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統計物理学懇談会の記録
13:00-13:05 世話人挨拶
13:05-14:05 越野 幹人(阪大理) モアレ準結晶の電子状態:トポロジカル不変量と4次元ホール効果 (Show abstract 二次元物質同士の角度をずらして重ねたモアレ二次元物質では、格子構造の干渉によって生じるモアレ模様が物理的な性質を一変させる。たとえば2枚のグラフェンを重ねた「ツイスト二層グラフェン」では、モアレ周期によって平坦バンドが生じ、それに起因して超伝導や磁性が生じる。一方で、3層以上の原子層からなる多層モアレ物質も近年注目を集めている。このような系では、一般に整合しない複数のモアレ模様が干渉するため、並進対称性を持たない準周期構造を生じる。ここでは、これら3層系に代表される準周期モアレ系の電子構造と、そこに内在するトポロジカル不変量についての最近の研究を紹介する。まず、一般に空間の次元以上の余剰な周期が存在する系では、エネルギーギャップが複数の整数の組によってラベルできることを示す。さらに準周期モアレ系と6次元周期系との形式的な対応を通して、これらのギャップラベル整数が、4次元量子ホール効果におけるトポロジカル不変量(第2チャーン数)と対応することを示す。最後に、同じ考え方が3次元の準結晶にも拡張されることを示す。)
14:05-15:05 Marcin Kalinowski (Harvard) Neutral atom quantum processors and the error correction frontier (Show abstract We will present an approach to quantum information processing based on reconfigurable arrays of neutral atoms trapped and transported in optical tweezers. Long-lived atomic states are used for robust quantum information storage, and excitation into Rydberg states is used for entangling gates. This digital quantum processor features hundreds of individually addressable physical qubits, high two-qubit gate fidelities, arbitrary connectivity, and mid-circuit readout. Parallel control over atomic qubits enables efficient realization of digital simulation and advanced quantum processing experiments. In particular, we use this platform to realize quantum information processing and explore quantum algorithms with encoded logical qubits and quantum error correction techniques. Using this logical processor with various types of error-correcting codes, we demonstrate that we can improve logical two-qubit gates by increasing code size, outperform physical qubit fidelities, create logical GHZ states, and perform computationally complex scrambling circuits using 48 logical qubits and hundreds of logical gates. These results herald the advent of early error-corrected quantum computation, enabling new applications and inspiring a shift in addressing both the challenges and opportunities that lay ahead.)
(休憩 25 分)
15:30-16:30 神山 翼(お茶大理) 黒潮とメキシコ湾流の同期現象および関連する諸問題 (Show abstract 発表者は,北半球最強の暖流である黒潮とメキシコ湾流の変動にともなって,日本東方沖とアメリカ東海岸沖の海面水温が同時に暖かくなったり冷たくなったりを繰り返す現象を発見し,「境界流同期」と名付けた[1]。これらの暖流は,北米大陸をはさんで約一万キロメートル離れている。それにもかかわらず,中緯度地域の上空に一年中存在する強い西風である「偏西風ジェット気流」の南北移動を介して,互いの海流の強さや流路のもつゆらぎの情報が交換されることで,水温が同期することが明らかとなった。
本現象にともなう偏西風ジェット気流のゆらぎは,北半球中緯度域の大都市圏を狙い撃ちするような猛暑の分布をもたらす。その分布は,1994年や2018年などに繰り返し観測されている。さらに最近,冬の偏西風ジェット気流のゆらぎである「北極振動」[2]の確率分布を歪め,我が国の暖冬や寒波などの極端イベントの発生をサポートすることも分かってきた[3]。
本発表では,物理学科出身の気象学者である発表者が,最小限の大気海洋の専門用語を用いて,かつそれを発表者の能力が許す限り統計物理学の慣習に従った用語に翻訳して,気象学の研究を紹介する。まず,「境界流同期」現象について概説する。次に,当該現象に情報熱力学を応用した研究を紹介する[4]。最後に,統計物理学のアプローチが応用できる大気現象の一例として,雲の集団としての振る舞いである「積雲対流の自己組織化」に関する最新研究を紹介する[5]。統計物理学と気象学の間に存在する,重要かつ広大な未解決領域について,聴衆の方々とともに議論を深めたい。
[1]: Kohyama, T., Yamagami, Y., Miura, H., Kido, S., Tatebe, H., & Watanabe, M. (2021). The gulf stream and kuroshio current are synchronized. Science, 374(6565), 341-346.
