理想と現実
VerdutDay13日目—エリドゥ管制塔、仮設指令室—
ミヤコ「RABBIT小隊、山海経偵察任務の報告を行います」
カヤ「どうぞ」
ミヤコ「結果から、本偵察任務は失敗に終わりました」
ユキノ「詳細を頼む」
ミヤコ「了解しました。まず、山海経自治区内に侵入した途端、ヘリが濃霧に包まれました。前後不覚に陥り、低速での飛行を余儀なくされました」
カヤ「なるほど。それで、例の……」
ミヤコ「はい。山海経玄龍門門主のキサキさんと、シャーレの先生よりお聞きしておりました、『火を操る怪鳥』と出くわしました」
カヤ「不思議なものも数多く存在するキヴォトスですが、まさか巨大な鳥までいて、それをヴァーディクターズが飼い慣らしているとは……」
ミヤコ「…………よろしいでしょうか」
カヤ「どうしました?その怪鳥をどうにかローストできないか考えていたところなのですが……」
ミヤコ「その怪鳥について、少々思うところがありまして……」
カヤ「…………」チラッ
ユキノ「…………」コクリ
カヤ「話してください」
ミヤコ「はっ!件の怪鳥と対峙した時なのですが、奇妙なことが二つ起こったんです。………一つは、怪鳥が接近してきた際、ヘリのレーダーが反応し、その“機影”を捉えたのです」
カヤ「?」
ユキノ「…………あり得ない話ではない。いいか、ミヤコ。ヘリや航空機のレーダーとは、マイクロ波を物体に照射し、その物体から反射された反射波をキャッチして反応するものだ。それは僅かな鳥の群れでも反応する。相手が巨大な鳥では尚更だろう」
ミヤコ「そう………なのですが……」
ユキノ「………全部話せ」
ミヤコ「はい。………事前に聞いていた通り、怪鳥は『火の玉』を吐いて来ました。ですが、その時ヘリのMAWSが警報を鳴らしたんです」
ユキノ「………なんだと?それは確かにおかしなことだ……」
カヤ「あ、あの!そのMAWS?というのは?わかるように話してください!!」
ユキノ「ミサイル警報装置のことだ。名前の通り、自機がミサイルにロックオンされた時に、そのミサイルから発せられる電磁波をキャッチして警報を鳴らしてくれる。一種のレーダーだ。だが……」
ハナコ「生き物が吐いた謎の火の玉に反応するとは、奇妙な話ですね?」
ミヤコ「出発前に入念に点検を行いましたので、レーダー機器類の誤作動ではないと断言できます。それと……」
ユキノ「なんだ?」
ミヤコ「RABBIT4、霞沢(かすみざわ)ミユが、我々が撤退する際にRABBIT小隊のヘリのローター音とは別のローターの回転音を聞いております。彼女は、非常に優れた感覚器官を持っており、彼女の見聞きした情報というのは、かなり信頼度の高いものと思っています」
ユキノ「…………」
ハナコ「…………」
カヤ「……?………???」
ユキノ「アニマトロニクス……」ボソッ
ミヤコ「何ですかその………アニマ……」
ハナコ「アニマトロニクス。身近なもので言うと、恐竜博物館で動いている恐竜ですね。定義はで言うと、機械の身体に生き物の皮を被せたモノを、そう言うんです♡“皮”を、“被せた”モノです♡」
“ハナコ……”
ハナコ「うふふ♡」
ユキノ「…………とにかく、その怪鳥について今は結論は出せないだろう。生き物なのか、それとも機械なのか、これからも調査が必要だ。しかし、収穫がなかった訳でもない。空中から山海経自治区に踏み入ることは不可能。その事実が確認できただけでも十分だ。次の朝までに作戦を練ろう」
ハナコ「そうですね。……焦っても仕方がありませんし、今はミヤコさんも休んだ方がいいと思います」
ミヤコ「お気遣いありがとうございます。ですが……」
ユキノ「ミヤコ、休め」
ミヤコ「………了解しました」
トッ…トッ…トッ…
“……………生き物か、機械か”
ハナコ「先生は、どちらだと思います?」
“う~ん………なんとも。みんなは?”
ハナコ「そうですね…………。『廃遊園地のアミューズメントドール』、『ライブラリー・オブ・ロア』。カヤさんも仰っていました、摩訶不思議な存在が多いキヴォトス。『火を吐く怪鳥』も、いてもおかしくないなと」
“うんうん”
ユキノ「私は………そうだな、『観測できるまではわからない』とだけ。決めつけて掛かると、先入観で見落としをしてしまう」
“大事なことだね”
カヤ「私はもちろん、その怪鳥はあにまとろにくす?だと思っています!巨大な鳥が空を縦横無尽に飛び回るだなんて、科学的にあり得ませんからね!」
“現実的な考えだね”
ユキノ「やつの正体を暴く方法も考えておく。どの道、あの怪鳥を野放しにしておくことはできないからな」
“そうだね”
ウィン
ヒナ「ただいま」
“ヒナ!おかえり、ヒナ”
ヒナ「うん。ただいま、先生」ツヤツヤ
ユキノ「救助要請を出していたのは、どこの誰だったんだ?」
ヒナ「うちの……ゲヘナ風紀委員会の後輩たち。ヴァーディクターズに捕まった後、上手いこと脱走したそうよ。治療を受けて、今は休んでもらっている」
カヤ「そうですね、それがいいです。回復したら、事情をお聞きしましょうか。もしかしたら、有益な情報が得られるかも知れませんし」
“…………”
アロナ『先生!メッセージが届いていますよ!』
“ありがとうアロナ。誰から?”
