セロトニントランスポーター
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/11 06:43 UTC 版)
セロトニントランスポーター(Serotonin transporter、SERT、5-HTT)は、ヒトではSLC6A4遺伝子によってコードされるタンパク質である。
概要
セロトニントランスポーター(SERT)は、神経伝達物質であるセロトニンをシナプス間隙から前シナプスニューロンへ輸送するモノアミントランスポーターの一種である。この輸送プロセスは「セロトニン再取り込み」として知られ、セロトニンの作用を終結させ、ナトリウム依存的にセロトニンを再利用する[5]。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や三環系抗うつ薬などの多くの抗うつ薬は、SERTに結合してセロトニンの再取り込みを減少させることで作用する。
機能と構造
SERTは神経伝達物質ナトリウム共輸送体(NSS)ファミリーに属し、12回膜貫通ドメインを持つ。細胞外のセロトニンを認識し、ナトリウムとクロライドの濃度勾配を利用して細胞内に取り込む。X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡による構造解析により、基質結合部位と輸送サイクルの分子メカニズムが解明されている[6]。
セロトニンは縫線核で合成され、脳全体に投射する。SERTは睡眠、気分、認知、痛覚、食欲、攻撃行動などの神経生理学的プロセスを調節するセロトニンシグナルの強度と持続時間を制御する。
薬理学
SERTは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の主要な標的である。SSRIはSERTを競合的に阻害し、シナプス間隙のセロトニン濃度を上昇させ、うつ病や不安障害の治療に使用される。麻薬では、コカインはSERTを阻害し、アンフェタミン類は逆輸送によってセロトニンの排出を誘導する。イボガインは非競合的阻害薬として作用する[7]。
遺伝学
SLC6A4遺伝子は17番染色体(17q11.2)に位置する。プロモーター領域の5-HTTLPR多型は、44塩基対の挿入・欠失により短いアレル(S)と長いアレル(L)を生じ、Sアレルは転写効率が低くセロトニン取り込みが減少する。この多型はストレス感受性やうつ病のリスクとの関連で広く研究されており、2003年のCaspiらの研究[8]では、Sアレル保有者がストレス下でうつ病発症リスクが高まることが報告されたが、後続のメタ解析では結果は一貫していない[9]。
参照
- ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000108576 - Ensembl, May 2017
- ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000020838 - Ensembl, May 2017
- ^ Human PubMed Reference:
- ^ Mouse PubMed Reference:
- ^ “SLC6A4 - Sodium-dependent serotonin transporter - Homo sapiens (Human) - SLC6A4 gene & protein”. 2026年2月11日閲覧。
- ^ Coleman, Jonathan A.; Green, Evan M.; Gouaux, Eric (2016-04-21). “X-ray structures and mechanism of the human serotonin transporter”. Nature 532 (7599): 334–339. doi:10.1038/nature17629. ISSN 1476-4687. PMC 4898786. PMID 27049939.
- ^ Gradisch, Ralph; Schlögl, Katharina; Lazzarin, Erika; Niello, Marco; Maier, Julian; Mayer, Felix P.; Alves da Silva, Leticia; Skopec, Sophie M. C. et al. (2024-01-10). “Ligand coupling mechanism of the human serotonin transporter differentiates substrates from inhibitors” (英語). Nature Communications 15 (1): 417. doi:10.1038/s41467-023-44637-6. ISSN 2041-1723.
- ^ Avshalom Caspi et al. (2003). “Influence of Life Stress on Depression: Moderation by a Polymorphism in the 5-HTT Gene”. Science 301: 386-389.
- ^ Stein, Murray B.; Campbell-Sills, Laura; Gelernter, Joel (2009-10-05). “Genetic variation in 5HTTLPR is associated with emotional resilience”. American Journal of Medical Genetics. Part B, Neuropsychiatric Genetics: The Official Publication of the International Society of Psychiatric Genetics 150B (7): 900–906. doi:10.1002/ajmg.b.30916. ISSN 1552-485X. PMC 2885845. PMID 19152387.
関連項目
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