[2]: Thompson, D. W., & Wallace, J. M. (1998). The Arctic Oscillation signature in the wintertime geopotential height and temperature fields. Geophys. Res. Lett., 25(9), 1297-1300.
[3]: Kohyama, T., Yamagami, Y., Kido, S., Ogawa, F., Tatebe, H., & Miura, H. (2024). in prep.
[4]: Yasuda Y., & Kohyama T. (2024). in prep.
[5]: Jinno. T (2024). PhD thesis; Jinno T. & Miura H. (2024). in prep.)
16:30-17:30 犬伏 正信(東京理科大理) Navier-Stokes 乱流の小スケール運動の隷属性:データ同化とカオス同期解析 (Show abstract 流体力学は微生物の遊泳から航空機周りの乱気流,地球惑星現象まで幅広い応用を持つ[1].なかでも乱流現象は物理のみならず工学・気象分野においても重要である.基礎方程式であるNavier-Stokes方程式を数値的に精緻に調べることで,乱流が様々なスケールの階層構造からなることが明らかになってきたが,依然として未解明な点は数多く残されている[2].
Navier-Stokes乱流の難しさの要因として「非線形性」と「大自由度性」があげられる.興味深いことに,データ同化を用いた数値実験により,ある臨界スケール以下の運動は(それより大きなスケールの運動に対して)隷属的であるということが示されている[3].この結果は乱流の大/小スケール間の非線形相互作用を考える上で重要であり,応用上も小スケール運動のモデル化に対する示唆を与える.最近のいくつかの研究により,データ同化の手法や乱流を駆動する外力の詳細に依らずに,共通の臨界スケールが現れることが報告されている.
本研究では,力学系理論におけるカオス同期解析に着想を得た理論的枠組みを提案し,Navier-Stokes方程式のある種の安定性の性質として,この臨界スケールが定まることを示す[4].
[1] エリック・ラウガ(著),石本 健太(訳),『流体力学超入門』(岩波書店,2023).
[2] 後藤 晋,『発達した乱流―エネルギーカスケードをめぐって』,日本物理学会誌(特集 広がり巻き込む乱流現象) 73, 7 (2018).
[3] K. Yoshida, J. Yamaguchi, and Y. Kaneda, Regeneration of small eddies by data assimilation in turbulence, Phys. Rev. Lett. 94, 014501 (2005).
[4] M. Inubushi, Y. Saiki, M. U. Kobayashi, and S. Goto, Characterizing Small-Scale Dynamics of Navier-Stokes Turbulence with Transverse Lyapunov Exponents: A Data Assimilation Approach, Phys. Rev. Lett. 131, 254001 (2023).)
3月 14 日(木)
9:45-10:45 池田 晴國(学習院大理) ジャミング転移の普遍クラス (Show abstract 砂や穀物のように熱ゆらぎを無視できる程度に大きな粒の集まりを粉体と呼ぶ。粉体を圧縮していくと、ある密度で突然、系が剛性を獲得し固体のように振る舞い始める。これがジャミング転移と呼ばれる現象である。ジャミング転移は、非平衡古典粒子系における相転移の代表例として統計物理の観点からも活発に研究されている。最近、スピングラスの分野で開発されたレプリカ法と古典液体論を組み合わせることで、摩擦が無い球形粒子からなる系のジャミング転移の臨界指数が厳密に計算された[1]。本講演では、その結果をレビューした後、空間次元[2]、粒子の形[3]、アンサンブル[4]等を変えたときに、ジャミング転移の臨界的な振る舞いがどのように変化するのかを、時間が許す範囲で議論する。
[1] G. Parisi, P. Urbani, and F. Zamponi, Theory of Simple Glasses, Cambridge University Press, (2020)
[2] H. Ikeda, PRL, 125, 038001 (2020)
[3] C. Brito, H. Ikeda, P. Urbani, and F. Zamponi, PNAS, 115(46), 11736 (2018)
[4] H. Ikeda, JCP, 158, 056101 (2023))
