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直線と超平面
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直線と超平面
「細長い」を辞書で調べると、「細くて長い 」としか書いていない。しかしこの定義は正しくない。棒を例に取ってみよう。
細長い棒
細い棒
長い棒
どれも問題なく言える。だが、長さ 100cm、太さ 10cm の棒と、長さ 80cm、太さ 4cm の棒とでは、どちらが細長いだろうか。
多くの人は、下の棒のほうが細長いと考えるだろう。だが下の棒は「細くて長い」ではない。上の棒のほうが長いからだ。「細長い」とは、棒の長さと太さを考えるとき、太さに対する長さの比が大きいということであって、必ずしも細くて長いのではないのだ。上の棒は長さ 100cm、太さ 10cm なので比は 10、下の棒は長さ 80cm、太さ 4cm なので比は 20、だからこそ下の棒のほうが「細長い」と言えるのだ。
次に、棒ではなく石ではどうだろうか。
細長い石
* 細い石
* 長い石
アスタリスクは誤りを表す。「細い石」や「長い石」とは言えないのに、「細長い石」とは言える。
1 次元的な形状を考えよう。1 次元的とは、一方向の寸法が、それと垂直方向の寸法より大きい形のことだ。前者の寸法を長さ、後者の寸法を太さとする。例えば、棒、ひも、鉛筆は 1 次元的だ。「細い」とは、この 1 次元的な物の太さが小であるということであり、「長い」とは、長さが大であるということだ。つまり、「細い」、「長い」、および反意語の「太い」、「短い」は、そもそも 1 次元的な物にしか使えないのだ。石は通常、1 次元的ではないので、これらの形容詞は使えない。ところが「細長い石」とは言える。これは「細長い」に、形状が 1 次元的だという意味があるからである。したがって、「細長い」を辞書で説明するなら次のようになる。
一方向の寸法が、それと垂直な方向の寸法より大きい形だ。
そのような形で、寸法の比が大きい。
「長い」、「短い」、「太い」、「細い」は大きさを表す形容詞だが、「細長い」は形を表す形容詞なのだ。長さや太さの基本単位は m ( メートル ) だが、細長さは比なので無次元量(単位が無い)である。
2 次元的な形状、すなわち二方向の寸法が、それと垂直方向の寸法より大きい形を表す形容詞は、「平たい」である。この小さい方向の寸法が大なのは「厚い」、小なのは「薄い」である。「厚い」、「薄い」もまた、元々 2 次元的な物にしか使えない。
整理すると次のようになる。
次元 形容詞 方向 助数詞
大 中 小
1 細長い 長い 短い 太い 細い 厚い 薄い 本
2 平たい 大きい 小さい 厚い 薄い 枚
3 - 大きい 小さい 個
1 次元的な物は通常、長さと太さだけだが、帯やベルトは厚さもある。この場合、方向は大、中、小がある。
以上は 3 次元の中で考えていたが、他の次元に目を向けると本質が見えてくる。2 次元での形状を見てみる。
左は「細長い字」であり、右は「平たい字」だと言える。前章では「平たい」は 2 次元的(二方向が大きい)の意味だと述べたが、実はそうではなく、n - 1 次元的(一方向が小さい)という意味なのである。3 次元空間では「細長い」と「平たい」は別物であるが、2 次元空間では両者は意味が近づく。一方向に大きいことと一方向に小さいことは、向きの違いに過ぎなくなるからだ。字は、縦方向が軸だと考えられるので、「平たい字」があり得る。
では 4 次元空間ではどうだろうか。無限に延びる 3 次元図形(立体)は、4 次元空間を二分する。ちょうど直線が平面を二分し、平面が空間を二分するのと同じだ。このような n - 1 次元の図形を超平面と呼ぶ。超平面は一方向の大きさが 0 である。すなわち、4 次元空間内の 3 次元図形は平たいのだ。
参考文献:
久島 茂、≪物≫と≪場所≫の意味論、くろしお出版、2002、ISBN 4-87424-257-X
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