Deprecated: The each() function is deprecated. This message will be suppressed on further calls in /home/zhenxiangba/zhenxiangba.com/public_html/phproxy-improved-master/index.php on line 456 黒い黒猫思索の遊び場 > 高杉親知の日本語内省記 > 黒い黒猫
黒い黒猫
日本語の「(一匹の)黒い猫」に対応する英語の句は "a black cat" だと普通は思うだろう。「一匹の」が "a"、「黒い」が "black"、「猫」が "cat" ですべて一対一の対応をしているので、両者は同じ構造を持っているように見えるからだ。だが実は両者は異なる。
例えば日本語で「(一台の)走っている車」は "a running car" となる。これも一対一の対応をしているので同じ構造のように見える。ところが「通りを走っている車」を意味する英語の句は "a car running on a street" である。語順が全く逆になってしまう。「通りを走っていた車」になると "a car that was running on a street" となり、英語の句の構造がはっきりする。要するにこれは関係節だ。関係節の語順は、言語の基本語順が影響する。日本語は主要部後行 (head-last)、英語は主要部先行 (head-first) といい、句の重要な部分が日本語では最後に来、英語では最初に来る。だから関係節も、日本語では名詞が最後に来、英語では最初に来る。
そして同じことが「黒い猫」にも言える。「黒い猫」は確かに英語と同じような形容詞と名詞の組み合わせのように見えるが、実際は「走っている猫」と同じように、述語と名詞の組み合わせなのだ。日本語で形容詞 + 名詞が関係節だと言えるのは、日本語では形容詞が動詞に似て述語になれること、主要部後行型であること、関係節が関係代名詞を必要としないことの三点から来る。だから、「(その)猫は黒い。」という文から「黒い猫」という関係節を作るのは簡単だ。日本語母語話者なら、「黒い猫」と「毛が黒い猫」に大差は感じないだろう。英語だと、"The cat is black" から関係節を作ると (ついでに定冠詞をはずすと) "a cat that is black" になる。つまりこれが「黒い猫」の直訳なのだ。「毛が黒い猫」の直訳の "a cat whose hair is black" との類似も感じられるだろう。これを "a black cat" と言ったらもはや関係節ではない。形容詞 "black" が必要とする動詞 "be" がないからだ。構造が全く異なってしまう。
では英語の "a black cat" に対応する日本語は何だろう。もちろん「黒い猫」が意味的には対応するが、実は別の構造を持った句のほうが似ているのだ。それは「黒猫」である。英語の形容詞は活用しないし、述語になるためには "be" が必要なため、日本語の観点ではほとんど名詞と同じと言って良い。そのため "a black cat" という句を "black" と "cat" という語が単純に連なったものと捉えても間違いではない。つまり "a black cat" は "a cat that is black" よりも "a Cheshire cat" (チェシャー猫) という語に近いのだ。「黒い猫」は単に色が黒い猫で、「黒猫」は猫の一種としての黒猫である。英語では両者を区別できない。
これを見て分かるが、「黒い黒猫」という句は日本語では何も問題がないが、英語では "a black black cat" となり変である。中国語では「很黒的黒猫」となり問題ない。ちなみに、英語でも「黒い板」と「黒板」は区別できる。前者は "a black board"、後者は "a blackboard" だからだ。「黒い黒板」は "a black blackboard" となるが、問題ない。