10:45-11:45 柳澤 実穂(東大総文) 細胞サイズ空間での高分子溶液の相転移から多分散/多成分系を再考する (Show abstract 生物細胞の機能の一部は、高分子の相転移と密接に相関している。例えば、クマムシなどが乾燥時に代謝を停止する乾眠はガラス転移と、ガン細胞のアメーバ様運動はゾルゲル転移と関連している。最近では、遺伝子発現制御を含む多様な生命機能と相分離との相関が注目されている。これら相転移現象は、高分子科学やソフトマター物理学にて研究されてきたが、使用する溶液量は一般にμL量以上であり、pL量程度である細胞サイズとは異なる。そこで我々は、細胞のように膜で覆われた液滴を用いて、空間サイズが高分子溶液の相転移へ及ぼす影響を解析してきた。その結果、細胞サイズに相当する小さな液滴内の高分子の振る舞いが、より大きな液滴内のものと異なることを見出した[1,2]。例えば、大きな液滴内では均一相を示す高分子溶液でも、小さな液滴内では相分離したり[3]、高分子の並進拡散が遅くなったりする[4]。この理由として、大きな系では無視できる高分子溶液の多分散/多成分性が、小さな液滴内では表面を覆う膜と高分子との相互作用を介して顕著化し、空間が不均一となることが挙げられる[4,5]。本講演では、大きな系で成り立つ平均場描像からはじめ、それが破綻する細胞サイズの描像と定量的な記述に向けた課題について述べる。また、時間が許せば、サイズが冪分布に従う超多分散な系の相転移[6]についても紹介したい。
1. M. Yanagisawa, Biophys. Rev., 14, 1093 (2022)
2. M. Yanagisawa, et al., Langmuir, 38, 11811 (2022)
3. C. Watanabe, ACS Mater. Lett., 4, 1742 (2022)
4. Y. Kanakubo, et al., ACS Mater. Au, 3, 442, (2023)
5. A. Nikoubashman & M. Yanagisawa, Polymers, 15, 511 (2023)
6. D. Shimamoto, M. Yanagisawa, Phys. Rev. Res., 5, L012014 (2023)
)
15:30-16:30 吉野 元(阪大サイバー) 深層ニューラルネットワークのアンサンブル理論 (Show abstract パーセプトロンを層状に連結した多層パーセプトロン(MLP)は深層ニューラルネットワークの雛形である。単一のパーセプトロンによる機械学習に関しては先駆的なGardnerらのレプリカ理論[1]に始まり詳細な統計力学的な解析がなされていた。最近我々はこれをMLPに発展させることに成功し、学習がネットワーク内で強い空間的不均一性を示すこと、ネットワークを深くして極端な過剰パラメータの状況にしても汎化性能が0にはならないことを明らかにした[2,3]。ただしこの汎化性能は決して高いものではない。その主な原因の一つが、(理論の簡単化のため)互いに全く無相関な、それゆえに非常に高い次元性を持つ訓練データを想定している点にあると考えている。そこで見かけ上は高次元だが低い有効次元を持ったデータを「隠れた多様体模型」[4]で人工的に生成し、これをMLPに学習させるシミュレーションを行ったところ、汎化性能は大幅に向上し、このデータの有限次元効果はネットワークの有限幅効果と非常に良く似ていることがわかった[3]。この結果から得られる理論への示唆はループ補正の重要性である。
[1] E. Gardner, J. Phys. A: Math. Gen. 21, 257 (1988), E. Gardner and B. Derrida, J. Phys. A: Math. Gen. 22, 1983 (1989).
[2] H. Yoshino, SciPost Phys. Core 2, 005 (2020).
[3] H. Yoshino, Phys. Rev. Research 5, 033068 (2023).
[4] S. Goldt, M. Mezard, Krzakala, and Zdevorova, Phys. Rev. X 10, 041044 (2020).)
16:30-17:30 長谷川 禎彦(東大情報理工) 量子熱力学不確定性関係,量子速度限界,そしてハイゼンベルグの不確定性関係 (Show abstract 熱力学不確定性関係は,微小系において精度を上げるためには,熱力学的コストを払う必要があるという関係式であり,近年盛んに研究されている.本講演では,行列積状態に量子確率過程をエンコードする方法を通して,量子確率過程の時間発展を閉じた量子系(ユニタリ時間発展)として表す方法を導入する.それにより,量子確率過程に対して,原理的には閉じた量子系で成立する任意の関係式が適用可能となる.これにより,量子熱力学不確定性関係,量子速度限界,そしてハイゼンベルグの不確定性関係の関係について議論する.)