数日前だからね。まだ伝えていないんだ。……でも今日伝えようって決めてたんだ」
「へぇ…そりゃまたどうして?」
「だって今日はね———」
「おっと、そろそろ帰ってきたようだね。私達のトレーナー…いやそれぞれの家族が」
そう言ってルドルフは手を振って呼びかける。続いてエースも立ち上がる。
アタシも負けじと左腕を…薬指の証を煌めかせながら大きく振って声を上げる。
今日はキミに伝えたい事があるんだ
伝えられるのが今日で本当によかった
偶然かもしれないけれど…
だって今日は…
キミがあの時、アタシの"夢"を"現実"にしてくれた日だから
アタシ達の今(ユメ)が始まった日だから
だからこれからも
アタシと一緒に一緒に今(ユメ)を追いかけていこう
あなた……ううん
———"お父さん"