東京都内の自治体で鉄道の車両基地見学や駅長・駅員体験などを返礼品にしたふるさと納税が広がっている。新宿区などが先行して取り組んできたが、今年に入って北区、三鷹市、府中市、足立区が鉄道関連のふるさと納税に参入。普段は入れない場所でさまざまな体験ができるとあって、締め切り前に定員に達するケースが多く人気を集めている。
北区は新幹線の車両基地に
北区は区内のJR東日本「東京新幹線車両センター」を活用したふるさと納税体験型返礼品である「見学・体験ツアー」を今月18日に行った。新幹線の運転席に座ったり、メンテナンス社員の台車の検査の様子を見学したりした。同行した担当者は「鉄道好きの方が多く、車内放送なども驚くほどうまかった。みなさん貴重な体験ができたと喜んでいた」と話す。
北区では同様のツアーを今年2月に初めて返礼品に採用。好評だったことから2度目を追加した。
三鷹市メンテ参加
JR東日本の施設では、三鷹市が親子向けに三鷹車両センターでの車両メンテナンス体験、府中市が子供向けに府中本町駅での駅員体験を返礼品にしたふるさと納税の募集を始めた。いずれも12月の実施予定で、鉄道関連の返礼品は初だ。
足立区は近く、東京メトロの綾瀬車両基地で行うイベントの入場券と車両洗浄乗車体験などをセットにした返礼品で受け付けを始める。
鉄道関連返礼品の増加は先行実施した新宿区などでの成功の影響が大きい。令和5年に開始した返礼品の「JR新宿駅長プレミアム体験」の金額は100万円。高額にもかかわらず5年、6年にそれぞれ1人の募集を行い、応募があった。
今月25、26日にはJR新宿駅で切符を発券する「マルス端末」の操作体験(寄付額5万円)も返礼品として行うが、募集締め切り前に定員になる人気ぶりだ。
品川区が9月中旬から募集を始めた同区の大井町駅に隣接するJR東日本総合車両センターでの「山手線E235系車両体験ツアー」は金額が12万円するが、約2週間で寄付枠が埋まった。
一部でも取り返す
ふるさと納税をめぐっては特別区長会が財源を奪われるため、制度の抜本的見直しを求めるとして基本的には反対の立場にあり、多くの都内自治体ではふるさと納税の取り組みは遅れていた。ある区の担当者は「反対の立場は変わらないが、制度はすぐにはなくならない。ならばなんとかして一部でも取り返したい」と、ふるさと納税に取り組み強化の背景を説明する。
ふるさと納税で人気の肉やフルーツなどを用意しにくい都市部の自治体にとって体験型ツアーは有望な「特産品」。今後も鉄道ファンを意識した鉄道関連施設と連携した返礼品の拡充が進むことになりそうだ。(平尾孝)