『傲慢』な一面
VerdictDay12日目—第1セーフハウス—
カンナとの用事を済ませセーフハウスに戻った私は、ヴァーディクターズの『とある人物』から送られて来たVHSを見ることにした。再生機器を用意するのは大変だった……
…
……
…………
見ることに……したのだが…
“…………”
アロナ『先生?』
プラナ『大きな動揺が見られます。大丈夫ですか?』
“うん………。大丈夫だよ、ありがとう二人とも”
アロナ『しかし、これの送り主は一体何のためにこんなものを……』
プラナ『推測、恐らく先生による本件への介入を精神的に妨害したいのだと思います』
彼女は………イレニアは暗に『邪魔をするな』と、そう言いたいのかも知れない。だとしても…
“だとしても、彼女たちを………サンちゃんを止めない訳にはいかない”
こんなやり方は、絶対に間違っているから……
ピコンッ♪
“うん?”
アロナ『あっ……ミレニアムのチヒロさんからメッセージです』
“チヒロから……もしかして…”
ピッ
チヒロ『先生、USBメモリの修復が終了したよ。話したいことがあるから、エリドゥの臨時特異現象捜査部まで来てくれる?』
“うん、わかった。すぐ行くよ……っと”
ピコンッ♪
チヒロ『わかった。待ってるからね』
“…………”
“よし、行こうか”
—臨時特異現象捜査部—
ウィン!
“こんにちは、チヒロ。お待たせ”
チヒロ「こんにちは、先生。待ってたよ」
リオ「こんにちは、先生」
ヒマリ「うふふ♪ようこそいらっしゃいました」
エイミ「お疲れ、せんせ~」
トキ「こんにちは先生。只今お茶をご用意して参ります」
“うん。お疲れ、みんな。……リオもこっちに来たんだね?”
リオ「えぇ、元々隠れ処にいたのだけれど………今は、離れて活動することに合理性を見出せなかったから」
ヒマリ「できることなら、同じ空気を吸っていたくはありませんが………贅沢は言えませんので」
エイミ「それじゃあ部長はあっち行こうねー」
ヒマリ「やめっ、やめなさいエイミ!」
エイミ「じゃあ大人しくしててね」
ヒマリ「ぐぬぬ…!」
チヒロ「はいはい!ふざけてないで。……先生、トキがお茶淹れてきたら、話をしよっか」
“うん”
トキ「お待たせいたしまた。どうぞ、先生」
“ありがとう、トキ”
トキ「……………」ジーッ
“…………”
トキ「……………」ジーッ
“と、トキさん……?ど、どうしたの……かな…?”
トキ「いえ。お褒めの言葉、ありがとうございます。ですが足りません。頭も撫でてください」
“え……”
トキ「撫でてください」ジーッ
“う、うん………。あ、ありがとう。トキ…”
ナデナデ…
トキ「~♪」
エイミ「………」ウズウズ
チヒロ「…………そろそろいい?先生」
“あっ、うん。ごめんチヒロ、お願い”
チヒロ「…………」クルッ
カチカチッ
チヒロ「これが修復できたファイル。全部完璧に直せたと思ったんだけど………見ての通り、ほんのごく一部が虫食い状態」
“…………初めからそういう風に作られた…?”
ヒマリ「その可能性が一番高いと、私たちも結論付けました。このファイルには『削除されたデータ』がありませんでした」
リオ「つまり、私たちに盗ませるために用意したファイルという訳よ」
チヒロ「これでウィルスが仕込まれてるって訳じゃないんだよねぇ~。………情報を渡す気がないんなら、そもそもこんなもの用意する理由がない」
ヒマリ「とは言っても、興味深い記述があったんです。チーちゃん」
チヒロ「はいはい」
カチカチッ
“…………これは?”
ヒマリ「『フリズスキャールヴ』なる遺物についての記述と、その遺物を利用した計画についての記述です」
リオ「フリズスキャーツヴ……『神の玉座』とも言うわ。恐らくだけれど、『無名の司祭』が遺した物……だと思う。私の手元に、これに関する情報はないわ」
“リオでもわからないんだ……”
チヒロ「この記述………多分これの設計図だね。これを読み解く限りだと、この遺物には『使用者の神秘を取り出して周囲に放出する』機能があるみたい」
“神秘を……取り出す…”
ヒマリ「何とも小難しい概念が飛び出て来ましたが………言葉通りの意味です。私たち『キヴォトスの生徒』がもつ『神秘』を取り出し放出する。ただ……」
リオ「この遺物自体が齎す『神秘の効果範囲』は、精々10m程度」
チヒロ「ヴァーディクターズが連邦生徒会を占拠したのは、この『玉座』の効果範囲を補うためだと思う。実際、一緒に入ってる計画書のファイルにもそんな風な記述がある」
カチカチッ
“……………”
チヒロ「サンクトゥムタワーがキヴォトス中に発する電波にも似たエネルギー波に、『玉座』で抽出した『神秘』を乗せて発する」
ヒマリ「彼女の……天降(あもる)サンの計画が成就すると、キヴォトスに『怪電波』が発せられる。彼女は『平和』を掲げていますが、その『怪電波』は私たちに一体何を齎すのでしょうね?」
“…………キヴォトスから、全ての『脅威』を取り除くための計画。楽園の創造……”
ヒマリ「神様にでもなるつもりでしょうか。リオ?彼女は貴女よりも思い上がった人物のようですね。フフッ…」
リオ「………‥」
エイミ(笑うところじゃないと思うんだけど…)
チヒロ「………『傲慢』って言葉が、よく似合う人物像が浮かんでくるね。この計画を読む限りだと」
“………………ねぇ……”
一同「「「「?」」」」
チヒロ「どうしたの?先生」
“このフリズスキャールヴってさ………使ったらどうなるの……?”
チヒロ「………」
ヒマリ「………」
リオ「………」
“…………”
トキ「…………記載はありません。しかし……」
エイミ「何のデメリットの類がない………とは言い切れない」
チヒロ「『神秘』に関しては、私たちよりあんたの方が見識が広いよね?あんたはどう思う、リオ?」
リオ「……………」
調月リオは顎に手を添え熟考する素振りを見せる。
リオ「少なくとも………使用者の身の安全が保障できる代物ではないでしょうね」
“———ッ!!!”
ヒマリ「この内容は少々衝撃的ですね。ここだけの話としましょう」
“うん。それは、私からもお願いするよ”
チヒロ「もちろん」
リオ「秘密は守るわ」
トキ「安心してください。これでもエージェントです」
エイミ「部長が一番喋っちゃいそう」
ヒマリ「なっ!?そ、そんな訳がないでしょうエイミ!」
“…………”
—シッテムの箱—
アロナ「先生?大丈夫ですか?イラ立ちと言うか焦りと言うか……」
“………そうだね。サンちゃんには少し……ううん、結構怒ってるよ”
プラナ「先生……」
“絶対にサンちゃんを止めて、きつぅ~くお説教しないと”
プラナ「先生………あまりご無理はなさらないでください。無理をして、貴方/貴女の身に何かがある。……そんなのは、もう見たくはありません」
“うん。大丈夫。ありがとう、プラナ”
アロナ「大丈夫ですよプラナちゃん!そのために私たちがいるんです!!スーパーアロナちゃんとスーパープラナちゃんが、先生の身を守るんです!!」
プラナ「…………」
“そうだよ。頼りにしてるからね、二人とも”
アロナ「はい!お任せください、先生!」
プラナ「…………」
“………プラナ?”
プラナ「はい。このプラナが、絶対にお守りします」
“絶対に、サンちゃんを止めよう!”