開催概要
関西から世界へ挑戦する大学発スタートアップの創出をめざし、大学や産業界、金融界、自治体などが連携するプラットフォーム、「KSAC(関西スタートアップアカデミア・コアリション)」。2025年3月26日(水)、その取り組み内容と支援の成果を発表するデモデイが開催されました。
今回のデモデイでは、KSACが近年本格化させているグローバル展開にフォーカス。KSACの海外イベント参加者によるピッチや、欧州発アクセラレーターとの共同プログラムの紹介などが行われ、関西の魅力的な研究シーズを国内外へ発信する機会となりました!
【開会挨拶】
オープニングでは、大阪大学共創機構の中村和彦氏が開会挨拶を行うとともに、「挑戦する研究者への支援を通じて、挑戦の結果としての失敗に寛大な社会づくりをめざす」と、KSACが描くビジョンを語りました。
大阪大学共創機構 中村和彦 氏
その後、共同機関である公益財団法人大阪産業局の松出晶子氏が、KSACにおけるスタートアップ支援の取り組みを紹介。最後は、主幹機関の京都大学 藤吉優行氏により、KSAC-GAPファンドの説明と成果発表が行われました。
公益財団法人大阪産業局 松出晶子 氏
京都大学 藤吉優行 氏
【パネルディスカッション「関西発研究シーズの魅力とその取り組み」】
<パネリスト>
喜早ほのか 氏/トレジェムバイオファーマ株式会社 代表取締役社長
高橋俊一 氏/一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン事務局長 京都大学成長戦略本部フェロー
塚原伸介 氏/株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ スタートアップ戦略部長
<モデレーター>
八木信宏 氏/京都大学イノベーションキャピタル株式会社 執行役員・投資第一部長
最初のパネルディスカッションでは、関西の研究シーズの特徴や強み、またその事業化や海外進出における課題について、パネリスト4名が議論を展開。「①ぶっ飛んでる関西の魅力(研究開発を通じたシーズ創出)」、「②寄ってたかって関西エコシステム(事業化の支援)」、「③関西から世界へ(グローバル展開)」と、大きく3つのテーマで専門的な立場から意見交換が行われました。
トレジェムバイオファーマ株式会社 代表取締役社長 喜早ほのか 氏
一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン事務局長
京都大学成長戦略本部フェロー 高橋俊一 氏
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ スタートアップ戦略部長 塚原伸介 氏
京都大学イノベーションキャピタル株式会社 執行役員・投資第一部長 八木信宏 氏
最初の「ぶっ飛んでる関西の魅力」のテーマで例に挙がったのは、歯の再生治療薬を開発する喜早氏の事業。「核融合やペロブスカイト太陽電池なども含め、関西にはぶっ飛んだ研究に人生を懸ける研究者が数多くいる」と、関西の研究者たちが持つ底知れぬポテンシャルについて言及しました。また塚原氏は、「ITと異なり、ディープテックの種はアカデミアの世界にあるため東京一極集中にはならず、関西をはじめ地方にも点在している」との見解を提示。改めて関西とディープテックの関係性を強調しました。
続いての「寄ってたかって関西エコシステム」のテーマでは、主に研究シーズの事業化を支援するうえでの課題について討論。
高橋氏は、「製薬業界などの大企業が研究シーズへの投資を積極化することが重要だが、そのためには十分なエビデンスが求められる」と、現状の課題を紹介。これに喜早氏も同意し、「シーズの段階では投資に至らず、“PoCをしてから持ってきて欲しい”と言われてしまう」と、自身の実体験も語りました。
塚原氏は、過去に主催した自動車メーカーと技術系スタートアップとのマッチングイベントを例に挙げ、「本気の人たちを結びつけることで大きな相乗効果が生まれる」と、金融機関の新たな役割について考えを述べました。
パネルディスカッションの様子
3つめのテーマは、「関西から世界へ」。「アメリカをはじめ海外の投資家が出資したくなるものがユニコーン創出につながる」、「日本のアカデミア文化に根付く“学術と金儲けは別”という考えが障害になっている」などの意見が飛び交い、最初から世界をめざしてチームビルドすることの重要性についても語られました。
最後は、「ピボットを恐れず、世界をめざして一緒に取り組んでいきましょう」とのメッセージが贈られ、セッションは終了。起業をめざす研究者と、事業会社や公的機関などの支援者双方に、新たな視点と刺激を与えてくれるディスカッションとなりました!
【グローバル展開をめざす研究者によるピッチ】
次のピッチプログラムでは、今年度KSACが実施した海外プログラムへの参加者たちが登壇。5名の研究者がそれぞれの研究成果と、事業化に向けた展望を発表しました。各ピッチの後には、先のパネルディスカッションに登壇したパネリストによる質疑応答も行われました。
■小野寛太 氏
大阪大学大学院 工学研究科 物理学系専攻教授 博士(理学)
「AI・ロボット駆動型自律実験システムによる世界をリードするものづくり」
ピッチの様子
研究のための実験作業を自律的に行うAIロボットを開発する小野氏。「研究開発におけるAIの重要性が増しており、今後はリアルな作業工程にも活用が広がる」と展望を述べ、熟練者の暗黙知も取り入れた自律実験システムを紹介しました。
パネリストの塚原氏からは、「既存の研究手法のDXか、全く新しいプロセスの創出か、将来的にどちらをめざしていますか?」との質問があがるなど、期待値の高さを感じさせるピッチ内容でした。
■大島卓弥 氏
大阪大学大学院 医学系研究科 国際未来医療学講座 招へい教員
「高精度認知症診断AIアプリmaya-mind」
ピッチの様子
「認知症を早く発見して進行を遅らせることができれば、介護者の負担や社会的コストも軽減できる」と、認知症が持つ課題への提言から始まった大島氏のピッチ。認知症の初期診断の難しさについて説明した後、アイトラッキング技術とAIを組み合わせた新たな診断手法について解説しました。
パネリストの高橋氏は、「技術の特許化にもしっかり目を向けているので、将来的にスケールが期待できる」とコメント。事業のさらなる広がりと可能性を感じさせるピッチとなりました!
