KX-HV210の日記: 腐臭日記(4)
サービス業において、最悪な事態とは顧客に無駄な時間を使わせることである
当然といえば当然な話なのだが、たとえば顧客が求めた商品が在庫になければ、機会損失になってしまう。サプライチェーン管理が高度化した今日でさえ、在庫不足で顧客を逃す危険を冒すよりも、過剰在庫を抱える危険を冒すほうがマシである
しかし、本質的に有形的なモノを給付するわけではない銀行業が、顧客の時間損失に対して極めて無神経であるのは、極めて驚愕すべき事態である。今日、市役所においても市民の行政サービスに対する「満足度」を上げるために、窓口業務の合理化や大都市ではコールセンターの設置を行っている自治体すら存在するというのに、単に住所変更や印影変更だけで40分近く待たされるなどという事態は、一般的な営利企業であればとっくに倒産していてもおかしくない
事実上の超過債務で半永久的に国有化されたりそな銀行ですら、自行の銀行員に対してローン返済支援のための特別融資を行っている。これは他の4大金融グループでも同じで、削減された給与を穴埋めするための融資なのだが、通常の融資よりもはるかに低い金利で行われている。通常であれば、この主の融資は一般的な融資水準との金利差を費用計上すべきだと思うのだが、そんなことはおそらくどこもやっていないだろう。何しろ、彼らは「銀行員に貸し出しをすれば返済するのは確実だ」ということしか頭にないだろうから
真にコスト意識に優れた銀行とは、顧客サービスに優れた銀行である。と、何年も思っているのだが、システム統合やらチャネルの拡大だとか、商品ラインの拡大に忙しい銀行にとっては、あまり考えが及ばない領域のようだ。「ハンマーを持っている人間には、すべてが釘に見える」というが、巨大な縦割り官僚組織である銀行では、顧客と直接接する営業部門や窓口などは、人間扱いされない人種が働く場所である・・・という意識が、戦後の銀行大衆化以降ずっと続いている。その窓口の先にいる顧客が、どのように思われているか、と言えば考えるだけで恐ろしい。実際、過去には営業成績を達成するために顧客を惨殺した銀行員がいた
さて、表のストーリに掲載されている銀行基幹系にLinux利用という記事だが、実はこの話は日経コンピューター6月1日号にも触れられいていた話だ。UFJ銀行は、現在SMBC系の日本総合研究所(JRI)と共同で情報系での振込前処理のためのパッケージを共同開発している
UFJの振込システムは、数万本のJCLやCobolで記述された巨大なもので、仮想MT装置を含めると4台の日立製大型メインフレームで処理している。みずほ銀行の基幹系障害で薄れている感じすらあるが、UFJ銀行の基幹系障害(昨年1月)で数万件の引き落とし処理の遅れを生じさせたのは、このシステムである。これをJRIとともにJavaベースで刷新する計画が今年から進められているのだが、UHS(UFJ日立ソフトウェア・・・UFJ銀行の勘定系システムを運用代行している日立系企業)などは、将来的にはIA-64ベースのLinux機での稼動を想定しているという
コレ自体タレコミをしなかったのは、もちろん謹慎中(?)というのもあるんだが、何かにLinuxが採用された・・・というのはそろそろニュースとしての価値がなくなってきているのではないかな、と思ったからだ。もちろん、UFJのような70兆円規模の巨大金融機関の基幹系システムで、Linuxがメインフレームの牙城であるバッチ処理の領域を侵した、というのはそれはそれで意味のあるニュースなのかもしれないが、現状から言えば金融機関でのメインフレームの衰退は今に始まった話ではない
たとえば、今年1月に稼動した肥後銀行の新基幹系システムは、前のシステムから情報系はUNIX上で稼動しており、メインフレームは勘定系くらいしか残っていない。また、やはり今年稼動したBTMの新海外システムは、メインフレームベースだった旧東京銀行のシステムをAIXベースに刷新している。こういった、ミッションクリティカルシステムに対して、オープン系システムが採用されるということは、別に珍しくもなくなっており、信頼性が向上しS/390系システム上でも稼動するLinuxが現れている現在、Linuxが情報系や勘定系に採用されることは必然的ともいえるではないだろうか
ただ、この種のニュースに関心がある人たちにとっては、次のような疑問が生じるだろう。一つは、エンタープライズシステムにおけるOSSのサポート体制が実際のところどの程度あるのかという点だ。たとえば、IA-64系システムの拡販に積極的なHPQ、NEC、UNISYSといったメーカーでも、HPQはHP-UXを、NECとUNISYSはWindows(64bit)をメインとして、Linuxはそれの次ぐという位置づけに過ぎず、エンタープライズユーザーの関心のある「ミドルウェア対応しているのか」「動作検証サービスはあるのか」といった本質的な対応状況がイマイチ明らかではない、という点がよくわからないのだ
第二には、たとえ導入支援体制や運用支援体制が確立されていたとしても、それによってもたらされるコストが、従来のメインフレームやUNIXと比較してどれくらい安く出来るのかについて、事例があまり存在しない点だ。興味深いのは、かつてマイクロソフトは、基幹系システムにNTを採用した場合に、UNIXやメインフレームとの価格競争力に関して(内容は噴飯モノだったのだが)、それなりの説得力のある調査を行っていたところだ。
これに対して、OSSを基幹系システムに採用するというメリット自体は、一般には抽象的に捕らえられている。行政システムの場合なら、開発プロセスをオープンにできるとか、エンタープライズシステムなら、イニシャルコストを削減できるとか、そういったところだが、情報システムに対する企業戦略の一つとして、OSSを採用するメリットというのは一般には非常にわかりにくい。UFJの場合には、実際にベンチマークを取ってみて、他のプラットフォームに比べて信頼性やパフォーマンスが優れている、という結果が最終的に「10年後には基幹系システムの大部分でIA-64ベースのLinuxシステムを採用する」という経営レベルでの決定(持ち株会社の役員会決定)につながった訳なのだが、そういう意味で考えると意義のある話なのかも知れないと思う
まぁそれはそれとして、LSATが近づいているわけなのだが、やる気が出ない今日この頃だ