英郵便局スキャンダル、被害者救済に新展開 富士通は下院で証言へ

イギリスの郵便局の看板

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「イギリス史上最大の冤罪(えんざい)事件」と呼ばれる郵便局スキャンダルが、新たな局面を迎えている。ケヴィン・ホーリンレイク郵便担当相は9日、有罪となった郵便局長らの上訴を迅速化する計画を「間もなく」明らかにすると発表した。一方、郵便局に会計システムを提供していた富士通は来週、下院で証言する予定となっている。

ホーリンレイク氏は、富士通を含め、この事件で責任を負うと判断された者は、被害者補償の支払いなどにも当たるべきだとの見解を示した。

この事件では、1999年から2015年に、700人以上の郵便局長が横領や不正経理の無実の罪を着せられた。窓口の現金とシステム上の記録額が合わなかったためだったが、実際の原因は、富士通の会計システム「ホライゾン」の欠陥だった。

冤罪により、地域の郵便局の窓口業務を担っていた人々が、支店口座の不足額を埋め合わせるために借金したり、横領罪で収監されたりした。

しかし、これまでに有罪判決が取り消されたのはわずか93人にとどまっている。「全面的かつ最終的な」補償で和解した人は30人のみとなっている。

一方、54件では有罪が維持されたり、上訴が認められなかったり、上訴を諦めたりしている。汚名をそそげないまま死去した人も少なくない。

事件をめぐっては、2021年2月から公聴会が続いている。また、英民放ITVが年始にこの事件を題材にしたドラマを放送し、再び注目が集まっている。

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ホーリンレイク氏は、郵政の窓口業務を担当する会社「ポスト・オフィス」が、有罪を覆すための道筋を模索していると説明。これには立法措置の可能性も含まれるとした。

その上で、週末にも詳細を発表できるだろうと述べた。

ホーリンレイク氏はこの日、アレックス・チョーク司法相と協議。チョーク氏はさらに上級判事らと会談し、可能な解決策を模索した。

ポスト・オフィスの権限にも捜査

このスキャンダルをめぐっては、これまで個別の上訴しか認められてこなかった。

しかし閣僚経験者のサー・デイヴィッド・デイヴィス議員は8日、「この件に関する全ての裁判は、郵便局長以外は誰もコンピューターにアクセスできなかったという、うそに依拠している。そして我々は今、それが真実でないと知っている。だから、集団訴訟や集団上訴ができない本当の理由、論理的な理由は何もない」とBBCのインタビューで主張した。

最大野党労働党の党首で公訴局の長官も務めたサー・キア・スターマーは、すべての有罪判決を見直す必要があり、ポスト・オフィスから起訴権を取り上げるべきだと述べた。

イギリスでは、政府が100%所有するポスト・オフィスが、イングランドとウェールズでの郵便局長に対する訴訟で検察の役割を担い、同社が任命した法律家らが証拠を提出した。

ロンドン警視庁は、起訴に起因する詐欺罪の可能性についてポスト・オフィスを捜査していると発表した。

リシ・スーナク政権も、ポスト・オフィスが裁判所を通して元従業員をの責任を追及した事態を受け、私的訴追に関する規則の変更を検討している。

一方、事件に関する活動家らは、ポスト・オフィスが元郵便局長の有罪判決に対する上訴に参加しないよう求めた。

民放ITVのドラマ「ベイツ氏とポスト・オフィス」の出演者たち。郵便局長に対する冤罪事件の解決を求める活動の横断幕を掲げている

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民放ITVのドラマ「ベイツ氏とポスト・オフィス」の出演者たち

「勢いを保ちたい」

ITVのドラマでは、正義を求めて活動を続けていた元郵便局長のアラン・ベイツ氏を、俳優トビー・ジョーンズ氏が演じた。ベイツ氏本人はBBCに対し、「解決」が「近づいた」と信じていると語った。

ベイツ氏は、ここに至るまでにかかった年月は「フラストレーションのたまる」ものだったと語った。また、ITVの番組によって「より多くの視聴者」が何が起こったのかを理解できるようになったと付け加えた。

「政府にとって最も重要なことは、この金銭的救済を一刻も早く実現させることであり、待つことでも、何度も何度も弁護士にお金を使うことでもない」

「私たちはまだプレッシャーをかけ続け、人々を後押しし、物事を動かし、勢いを保ち続けなければいけない」

「活動を始めてからすでに60人か70人を失った。人々は人生をやり直す必要があり、けじめをつける必要がある」

やはり元郵便局長で、スキャンダルによって収監されたトレイシー・フェルステッド氏は、「誰かが責任を負ってほしい」と語った。

「私たちはポスト・オフィスから犯罪者扱いされた。誰が何を知っていたのか、なぜ、いつ、このようなことが起こったのか、今度は向こうが捜査される番だ」

元郵便トップが勲章を返還

こうした中、2012~2019年にポスト・オフィスの最高経営責任者(CEO)を務めていたポーラ・ヴェネルズ氏が9日、勲章を返還すると発表した。同氏をめぐっては、勲章を剥奪するよう求める署名が100万筆を超えていた。

ヴェネルズ氏の在任中、ポスト・オフィスはホライゾン・システムに問題があったことを繰り返し否定していた。ヴェネルズ氏本人は、このスキャンダルにおける役割について長い間、疑問視されていた。

ヴェネルズ氏は2019年の新年の叙勲で、ポスト・オフィスや慈善事業への貢献をたたえられ、コマンダー(CBE、司令官)の称号を得た。元郵便局長ら555人が同社に対して集団訴訟を起こしている最中だった。

2017年に始まったこの集団訴訟は2019年12月、ポスト・オフィスが計5800万ポンド(約90億円)を支払うことで和解している。

ヴェネルズ氏は声明で、元郵便局長や他の人々が勲章を返上するよう求めていることに「耳を傾けた」と述べた。

「ホライゾン・システムの結果、不当に告発・起訴されたことで人生を引き裂かれた郵便局長とその家族に与えた惨状を本当に申し訳なく思っている」

首相官邸は、同氏が勲章を返還したのは「当然ながら正しい決定」だと述べた。