自然変換
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/06 17:36 UTC 版)
自然変換(しぜんへんかん、英: natural transformation)とは、数学における「自然な同型」という概念の定式化として生まれ、その後圏および関手とともに圏論の中核を構成した数学的な対象である。圏論において自然変換は「関手の間の射」[注 1]とも表現され、圏の構造の中で関手の像を別の関手の像へ変換させる対応として定義される。
関手 F, G : C → D の間の自然変換 τ : F ⇒ G は、よい条件を満たす C の各対象によってパラメータ付けられた射の族 {τx: Fx → Gx}x ∈ C によって構成される。逆に、C の各対象によってパラメータ付けられた族 {τx: Sx → Tx}x ∈ C が関手の間の自然変換を構成する場合[注 2]、射の族 {τx}x ∈ C は x で自然である (natural in x) とも表現される。
自然変換は圏や関手と並んで非常に基本的な構成物であり、随伴、極限、モナド、モノイド圏など多くの場面で自然変換、あるいは射の自然性は議論されている。
定義
圏 C と D に対して、F と G を C から D への関手とするとき、F から G への自然変換 η : F ⇒ G (あるいは
自然変換 η : F ⇒ G を構成するそれぞれの射 ηX: F(X) → G(X) は η のコンポーネント (英: component) と呼ばれる。コンポーネントがすべて同型射であるとき、η は自然同型 (英: natural isomorphism) あるいは自然同値 (英: natural equivalence) であるという。
上記の図式を考慮しない、単なる射の族 {ϕx: Fx → Gx}x ∈ C0 (C0 は C の対象からなる部分集合) を、F から G への infranatural transformation と呼ぶことがある[2]。このとき、F から G への自然変換とは C の対象すべてをパラメータとする F から G への infranatural transformation {τx: Fx → Gx}x ∈ C であって、任意の f : x → y に対して
それぞれの可換図式は、a ∊ A に対する自然性、αa, _, c: F(a, _, _) → G(a, c, c) と αa, b, _: F(a, b, b) → G(a, _, _) の、それぞれ b ∊ B および c ∊ C に対する特別自然性 (Mac Lane (1998) ではこのことを特別自然変換と呼ぶ) を表している[21]。
超自然変換のうち、特にどちらかが定数関手である場合、特殊な(余)極限としてエンド(英語: end)およびコエンド(英語: coend)が定まる。エンドやコエンドはhom関手と関連性があり、例えば豊穣圏論では豊穣圏の「関手圏」を定義するためにエンドを用いている[22]。
脚注
注釈
- ^
map between functors
(Leinster 2014, p. 27, §1.3) - ^ 対象の族 {Sx}x ∈ C、{Tx}x ∈ C が関手を構成することも条件に含む
- ^ Heller (1990, p. 1260) より。文献によって C0 = C の場合のみを指すこともある (Lengyel 2002, p. 7)。
- ^
... “natural” in that it is given simultaneously for all finite-dimensional vector spaces L.
(Eilenberg & MacLane 1945, p. 232) - ^ 定義は Awodey (2010) の p.37 および p.158 に基づく。
- ^
By the early 1940s, researchers in algebraic topology had started to use the phrase ‘natural transformation’, but only in an informal way. Two mathematicians, Samuel Eilenberg and Saunders Mac Lane, saw that a precise definition was needed.
(Leinster 2014, p. 9) - ^ Mac Lane (1998, p. 43, Ⅱ.5)、訳書版では p.54。Leinster (2014, p. 38)、Riehl (2016, p. 46, Lemma 1.7.7) にも記載あり。
- ^ 例えば Johnson & Yau (2021) などでは Cat を2-圏として例示している (Example 2.3.14)。
- ^ ここでは、記法は全てLawvere (1963) のものに準拠している。例えば Adámek, Rosický & Vitale (2010)では代数理論の射の向きは反転しており、型
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