■村上達也 氏
富山県立大学 教授/京都大学 物質-細胞統合システム拠点 客員教授
「後眼部新生血管を標的とする光線力学療法用注射剤の開発」
ピッチの様子
欧米に多く見られる目の疾患、「加齢黄斑変性(nAMD)」の治療に新たな可能性を拓く村上氏の研究。従来の光線力学的療法(PDT)では、正常な血管にも損傷を与えることがあるため、同氏はその予防薬剤を開発しています。患者が欧米に多いという背景により、最初から海外市場を視野に入れている点も本研究のポイント。
これに対しパネリストの喜早氏は、「患者と医師、双方の負担軽減につながる」と研究内容を高く評価しました。
■藤田克昌 氏
大阪大学大学院 工学研究科 教授
「凍結細胞の非破壊観察:細胞産業の発展の基盤に」
ピッチの様子
細胞の凍結は、あらゆるバイオ産業において不可欠な工程の1つ。藤田氏は、非破壊かつ狙ったタイミングでの細胞凍結を可能にする冷却技術と観察手法を開発しています。将来的には分析サービスなどへの展開も視野に入れ、「細胞を安全に効果的に、どこでも利用可能に」というビジョンを語りました。
研究技術の大きな進歩を期待させるピッチに対し、パネリストの高橋氏も、「創薬分野での活用の可能性は?」といった質問を投げかけるなど、高い関心を寄せていました!
■廣谷潤 氏
京都大学大学院 工学研究科 マイクロエンジニアリング専攻 准教授
「高性能熱マネジメントプロダクトによる熱課題解決グローバルスタートアップの創出」
ピッチの様子
「いずれ世界一になる熱の専門家」という印象的な自己紹介で始まった廣谷氏のピッチ。世界各地で建設されているデータセンターがCO2の大きな排出源となっていることを紹介し、自身が開発する熱制御技術でその解消をめざすというビジョンを語りました。
塚原氏からは、「ニーズのある領域であり、かつトレンドの先を走っているので魅力的。プロダクトの販売以外にも、データビジネスやコンサルなど、いくつかビジネスモデルが考えられる」と、期待のコメントが寄せられました。
【Founders Launchpad Program参加者によるピッチ】
最後のプログラムは、京都大学と欧州発アクセラレーター「Inovexus」とが連携し、スタートアップのグローバル展開を支援する「Founders Launchpad Program」参加者によるピッチです。
まずはInovexus JapanのChelsilia Tanzil氏が、「イノベーティブな技術や起業家精神に国境はない」という印象的な言葉を交えてプログラムの概要を説明。その後、2人の起業家が英語でピッチを行いました!
■松本凌 氏
京都大学イノベーションキャピタル株式会社 EIR
「Overcoming Challenges in the Bio-Industry with Innovative Sensing Technology」
ピッチの様子
「子どもの頃は夏に虫取りや泥遊びをして遊んだが、近年は温暖化で外遊びが危険になっている」との問題提起で始まった松本氏のピッチ。同氏はCO2排出の少ないバイオものづくりの普及をめざし、微生物の状態を低コストでモニタリングできるセンサーを開発しています。
ピッチの最後には、バイオものづくりによるイノベーションを模索する企業や技術の社会実装をめざす研究者に向けて、「一緒に未来を作りましょう!」と力強く呼びかけました。
■Luc Zhang 氏
「Spongy Monolith Technology: Transformative Separation Innovation Driving Drug Development」
ピッチの様子
続いて登壇したLuc Zhang氏は、スポンジ状分離剤を用いた新たな創薬技術を披露。「AIの発展で新たな化合物の発見はスピードアップしているが、その恩恵が患者に届いていない」と問題を提起し、創薬研究の初期段階から医療現場での実用までの期間を短縮できる事業モデルを発表しました。
最後は、「これから起業に向けた動きを本格化するため、ぜひ経営メンバーに加わって欲しい」と、来場者のみなさんに熱量高く呼びかけました。
以上で全てのピッチが終了。再び登場したChelsilia Tanzil氏は、「コラボレーションこそがイノベーションの未来を築くので、ぜひみなさんも支援の輪に加わってください」と、ピッチプログラムを締めくくるメッセージを贈りました!
【閉会挨拶・ネットワーキング】
全てのセッションが終わり、閉会挨拶では、「市場のディープテックへの理解が深まるよう努め、可能性のあるシーズに正しく投資される環境を作りたい」と、京都大学の木村俊作氏によって今後のビジョンが語られました。
京都大学 木村俊作 氏
閉会挨拶の後は、来場者と登壇者が大学や企業の垣根を越えて交流。支援のネットワークが広がる場となりました!
ネットワーキングの様子
今後もKSACは、このモメンタムを継続させ、関西の優れた研究シーズを世界的なディープテック企業へと飛躍させる取り組みに力を入れていきます。引き続き、KSACの活動とその成果にご注目ください!
イベント概要
KSAC DEMO DAY NEXT PIONEER 2025 -挑戦する次代の研究者たち-
開催日時 2025年3月26日(水)14:00~18:00