アロナ『それが………差出人不明でして………。『指定の場所に一人で来て欲しい』とのことで……』
“…………”
“みんな、ごめん。ちょっと外出してくるね”
ユキノ「一人でか?必要なら私かニコが……」
“ありがとう。でも大丈夫だよ。すぐ用事を済ませて戻ってくるから”
ハナコ「気を付けてくださいね、先生。ヴァーディクターズは、今もまだ先生の身を狙っているハズですから」
“うん。ありがとう、ハナコ。行って来るね”
ヒナ「気を付けて。先生」
—キヴォトス、某所—
??「クックックッ………ようこそおいで下さいました。もしかしたらいらっしゃらないかと肝を冷やしました」
“なら呼ばないで欲しいかな………黒服”
黒服「手厳しい」
“そんなことないよ。貴方にはこれくらいがちょうどいいよ。………それで?何の用で呼び出したの?”
黒服「……………では早速、本題に入りましょう。シャーレの先生」
“……………”
黒服「貴方/貴女を呼び立て、態々ご足労いただいたのは、コレをお渡しするためです」スッ
そう言うと黒服は、手元のカバンから“何か”を取り出し、それを目の前のデスクに置いた。
ゴトッ…
“これは……C4?なんでこんな…………まさか……!!”
黒服「見覚えがございますでしょう。これは、私の同僚『ゴルコンダ』がかつて作成した『ヘイローを破壊する爆弾』、それを今一度ムリを言って作っていただいたのものです」
“…………これを………私に渡してどうするの……”
黒服「私に言わせるとは、人が悪い。既にわかっているでしょう?………この爆弾を使って、天降(あもる)サンを抹殺してください。他ならぬ、貴方/貴女の手で」
“………っ!!”
黒服「私は観測者であるままを選びました。しかし、貴方/貴女はこの『世界』に介入することを選んだ。………『青春の物語』は今や、崩れ去りました。空が紅くなった終焉の日。とある連合の自治区が火の海に呑まれた日。それらと同様、貴方/貴女は取り戻さなくてはなりません。たった一人の少女を犠牲に、これまでの『青春の物語』を」
“ふざけるな!!!”
ガシッ
ギリギリギリ!!
“私は絶対にそんなことしない!!私は誰一人犠牲になんてしない!そんなの……『大人』のすることじゃない!!!”
黒服「…………先生、冷静に、よくお考え下さい。単純なトロッコ問題です。たった一人の少女を殺し、平和な世界を取り戻すか。たった一人の少女の愚かな考えを受け入れ、青春とは程遠いディストピアを作り上げるか」
“貴方は……!貴方は以前、この世界は自分にとって実験場だ。そう言ったよね!?”
黒服「……………えぇ、確かに言いました」
“貴方は、自分の遊び場を壊されたくないだけでしょ!?子供みたいに…!”
黒服「もちろん、それも本音の一つです。しかし、彼女が作ろうとしている世界が、平和という耳触りのいい言葉で、他者を束縛し自由を覆い尽くしたディトピアであるというのもまた、事実です」
“サンちゃんはそんなことしない!”
黒服「……………………貴方/貴女に彼女の何がわかるのですか?」
“!”
黒服「彼女が抱える闇も何も気付かなかった貴方/貴女が、何を以て『天降サン』という少女をわかっていると言えるのですか?」
“そ、それは……”
黒服「先生。私は単に、自分の我儘でこの爆弾を使えと言っているのではありません。これは保険でもあるのです」
“………保険?”
黒服「彼女はそう遠くない未来、キヴォトスを亡ぼす存在になるやも知れぬということです。彼女はそれだけのものを抱えている。『色彩』や『無名の司祭』、『セトの憤怒』に並ぶ大厄災となるでしょう」
“………サンちゃんが……そんなことする訳……”
黒服「そうなる前に、貴方/貴女は彼女を止めなければならない。私は、そのための『近道』を提示しているに過ぎません」
“近道……だって…?”
黒服「貴方/貴女は『責任』を取らなければなりません。彼女から目を逸らした責任を」
“………………”
黒服「確かに、お渡ししましたよ。では」
コツッ…コツッ…コツッ…
ギィ……バタン…
“……………”
プラナ『先生……』
“ははっ……。悔しいなぁ、何も言い返せなくなっちゃったよ……”
“………”
“……………”
“情けないなぁ本当に……”